水を連れて理事長室に向かう途中で、少しハゲてるオジサンに睨まれたんだけど、あの人だれなんだろうな?
「さっきのハゲオヤジ、あれが副校長か」
「そうなの?」
「そうじゃ。母様を殺しにきた連中の中に居ったわ」
「そうなんだ……」
あの人が恵理さんと涼子さんを学園から追い出そうとしてる人……それほど強い魔力は感じなかったんだけどな……
「な~にしてるの?」
「秋穂さん……水を理事長室まで……」
「水? 水って元希君の使い魔の? でも何処に居るの……」
「目の前に居るじゃろ。お主も勘が悪いのぅ」
「えっ、この人があの水なの!? もう少し可愛らしい子を想像してたんだけど……」
「ワシの何処が可愛くないというのじゃ!」
「えっと……言葉遣い?」
秋穂さんがはっきりと言うと、水は面白そうに笑い出した。
「なるほどなるほど、言葉遣いとな。確かに古臭いとはワシも思うが、神様として崇められていた母様の真似じゃからな。こればっかりは堪忍せい」
「そうなんだ。でも見た目とあってないよ?」
「これからどんどん似合うようになっていく。だから今のうちになれておく必要があるのじゃよ」
「そうなんだ。でも元希君にくっつきすぎ。いくら使い魔でもその密着は許せないな」
「カッカッカ。悔しかったらお主も元希に抱きついてみるのじゃな。まぁ、ワシの目の前でそんな事をしようものなら一撃で消し去ってやるがの」
「水、秋穂さんも喧嘩しないでよぅ」
なんだか険悪なムードが流れ始めたので僕は仲裁に入る。本気で喧嘩してないのかも知れないけど、空気がそんな感じだったので一応止めておかないと……どっちかが怪我したら悲しいもんね。
「大丈夫だよ、元希君。喧嘩しても勝てないって分かってるから」
「そうじゃの。新入生の中では使えるようじゃが、ワシに敵うのは元希くらいじゃろうからのう」
「僕だって本気の水には勝てないと思うけど……」
「あれだけ禁忌魔法を連発しておいて何言ってるのよ。本気で怖かったんだから」
「ゴメンなさい……」
A組との対抗戦の時、僕は少し苛立っていて禁忌魔法を連続で発動してしまった。その所為で疲れ果てちゃったんだけどね。
「同じ全属性魔法師とはいえ、恵理や涼子とは違う凄さがあるのぅ」
「そうだ。早く恵理さんのところに行かないと」
「そうなの? じゃあ私は此処で」
秋穂さんと別れて僕と水は理事長室へと歩を進める。
「のう元希、何故さっきから奇妙な目で見られてるのかのぅ?」
「まぁいろいろと事情があるんだよ……僕にも水にも」
「? 事情とな?」
「うわぁ! 水、ズボン落ちてる!」
奇異の目の中に微妙に色めいたものが交ざってると思ったら、水のズボンが落ちてパンツが見えかけていた。でも男の子なら分かるのに、何で女の子まで色めいた視線を水に向けてるんだろう?
「おっ、いたいた。遅いぞ元希君!」
「うわぁ!? 恵理さん……もう少し待っててくれても良かったんじゃないですか?」
「久しいのぅ、恵理」
「そうね。でもその見た目で呼び捨てにされるのはちょっと複雑ね。いくらあの子の娘とはいえ」
「気にするな。こういう仕様なのじゃ」
メタ発言はやめてくれないかな……僕じゃツッコミ切れないから……
「それで何用じゃ?」
「その話しは理事長室で。あそこにエロオヤジがいるから」
「エロ?」
恵理さんの視線の先に影を飛ばすと、さっきのオジサンが居た。確か副校長なんだっけ?
「仕方ないのぅ。ところで恵理よ、このズボンとやらは必須なのか?」
「まぁ水ちゃんのプロポーションなら無くても良いかも知れないけど」
「良く無いですよ!?」
冗談でもそんな事は言わないで欲しい。水はきっと本気にするから。
「今度の休み、水ちゃんの洋服を買いに行かないとね。涼子ちゃんでも敵わなそうだし、そのズボンは美土ちゃんの? それでもブカブカなんて……羨まけしからん身体ね」
「カッカッカ、羨ましいか?」
「ものすっごく羨ましいわよ」
なんだか恵理さんが押されてる? 珍しい光景だけど不思議な気分なのは何でだろう?
「姉さん、何処行って……えっと彼女が?」
「涼子か。お主の服、少しキツイぞ。痩せた方が良いのではないか?」
「私は普通です! 水様が細いだけです!!」
「そう妬むな。嫉妬は醜いぞ」
「誰の所為ですか……」
理事長室で待っていた涼子さんは、水に向かって怒鳴る。まぁ涼子さんは十分痩せてるし、これ以上は痩せすぎだって思われるだろうしね。
「さて、早速本題に入るけど……水、あの子はやっぱり私たちの所為で?」
「そうじゃろうな。母様は別に暴走とかそんな感じはまったく無かった。むしろ大人しいはずじゃったのだがのぅ……抵抗も無く自らの生涯を終えたがの……ワシを残して」
「ですが、水様は元希君に助けられたのですよね」
「始めは攻撃されたが、途中からワシの様子がおかしいと見抜いてくれたからのぅ。まっこと優秀な魔法師じゃの、元希は」
水に抱き上げられ、僕は足をじたばたさせる。身長も水の方が高いし、おっぱいも皆より大きいから僕は簡単に埋もれて身動きできなくなる。
「して、お主らは日本支部と戦争でもするのか? もしそうならワシも力を貸すがの」
「今はしません。元希君がもう少し魔法師として成長したら考えますけど」
何で僕が関係してるんだろう……聞きたかったけども水に抱きしめられ意識が遠のいていく僕には、何も言えなかった……僕ももう少し身長ほしいなぁ……これって現実逃避なんだろうかな?
小柄な人の悩みってちょっと分からないです……大柄には大柄の悩みがありますし……