冬休みに入り、僕たちはゆっくりと身体を休め――ることはせずに、解放されている体育館を使い特訓を続けていた。この間倒れた事を反省してか、前ほどがむしゃらには特訓せず、恵理さんと涼子さんが定めた魔力使用制限をしっかりと守りながら、最終当校時間まで学校に残るという感じになっている。
「そう言えば元希、例の件はどうなったんだ?」
「例の件って?」
炎さんに尋ねられたけども、僕には何のことだかさっぱり分からなかった。そもそも思い当たる件が多すぎて、どれの事だかさっぱりだったのだ。
「前教頭の件だよ。見つかったのか?」
「ううん、目撃情報もないし、気配を探ってみても全然見つからない……もしかしたら恵理さんたちが言ってるように、もう殺されちゃったのかもしれないけど」
死体に気配などないので、探そうとしても見つからないのだ。だが、そうだとしたらとっくに死体が見つけられて報道されていても不思議ではないくらいの時間は経っている。それが無いと言う事は、まだ生きているのか、それとも余程厳重に死体を隠しているのかのどちらかだろう。
「別にあの人がどうなろうがしったこっちゃないが、またあたしたちに迷惑を掛けてくるようなことは止めてもらいたいぜ」
「そうですわね。私たちの家が日本政府側に付くと公言してしまった以上、元希様にちょっかいを出してきても公には動けませんし」
「わたしたち個人なら問題ないと思うますよ。わたしたちの家は日本政府側に付くと申し上げましたが、わたしたち個人はまた別ですから」
「その解釈も苦しいと思うけど、ボクたちは元希君の味方だからね」
炎さんたち個人は、僕や恵理さんたちの味方をしたいと言ってきてくれるので、結構心強いのだ。だけど家の決定に逆らえば、みんなもただでは済まないと思っているので、そうならなければいいなと最近切に願っているのだ。
「さてと、そろそろ休憩にしようぜ。これ以上続けても疲労がたまるだけだしよ」
「敵のレベルを上げると、やはり厳しいですわね……」
「でも、何時までも弱い相手で練習していても仕方ありませんし……」
休憩の為に体育館から早蕨荘へ帰る途中、僕の足下をピョンピョン跳ねる生物が現れた。
「アマ? どうかしたの?」
水と一緒に近くの村で代理神を務めているはずのアマがやって来たので、僕は何かあったのだとすぐに理解し、アマが加えている紙を受け取る。
「これは水からの手紙? ……炎さん、悪いけど僕は午後の特訓には付き合えなくなった」
「何かあったのか?」
「水がいる村に日本政府の人間が来たらしい。どうやらこちらの動向を探ってるようだって書かれてる」
「それでしたら、私たちも一緒に……」
「まだ巻き込むのは早いと思う。全面対決にはならないと思うし、出来るだけみんなには家族と対立してほしくないからね」
僕が家族というものを知らないから思うのかもしれないけど、みんなには家族を大事にしてもらいたいのだ。僕はみんなに思い止まるよう念を押し、理事長室へと走るのだった。
まぁ、なにも無かったら話にならないですし……