その少年全属性魔法師につき   作:猫林13世

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30話目です


新型モンスターの仮説

 大型モンスターが出現してるのは、霊峰学園のすぐ傍にある湖だそうで、僕たちはすぐに準備を済ませて出動する事になった。

 正直いきなり出撃しろと言われても困るのだけども、緊急事態である事が僕たちも討伐に参加せざるをえない状況にしていたのだ。

 

「魔法大家とはいえ、この歳で討伐を経験するなんて思って無かったな」

 

「私もです。しかも過去に例が無い事態ですしね……」

 

「同じ魔物がすぐ傍に二体同時に出現とは……」

 

「ボクや美土の魔法は護衛が主だからな……討伐に呼ばれても困るんだけど」

 

「怪我した人を回復させたりするのが仕事になるんじゃない? アタシや水奈は回復魔法使えないし」

 

 

 回復魔法として使えるのが風と光属性の魔法だから仕方ないと思うんだけどな……でも炎さんや水奈さんは何だか震えてるように見えるんだけど……

 

「のぅお主ら。ひょっとしなくても怖いのか?」

 

 

 僕が思ってた事を水があっさりと聞いてしまった。物怖じしないのは凄いと思うけども、この雰囲気の中で良く普通に聞けるよね……これが水神として奉られていた母親の影響なのだろうか?

 

「ちょっとはね。だってバーチャルでも倒せた事無いんだから……」

 

「先ほどの授業でも、炎さんと協力して漸くでしたからね」

 

「カッカッカ、お主たちの歳ではそれが普通じゃよ。例え魔法大家の娘と言えどもな。元希が例外なだけで、お主たちは気にする事では無かろう」

 

「僕が例外って如何いう事?」

 

「お主は禁忌魔法を連発して放てるだけの魔力があるし、全属性魔法師じゃろ。それだけでも十分例外じゃよ。じゃがお主はワシの異変に気付けたりするだけの洞察力も持ち合わせておるし、こうして初めての実戦にも物怖じしないだけの精神力も持っておる。例外と言うには十分じゃと思うがのぅ」

 

 

 別に緊張してない訳じゃないんだけど……ただそれが表に出ないだけなんだよね。だから昔から僕は勘違いされるのかな?

 

「本当なら貴女たちには出撃してほしくなかったんだけど、政府の連中が如何してもと言って聞かなかったし、事情が事情だったので突っぱねる事も出来なかったのよね」

 

「既に避難は済んでるけど、なるべくなら建物にも影響が出ないうちに鎮めたいですね」

 

 

 恵理さんと涼子さんが言ったように、既に近隣の住民の避難は完了してる様子だった。それにしても、湖からヘビのような頭が二本生えてるのは不気味だなぁ……胴体が見えないけど本当にあれは二匹なのだろうか?

 

「ねぇ水」

 

「なんじゃ?」

 

「ちょっと湖に潜ってアイツらが本当に別の大型モンスターなのか調べてきてくれない?」

 

「……元希、お主なかなか危ない事をあっさり言うのぅ」

 

「やっぱり水でも危ない?」

 

「当然じゃ」

 

 

 じゃあ仕方ないな……水でも出来ないんじゃ魔法を使って探るしかなくなっちゃったか。

 

「元希君、それは私がやるから大丈夫よ」

 

「恵理さん?」

 

「まだ元希君の存在を世界中に知られる訳にはいかないのよ」

 

「別に偵察魔法なら他に使える人だって……」

 

 

 周りを見渡すと、四人が一斉に視線を逸らした。つまりはそういう事なんだろう。

 

「偵察魔法はAランク以上の魔法師でも成功しにくい魔法なのよ。簡単に使える魔法じゃないのよ」

 

「そうだったんですか」

 

 

 恵理さんが偵察魔法を使って水の中を調べたけども、あの二匹の胴体を確認する事は出来なかった。それどころか偵察に使っていた魚が急に食べられてしまったのだ。

 

「そんな小魚を使ってなかったんだけど……」

 

「多分恵理さんや涼子さんが考えてる通りだと僕も思います」

 

「でも、そうなると日本支部の魔法師だけじゃ対処出来ないと……」

 

「そのために私と涼子ちゃんが呼ばれたんでしょ」

 

「ランクはどうなるんですか?」

 

 

 あの二匹だけでもSランク相当とされているのに、僕たちの想像通りだったらそのランクは一気に跳ね上がると思うんだけど……

 

「過去に例が無いからね。ランクをつけるならアンノウンじゃないかしらね」

 

「測定不能ですか……でもまだ大人しくしてくれてますし、倒すなら今のうちかと」

 

「湖を凍らせて動きを鈍らせます?」

 

 

 涼子さんの提案に恵理さんが首を振った。縦にでは無く横にだ。

 

「それでもあの頭は自由に動けるでしょうし、私たちの想像通りだったらそんな事しても意味無いもの。余計に面倒になりかねないわ」

 

「じゃあ如何するの? 二匹を確実に仕留めるの?」

 

「それが今のベストでしょうね。他が出てくる前にあの二つの頭を戦闘不能にするのが最も効率的よ」

 

「あのーいったい如何いう事ですか? あれは別の魔物ではないんですか?」

 

 

 状況がまったく分からない炎さんたちは、困惑した表情を浮かべながらも恵理さんに質問した。

 唯一状況が分かっている水ですら、面倒なので説明は任せたといわんばかりにどこかに言ってしまった。

 

「えっとね、あのモンスターは別々の二匹じゃなくって、胴体が一つのモンスターだと思うんだ。調べたけど途中で邪魔されちゃったから本当の事はまだ分からないけども」

 

「それじゃあ二つの頭を持つモンスターって事なのですか?」

 

「ううん、他にもきっと頭があると思う……」

 

 

 ヘビのように見えて、良く見れば竜である事がさっきの魔法で分かったし、沢山の頭を持つ竜なんて神話の世界でもそう存在しない……それがまさかこんな場所に出現するなんて……

 

「私たちと元希君は、あれが『ヤマタノオロチ』じゃないかと疑ってる。仮説の世界では何年も前から存在してたけど、実際には出現しなかったけどね」

 

「全ての属性で存在の可能性は指摘されていましたが、今回は恐らく水属性だと思われます」

 

「ワシとの相性は最悪じゃな。元希、今回は手伝えんからの」

 

 

 ヒラヒラと手を振って何処かに行ってしまった水。僕だって実戦初めてなんだけど……




昔から疑問なのですが、ヤマタノオロチって首は八本ですがマタは七つですよね? 良いのかなそれで……

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