魔法科の新入生五人を集めて、事前に顔合わせをするらしいんだけど、その事を僕は昨日お風呂で聞いた。だからいったい何で五人なのかも分からないし、何の理由があってその五人だけ先に顔合わせをするのかも分かってないんだよね……
「元希君、準備出来てる?」
「あっはい! すぐ行きます」
早蕨先生にドア越しに声をかけられて、僕は慌てて返事をした。これが理事長だったら部屋に押し入ってくるんだろうな……
「良かった、迎えが理事長じゃなくって」
「私が何だって?」
「うわぁ!?」
何時の間にか僕の背後に居た理事長に声をかけられて、僕は慌てて距離を取った。
「制服を着ても高校生に見えないわね」
「ゴメンなさい……」
「謝らないの。君は悪く無いんだからね」
理事長に頭を撫でられて、僕はくすぐったい気分になる。何時までも子供扱いされる訳にもいかないし、頑張らないとね。
「さぁ、いきましょう」
「うぇ? 僕まだズボン穿いてないですよ!」
正確にはベルトを締めてないのでユルユルなんだけど……
「しょうがないわね。ほら、お姉さんが穿かせてあげるから」
「自分で出来ますよぅ……」
理事長にベルトを締めてもらって、僕は二人に手を繋がれて魔法科の体育館へと連れて行かれる。これって子供扱いだよね……如何やったらやめてもらえるんだろうな……
「元希君は魔法科の体育館と普通科の体育館の違いは知ってる?」
「魔法科の体育館は入り口を通ると異空間に抜け、そこで受けたダメージは現実世界には反映されない。だから体育館内ではより実戦に近い授業が行われるんですよね?」
「さすがトップ入学、魔法科の仕組みは把握してるのね」
僕の答えに満足がいったのか、理事長が僕のほっぺたにキスしてきた。それに対抗したわけじゃないんだろうけども、早蕨先生もほっぺにキスしてくれた……僕は二人から見て何なのだろうか……
「揃ってるわね」
「彼女たちが?」
「ええそうよ。元希君のクラスメイトよ」
えっと……クラスメイトって僕を含めて五人しか居ないんですけど……
「霊峰学園では、普通科は1-A、1-Bって表記するのに対して、魔法科はA-1、B-1って表記になるのよ。そして魔法科は一クラス二十九人に分けるの」
「えっ、でも此処には五人しか……それに二十九人じゃ全体からみたら足りない……」
「普通科にもだけど、魔法科にもSクラスってものが存在するの。私がそのクラスを受け持つんだけどね。それでそのSクラスに選ばれたのが此処に居る五人って訳なのよ」
「君が最後の一人か? アタシは岩崎炎! それにしてもちっこいな~」
「私は氷上水奈と申します」
「風神美土、よろしく」
「ボクは光坂御影、君が学年トップなのかな?」
クラスメイト四人が挨拶してくれたけど、正直僕は女の子や女の人と会話するのが苦手なんだよなぁ……でも、ちゃんと挨拶しないと。
「えっと……東海林元希です。よろしくお願いします」
「元希か! これからよろしくな!」
「あうぅ……」
岩崎さんはすぐに誰とでも仲良くなれるタイプの女の子のようだ。僕みたいな男でも仲良くしてくれるんだ……
「よ、よろしくお願いします、岩崎さん」
「炎で良いって! アタシも元希って呼ぶから」
「もう炎さんは呼んでましたわよ。元希様が困ってらっしゃるじゃないの」
「えー! 元希、困ってるのか?」
「うぇ!? べ、別に大丈夫ですけど……」
「ほらみろ! 水奈が気にしすぎなだけだって」
「わたしも、美土で良いよ。代わりにわたしは元希さんって呼ぶから」
「ボクも御影で構わないよ、元希君」
えっと、初対面なのに何で皆こんなにフレンドリーなんだろう……ひょっとして僕みたいに皆田舎から……そんな訳無いよね。魔法の大家の娘さんだって言ってたから。
「さて、改めて言う必要はないとは思うが、現在魔法は八種類、四系統に分かれています」
「アタシは炎と岩だね」
「私は氷と水ですわ」
「わたしは風と土」
「ボクは光と影」
「分かりやすく揃ってくれたおかげで新入生への説明は四人に手伝ってもらえば終わりそうだしね」
理事長が僕を見て笑ったけど、早蕨先生は何でか頭を押さえている。
「姉さん、楽をしようとしないでくださいよ。ただでさえお飾り理事長って影で言われてるんですから」
「アレは理事長になれなかった副校長の負け惜しみよ。気にする必要は無いわ」
「それで、元希は何の魔法が得意なんだ?」
「私も気になりますわね」
「わたしも」
「あうぅ……」
岩崎さん、氷上さん、風神さんに迫られて僕は一歩後ろに下がろうとしたけど足を止めた。影に光坂さんを感じたからだ。
「意外、気付かれるとは思わなかった。元希君も影の使い手?」
「まぁそう迫らないの。元希君の実力はすぐ分かると思うわよ」
「姉さん、まさか体育館で説明するって言ったのは……」
「それは後でね。今はとりあえずこの魔法科の説明をしちゃいましょう」
早蕨先生が何故だか僕を見て可哀想って目で言ってるんだけど、いったい何をさせられるんだろう……
「魔法師が世間に出てする仕事は大きく分けて二つです。一つはエネルギー供給の為に様々な施設で働く。一般的にはこの職に就くのが魔法師の世界の常識とされています。魔法師では無い人々が、魔法師に畏怖を抱かない為に二世紀前からエネルギー供給は魔法師の仕事とされました。もちろんその分お給料は良いんだけどね」
そう言って理事長はウインクしてみせた。でも何で僕に向けてなんだろう……
「そしてもう一つは、魔法師にしか倒せない異界の存在、所謂魔物を退治する職。これは命懸けであるが為に高収入、これが一般人と魔法師との収入格差だといわれていた原因。だけど命懸けなんだからちょっと多く貰ってもよさそうなんだけどね」
「姉さん、話がそれてるわよ」
「そうね。そしてこの霊峰学園の魔法科では、上位五名の生徒をこの魔物退治に特化した魔法師になってほしいと思っています」
「アタシはそのつもりだしね!」
「私も」
「わたしも。戦闘はあまり得意じゃないけど、後方支援や回復なら」
「ボクは敵情視察や足止めなら出来る」
「今の段階で多くは期待してないわ。でも、何時かはこの五人で魔物を狩ってほしいと思ってます」
えっと……僕そんな事聞いて無いんだけどな……格安の寮があって就職率が良いって誘い文句にホイホイ乗って入学したら、偉い事になってきてるんだけど……
「それで今日集まってもらったのは、今の段階で一人でどれだけ魔物の相手が出来るかを見たかったからなの。バーチャルの魔物と戦ってもらうからね」
「うえぇ!? 聞いてませんよ……」
「うん、元希君には初めて言ったからね」
また僕にだけ言ってなかったんですか……さっき早蕨先生が僕を哀れんだ目で見てたのはその事だったんだ……ていうか、僕魔物退治なんてした事無いんだけどな……
次回ちょっと戦闘シーンが入ります