その少年全属性魔法師につき   作:猫林13世

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歴史のある家にも、色々あるのです……


大家の事情

 炎さんたちが手伝いに来てくれたおかげで、掃除は思ってたより早く終わった。掃除が終わった事で、僕たちは買い出しに行く時間を捻出することが出来たのだ。

 

「買い出しって言っても、校内にある販売所なんだな」

 

「炎さんたちは殆ど利用しないもんね」

 

 

 使っているのは、寮生の僕たちか、夜遅くまで仕事で残っている先生たちくらいだ。だから学園で作った野菜などは、他所で売っているのが殆どで、販売所に残っているのは、形が悪かったり規格外だったものが多い。もちろん、それでも問題なく食べられるので、僕たちは普通に購入している。

 

「誰もいないぞ?」

 

「無人販売だからね。ここにお金を入れて野菜を買うんだ」

 

 

 さすがにお肉とかは無人販売していないので、保管されている食堂で買い求めるのだが、野菜はこうして無人販売しているのだ。

 

「黙って持ってくやつとかいないのか?」

 

「ちゃんとカメラがあるから、黙って持って行っても後日お金を請求されるだけだよ」

 

「意外としっかりしてるんだな」

 

「当たり前でしょ。農業科の人たちだって苦労して作ってるんだから、それを持っていかれるのを防ぐのは当然の対応だと思うよ」

 

 

 畜産科などもあるらしいが、この敷地内にあるのは魔法科と普通科、そして少し離れたところに農業科があるだけだ。そう考えると、霊峰学園って幅広いんだなって思う。

 

「とりあえず必要なものはこれで全部か?」

 

「お肉屋お魚はバエルさんたちが買いに行ってるから、僕たちの分はこれで終わりだね」

 

「それじゃあ、さっさと帰ろうぜ。今日はあたしたちも食べていくから」

 

「別にいいけど、陣地を引き払ったばかりなんだし、今日くらいは家族と一緒に――」

 

「元希、それ以上は言うな」

 

 

 普段の炎さんとは違う雰囲気に、僕は言葉を飲み込んだ。家族仲は悪くないと聞いていたけど、何か問題でもあるのだろうか……まぁ、家族の事は僕にはよくわからないし、踏み込んでほしくない事もあるだろうしね。

 

「そう言えば元希、お前の出自は結局よくわからなかったのか?」

 

「そうなんだよね……研究所で生まれたのは確かなんだけど、それが一から作られたのか、それとも誰かに産ませてから調整したのかがさっぱりなんだ。リーナさんが調べてくれてるんだけど、それ以外にも調べる事が出来ちゃったから、また時間が掛かると思うよ」

 

 

 もうあんまり気にしないようにしてから、その事は僕の思考を占める割合がだいぶ減ったのだ。みんなに受け入れてもらった事が、やはり大きいんだろうな。

 

「あのな、元希……あたしたちも多かれ少なかれ弄られているんだから、そんなに気にする必要は無いぞ」

 

「弄られている? それってどういう……」

 

「おっと。元希は知らないのか。じゃあ気にする必要は無いぜ。今の話は忘れてくれ」

 

 

 そう言って炎さんは走って早蕨荘まで行ってしまう。それにしても、弄られているという単語が、僕の中でだんだんと大きくなっていき、寮へ戻るまでの道のりは、ずっとその事を考えていたのだった。




事情は次回くらいに

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