僕の服を買いに来たのは良いけど、何で女の子の服ばっかり試着させるんだろう……僕は男で女の子の服なんて似合わないのに……
「とても良くお似合いですよ」
「………」
店員さんの悪意の無い表情がとても悲しい。だって心から言ってるって事なんだから……
「のう元希や、いっそホントに女になったら如何じゃ?」
「嫌だよ! 僕は男だよ!」
「でもねぇ、鏡を見てもそんな事が言えるかしら?」
恵理さんに姿見の前に連れて行かれ、僕は自分の格好を目の当たりにする……そこに映ってるのは女の子の服を着た僕だ。驚くくらい似合ってる……
「明日から元希君の制服は女子のにしようかしら?」
「さすがに可哀想ですよ。それに、この格好は私たちだけが見られるんですから」
「そうじゃの。不特定多数の人間にこの元希を見せるのはもったいないからのぅ」
僕は男で、普通に男物の制服を着たいんだけどな……サイズが無くて特注だったけども……
「それじゃあ元希君が女の子の格好をするのは早蕨荘だけって事で、普通の服も買いに行きましょう」
「今『も』って言いました? もしかしてこれ買うんですか?」
僕の質問に恵理さんはニッコリと笑ってカードを取り出した……つまりはそういう事なんだよね……
「このまま着ていくのでお願いしますね」
「畏まりました」
「ちょっと! さっきより酷い格好じゃないですか!」
「似合ってるよ、元希君」
「嬉しく無いです……」
涼子さんに満面の笑みで言われて、僕はガックリと肩を落とした。
「して元希や。お主は男の格好と女の格好、どっちが似合ってると思ってるんじゃ?」
「そりゃ男の格好だよ! だって僕は男なんだから……」
「ふむ……ちょいとそこのもの」
「はい?」
水が通りすがりの女性に声をかける。何をするんだろう……
「このものは男か? それとも女か?」
「えー何処から如何見ても女の子でしょ。こんなに可愛いんだから」
「あうぅ……」
「ほれ、これが世間のお主に下される評価じゃ」
「えっ!? 男の子なの!?」
僕がガックリした事で女性は僕が男だって気付いたらしいけど、そこまで驚かなくても良いじゃないですか……
「悪かったのぅ、引き止めてしまって」
「いえ、可愛い男の子を見れたので」
またしても可愛いと言われてしまった……カッコいいと言われたい訳じゃないけども、可愛いとは言われたく無いな……
「あれ? 水様、元希君は如何したんですか?」
「気にするな。ちょっと自分の容姿を悲しんでるだけじゃから」
「はぁ……元希君、行きましょ」
「はい……」
涼子さんと手を繋ぎながら今度は男の服が売ってる場所に向かう。この格好から着替えられるなら何でも良いや……
「うーん、元希君に似合いそうな服が無いわね」
「やっぱり女の子の服の方が似合いますからね」
「このネズミがプリントされてるシャツなんてどうじゃ?」
三人が必死になって探してるのは小学生用みたいなシャツ。僕はこの間高校生になったんだよね? なのに何でそんなシャツばっか物色してるんですか……
「あれ? 元希じゃん」
「女の子の格好の元希様……これはアリですわ!」
「如何したの~? 女の子になったの~?」
「美土、それは無い……でも似合ってる」
「元希君はこう言った趣味があるの?」
「違いますよぅ……」
炎さん、水奈さん、美土さん、御影さんに秋穂さんと偶然出会い、僕の格好を見てみんなが様々な感想を言う。でも何でみんな似合ってるって言うんだろう……
「あら? みんな如何したの?」
「理事長先生、元希の格好って先生が?」
「そうよ。似合ってるでしょ?」
「そうですわね! さすが理事長先生です」
「おねーさん興奮しちゃう」
「うわぁ!?」
美土さんに持ち上げられ僕は足をじたばたさせる。だけどその足は地面につくこと無く美土さんに抱きしめられてしまった。
「これ、元希はワシの主じゃ。勝手に持っていくで無い」
「ですが、この格好の元希さんを見て正気で居ろというほうが無茶です」
「気持ちは分かるけど、元希君が嫌がってるから降ろしてあげたら」
「ありがとう秋穂さ……ムギュゥ」
美土さんに解放してもらってすぐ、秋穂さんに正面から抱きつかれた。解放するように言ったのは自分がこうしたかったからなのかなぁ……
「姉さん、元希君に似合いそうな服が……って、皆さん如何したんですか?」
涼子さんがこっちに来てくれたおかげで、漸くカオスから脱したのだけどもその後はずっと涼子さんに抱きしめられながらのお買い物になった。涼子さんって結構過保護だよね……
「あとは食材の買出しね」
「私と元希君で済ませますので、姉さんと水様は先に帰っててください」
「じゃがのぅ。お主と元希を二人きりにしたらお主が暴走しそうじゃし、ワシらもついていくぞ」
「そうね。涼子ちゃんは一旦ストッパーが外れると大変だものね」
「姉さんや水様ほどではありません!」
涼子さんが力強く宣言したけども、そのせいで抱きしめている腕に力が入って僕を締め付けてくるんだけど……
「涼子ちゃん! 元希君が白目剥いてる!」
「え? あっ!」
「きゅぅ~……」
「ほれ見たことか……」
結局出かけ先でも意識を失った僕は、そのまま水に背負われて早蕨荘まで帰ってきたらしいと、気がついてから聞かされた。後でお礼言っておかないとな……
元希君にはやっぱりそっちが似合うんでしょうね……