戦闘不能にしたはずの魔法師を、肉体だけ動かして楯と使う弦間喜三郎に憤りを覚え、僕はせめてもの情けでその肉体を消失させる魔法を使う。これを何回か繰り返している内に、弦間喜三郎の周りには味方がいなくなっていった。
「やれやれ、老い先短い老人をイジメて面白いのか?」
「未来ある若者を潰そうとしてる貴方に言われたくないですね」
向こうはあまり魔力を消費していない分元気だが、僕は極大魔法を連続で使った所為でもう魔力が残り少ない。弦間喜三郎が攻撃に転じてきたら、僕は防ぐだけの魔力が残っていないのだ。
「お主だけに気を取られてるわけにはいかないからの。すぐに楽にしてやろう」
「さっきまで動けない魔法師を無理矢理動かしてた人のセリフとは思えませんね」
「その動けない魔法師に極大魔法を放っておったお主には言われたくないがの」
事実なので何も言い返せない……せめてもの情けだと言い聞かせてはいるが、僕がやったことはれっきとした殺人だ。決して許される事ではない。
「儂は少しの魔力で楯を造ることが出来たが、お主は違うだろ? もう殆ど魔力も残ってないじゃろうし、楽に洗脳出来そうじゃ」
「洗脳……やはり日本支部の魔法師が貴方の味方をしているのは……」
「何も全員を洗脳する必要は無い。中枢部だけを洗脳すれば、後は勝手に感染してくれるからの。じゃから下っ端の魔法師には何も手を加えてはおらん。勝手にお主らを畏怖の目で見てたにすぎんのじゃよ」
「下種……」
逃げようにも体力も消耗しているので、もう一歩も動くことが出来ない。恵理さんや涼子さんの距離じゃ、魔法が発動する前に僕を運ぶことは出来ない。
「なんとでも言うが良い。貴様はもう終わりじゃ」
弦間喜三郎の魔法が僕の身体を包んだ――と思った次の瞬間、僕は全く別の場所に倒れ込んでいた。
「ここは……」
「間一髪じゃったの、我が主様」
「水……」
「お主はここで休んでおれ。後はワシらに任せるのじゃ」
水の隣には、リンとシンの姿も見える。水神である水と、土地神であるリンとシンを相手にしなければいけないと思うと、敵とはいえ弦間喜三郎に同情するよ……
「大丈夫ですか、元希さん」
「バエルさん……一応は無事ですよ。まぁ、見た目死体と変わらないかもしれませんけどね……」
疲労困憊、魔力も底を尽きた今の僕では、討伐の邪魔にしかならない。ここは水に助けられた命を散らさない為にも、ここで大人しくしてるしかないね……
「私ではあのご老人に一太刀も浴びせる事は叶いません。ですから、私の魔力、元希さんに託します」
「えっ、ちょ……」
抵抗できない僕に、バエルさんは唇を重ねる。魔力を譲渡する為にはキス以上の接触が必要であり、これはいわば医療行為なのだ……って、誰に言い訳してるんだろう僕……
「お願いします、元希さん。私たちの学園を守ってください」
「バエルさん……」
魔力の殆どを僕に譲り渡したバエルさんは、その場で眠ってしまった。
「僕、体力もないんだけど……」
とりあえず水たちが時間を稼いでくれている間に、体力を回復しようと決めたのだった。
最後まで受け身な元希君……