やっとの思いで恵理さんたちから解放してもらった僕は、もう精根尽き果てた気分でテントに戻ってきた。
「お帰りなさい、元希さん。大丈夫ですか?」
「バエルさん……ちょっと大丈夫じゃないかもしれないです……」
倒れそうになったところを、バエルさんに支えてもらって、漸く僕は寝袋にたどり着いた。
「いったい、何をしたらここまで疲れ果てるんです?」
「色々ありまして……」
バエルさんなら、話を聞いた途端に襲いかかってくるなんて事はないだろうから、僕は不審者を転移させた後の事をバエルさんに話す事にした。
「――というわけです」
「それは……大変でしたね」
「魔力は回復しましたけど、その分気力と体力が消耗した感じですね」
こんなことを言えば、同性に怒られるかもしれないけど、もう当分キスはいいかな……するたびに気力と体力を奪われる感覚に陥るから、魔力が回復しても結局は疲れてる事には変わらないしね。
「まさか一日に五人にキスされるとは思ってなかったので、ちょっと疲れました……晩御飯まで寝ます」
「そうですか。ゆっくりとお休みください」
バエルさんに優しく包まれるような声でそう言われ、僕は一気に眠りの世界へと落ちて行ったのだった。
誰かに揺すられ、僕はゆっくりと目を覚ました。
「おっ、やっと起きた」
「炎さん? あれ、何か用ですか?」
「もうすぐ飯だから、顔洗ってさっさと準備してくれってさ」
「もうそんな時間ですか……」
ついさっき寝た感じだが、確かにあれから一時間くらい過ぎていた。まだ体力は回復してないけど、ご飯を食べなきゃ更に回復しないだろうしね。
「何でそんなに疲れてるんだ? 帰りは美土に背負ってもらって、殆ど歩いてないだろ」
「魔力が回復した分、気力と体力が消耗した感じなんですよ」
「そうなのか? 元希くらいの歳なら、キスしたら喜んで普段以上の力を出せそうなんだがな」
「知りませんよ、そんなこと……」
だいたい、僕も炎さんも、同年代の男子の知り合いなんて殆どいないじゃないですか……自分で思って情けないな……
「我妻も、たぶん元希と同じこと言うかもしれないが、他の連中はきっとあたしの思ってる通りだと思うぞ」
「健吾君はね……あんまりそう言うことに興味が無いって言ってたもんね」
唯一と言ってもいい同性の知り合いである健吾君は、僕に似た考えを持っている為参考にならないようだ。今度聞いてみようと思ったけど、同じ答えなら別に良いかな。
「とにかく、さっさと顔洗って食堂に来いよ」
「分かりました」
テントから出ていく炎さんを見送って、僕は欠伸を一つしてから寝袋から出た。顔を洗うにしても、とにかくこの眠い目を開かなければ歩くことも出来ないしね……いや、歩くことは出来るか。ものにぶつかる恐れがあるけど。
「くだらない事考えてないで、さっさと顔洗いに行こう」
自分で自分にツッコミを入れて、僕は眠い目を擦りながらお風呂場へと向かった。水を使うなら、あそこか調理場しかないもんね。
バエルさんが唯一の癒しになりかけてる気が……