どんなに慌てていても、理事長室に駆け込むなんて失礼な事をしないように、僕は理事長室手前の廊下で進む速度を落として、息を整えて理事長室のドアをノックする。
「東海林です」
『入っていいわよ』
恵理さんから返事が来たので、僕は「失礼します」と声を掛けて扉に手を掛ける。
「待ってたわよ、元希君」
「恵理さん、待ってたということは、やっぱりアマが持ってきたメモに書かれてた事は事実なんですね」
僕は持ってきたメモを恵理さんに手渡し、事実かどうかの確認をした。
「元希君には優秀な使い魔がいるのね……」
「恵理さんたちはどうやって知ったんですか?」
「気配探知で気になる気配が引っ掛かったから、式を飛ばして確認したのよ」
「なるほど」
気配探知範囲があの村まで及ぶことに驚きだが、今はそんなことを気にしてる場合ではない。
「日本政府の目的はいったい……」
「今まで通りの嫌がらせなのか、それとも本格的に攻撃を仕掛けてくるのか……とにかく、やつらには水を討とうとした過去があるから、一応確認しに行く予定だったのよ」
「じゃあ僕も――」
「今回は私と涼子ちゃんの二人で行くから、元希君は私たちからの連絡を待ってて」
「水は僕の使い魔です。主である僕が様子を見に行くのは当然だと思いますが」
自由行動を認めてるけども、水の主は僕だ。自分の使い魔を気に掛けるのは当然の事だと主張したけど、恵理さんは笑って首を横に振った。
「もし正面衝突になった場合、生徒である元希君たちを巻き込むわけにはいかないのよ」
「そんなの今更ですよ。僕は生まれながら日本政府の陰謀に巻き込まれてるんですから」
「それでもよ。今は私たちの可愛い生徒なんだから、大人しく守られてなさい」
優しく頭を撫でながら僕の事を説得しようとする恵理さん。だけど僕もこれだけは譲れなかった。
「今まで守られてばっかだったんです。少しくらい僕にも二人を守らせてくださいよ」
「生意気言っちゃって。でもいいの? もし正面衝突になった場合、最悪岩崎さんたちと戦うことになるかもしれないのよ?」
「覚悟は出来てます。それに、これは僕の勘ですけど、炎さんたちとは戦わずに済むと思いますよ」
ご両親たちとは戦うかもしれないけど、炎さんたちは親との関係を完全にこじらせてでも僕たちの味方をすると言ってくれているのだ。だからそんな覚悟は本当は必要ない。だけど一応はしているのだ。
「元希君の勘を信じるなら、私たちも少しは気が楽になるわね」
「姉さん、そろそろ確認に――あら、元希君」
「涼子ちゃん、元希君も一緒に来てくれるようよ」
「いいんですか? あれだけ私と二人だけで行くって言っていたのに」
「元希君が私たちの事を守ってくれるってかっこいい事を言ってくれたんだもん。連れて行った方が良いって思ったのよ」
ウインクでもしそうな表情で涼子さんに告げる恵理さん。その顔を見て涼子さんはため息を吐きそうになったが堪えて、僕に視線を向けてきた。
「覚悟は出来てますか?」
「大丈夫です」
涼子さんの問いかけに力強く頷くと、涼子さんも僕が同行する事を認めてくれた。
元希君も男の子としてゆっくり成長しているんです