炎さんたちが手伝いに来てくれたおかげで、掃除は思ってたより早く終わった。掃除が終わった事で、僕たちは買い出しに行く時間を捻出することが出来たのだ。
「買い出しって言っても、校内にある販売所なんだな」
「炎さんたちは殆ど利用しないもんね」
使っているのは、寮生の僕たちか、夜遅くまで仕事で残っている先生たちくらいだ。だから学園で作った野菜などは、他所で売っているのが殆どで、販売所に残っているのは、形が悪かったり規格外だったものが多い。もちろん、それでも問題なく食べられるので、僕たちは普通に購入している。
「誰もいないぞ?」
「無人販売だからね。ここにお金を入れて野菜を買うんだ」
さすがにお肉とかは無人販売していないので、保管されている食堂で買い求めるのだが、野菜はこうして無人販売しているのだ。
「黙って持ってくやつとかいないのか?」
「ちゃんとカメラがあるから、黙って持って行っても後日お金を請求されるだけだよ」
「意外としっかりしてるんだな」
「当たり前でしょ。農業科の人たちだって苦労して作ってるんだから、それを持っていかれるのを防ぐのは当然の対応だと思うよ」
畜産科などもあるらしいが、この敷地内にあるのは魔法科と普通科、そして少し離れたところに農業科があるだけだ。そう考えると、霊峰学園って幅広いんだなって思う。
「とりあえず必要なものはこれで全部か?」
「お肉屋お魚はバエルさんたちが買いに行ってるから、僕たちの分はこれで終わりだね」
「それじゃあ、さっさと帰ろうぜ。今日はあたしたちも食べていくから」
「別にいいけど、陣地を引き払ったばかりなんだし、今日くらいは家族と一緒に――」
「元希、それ以上は言うな」
普段の炎さんとは違う雰囲気に、僕は言葉を飲み込んだ。家族仲は悪くないと聞いていたけど、何か問題でもあるのだろうか……まぁ、家族の事は僕にはよくわからないし、踏み込んでほしくない事もあるだろうしね。
「そう言えば元希、お前の出自は結局よくわからなかったのか?」
「そうなんだよね……研究所で生まれたのは確かなんだけど、それが一から作られたのか、それとも誰かに産ませてから調整したのかがさっぱりなんだ。リーナさんが調べてくれてるんだけど、それ以外にも調べる事が出来ちゃったから、また時間が掛かると思うよ」
もうあんまり気にしないようにしてから、その事は僕の思考を占める割合がだいぶ減ったのだ。みんなに受け入れてもらった事が、やはり大きいんだろうな。
「あのな、元希……あたしたちも多かれ少なかれ弄られているんだから、そんなに気にする必要は無いぞ」
「弄られている? それってどういう……」
「おっと。元希は知らないのか。じゃあ気にする必要は無いぜ。今の話は忘れてくれ」
そう言って炎さんは走って早蕨荘まで行ってしまう。それにしても、弄られているという単語が、僕の中でだんだんと大きくなっていき、寮へ戻るまでの道のりは、ずっとその事を考えていたのだった。
事情は次回くらいに