僕たち三人に意識を割いていた前衛部隊の背後に、リーナさんとバエルさんが襲いかかった事により、事態はこちら側有利に傾き始める。戦力差を考えて余裕ぶっていた日本支部の魔法師や、僕たちを潰すと息巻いていた弦間喜三郎たちの顔に、若干の焦りと戸惑いが浮かびだしていたのだ。
「貴様ら、アメリカとロシアの人間か。儂に逆らえばどうなるか分かっておるのか? 貴様らは国から追われ、行き場がなくなるんじゃぞ!」
「元々私はアメリカ軍から追われる身だからね。今更国を追われること程度でビビらないわよ」
「そして私は、ロシアよりも日本に――霊峰学園にお世話になっている身ですので、国を追われたとしてもここでお世話になります」
「そう言う事よ、爺さん。もう大人しく隠居してればよかったのに、私たちに喧嘩を売ったばっかりに死期を早めるなんてね」
完全に討ち取ったタイミングだったけども、恵理さんの攻撃は弦間喜三郎に弾かれてしまった。
「ぬるいわ小娘! 儂は世界大戦を勝ち抜いた男じゃ。この程度の攻撃で死ねるならとっくの昔に死んでおるわい」
「なら、これならどう!」
恵理さんの炎魔法の後ろから、涼子さんの雷が弦間喜三郎に向かって飛んでいく。炎を防ごうと水魔法を展開すれば、第二波で感電させるという戦法だが、この戦法にはまだ続きがある。
弦間喜三郎が岩魔法で防いできた場合、大三波として上空から氷魔法を降らせるのだ。それを防ごうと上側を塞げば、後はこちらから圧力を掛けてその岩の砦を潰して圧殺する戦法なのだ。
「無駄無駄! 儂には肉の壁が存在する! 貴様ら如きのちんけな考えだけで儂に攻撃を当てようなど、二百年早いわ!」
「普通は百年でしょうが!」
恵理さんのツッコミが炸裂したが、三弾攻撃は防がれてしまった。弦間喜三郎が言った通り、日本支部の魔法師が身を持って彼を守り、そして戦闘不能となっていった。
「かかっ、殺さぬとはぬるいの。こやつらは儂の操り人形なのだぞ? 回復させてまだまだ使えるのじゃぞ」
そう言って弦間喜三郎は一瞬で回復魔法を発動させ、今倒れたばかりの魔法師たちを立たせる。ただし外傷などを直したわけではなく、意識だけを回復させたようだった。
「さぁ、お前たちにこやつらを殺す覚悟があるのかの? それが出来ないのであれば、この戦いは儂の勝利と言うことに――」
「天災よ、かの者らを跡形も無く消し去れ『サンダー・クラッシュ・サイクロン』」
せめてもの情けだ。痛みすら感じないように葬り去って挙げよう。僕は最上級禁忌魔法である、肉体を跡形も無く消し去る魔法を発動させる。雷で肉を焼き、内側から爆発させ、そして暴風で粉微塵にして吹き飛ばす魔法だ。
「お主、可愛い顔してえげつない魔法を使うの」
「こうでもしなければ、あの人たちは永遠に痛みを味合う事になりますからね。せめてもの情けですよ」
今の僕はきっと、見たことも無い笑顔を浮かべてるんだろうな……自分がここまで黒くなれるなんて、僕自身も知らなかったよ……
永遠に楯として使われるなら、確かに消えた方がまし……なのか?