恵理さんと涼子さんが日本支部の魔法師と霊峰学園の学生たちに建物を守る結界を張らせて、僕と二人であの魔物を倒す事になったんだけど、正直言って二人は経験豊富かもしれないけども僕は初めてなんだけど……
「緊張してるの?」
「当然ですよ。授業で何度か戦った事はありますけども、あくまでもバーチャルですし……それに今回は現実での戦闘ですから怪我をすれば最悪……」
「大丈夫よ。私も涼子ちゃんも回復魔法は使えるし、それに元希君には傷一つ付けさせないから安心して」
何だか自信満々な恵理さんだけど、僕たちの仮説が正しかったとしたら残り六本の頭があるはずなのだ。その六本も水面に出てきたらかなり厄介だと思うんだけどな……
「まぁワシも元希を守る事くらいなら出来よう。ダメージは与えられないが攻撃を弾く程度には効果あるじゃろ」
「水様はなるべく日本支部の魔法師から離れててくださいね。あいつらが隙を見て……って事もあるかもですので」
「分かっておるわ。まっこと涼子は心配性じゃのぅ」
「でも水、もし水がやられちゃったら僕も悲しいから出来るだけ傍に居てね」
「可愛い事言ってくれるのぅ。どれ、グリグリしてやろう」
そういって水は僕を抱きしめて頭をグリグリし始める。照れ隠しなのは分かるけども、そんなにやられると目が回っちゃう……
「あうぅ……」
「スマンのぅ」
漸く解放された僕は少しフラフラした。水のグリグリは加減が他の人よりも微妙で少し力強いんだよね……まぁ水が竜だって事も関係してるのかもしれないけど。
「それじゃあ私があっちの頭を叩くから、涼子ちゃんはそっちをお願いね」
「大丈夫なんですよね? またフザケたりしないでくださいよ?」
「大丈夫だって。今回は学生も居るんだから」
前に何があったんだろう……そういえば日本支部の魔法師さんたちが緊張とは別の理由で震えてるような気がするんだけど、それと関係あるのかな?
「雷よその姿を鷲に変え全てを喰らい尽くせ『ライトニング・イーグル』」
「やはり恵理も禁忌魔法を使うんじゃのぅ」
「さすがにランクアンノウンの相手に手加減は出来ないわよ」
「それじゃあ私も。風よ、最大威力で巻き上がり敵を切り刻め『サイクロンカッター』」
恵理さんが召喚禁忌魔法で涼子さんが普通の禁忌魔法を発動させる。禁忌魔法に普通とかつけるのも変だけど、違いがちゃんとあるんだよね。ちなみにサイクロンカッターもSランク魔法だ。
「それじゃあ僕は中心に。氷の狼よ、その姿を顕現し全てを凍らせよ『フェンリル・コキュートス』」
仮説通りなら別の頭が出てくるだろうから、その前に全てを凍らせて終わらせる。調査方法などは後で日本支部の方々に考えてもらえば良いって恵理さんも言ってたし、何より他の人を危険に晒すリスクを考えれば、調査のし辛さなんて気にならないと思うんだよね。
「凍らないのぅ……」
「やっぱり駄目か……じゃあしょうがない。原初の炎よ、全てを焼き払え『フォルレイド』」
「何故燃やそうとしてるのじゃ?」
「凍らないって事は氷属性なのかなってさ」
面倒だから禁忌魔法をぶつけちゃったけど……まぁ結界張ってあるし建物への被害はないだろうしね。
「効いてるじゃないか。元希よ、お主の観察眼はさすがじゃ」
「『フェンリル・コキュートス』が効かなかったのはこの大型モンスターが水属性では無く氷属性だったからって考えただけだよ。他の人でも思いつくと思うけど……」
実際恵理さんだって涼子さんだって水にも氷にも効く魔法を使ってるんだし。
「元希君、そろそろ出てきますよ」
「凍らせられなかった以上、此処で倒すしか無いからね」
「分かってます。でも禁忌魔法でも燃やしつくせなかった魔物を如何やって倒すんですか?」
問題はそこなのだ。移動と準備の時間である程度回復したとは言え、僕は今日既に五発の禁忌魔法を放っている。肉体に残ってる疲労感は誤魔化しが効かないくらい溜まっているのだ。
「三人で影の禁忌魔法を放てばあの魔物は倒せるけど、また文句言われそうですね」
「別に言いたいヤツには言わせておけば良いわよ。自分たちじゃ倒せないから私たちに頼んでおいて、倒し方が気に入らないと文句言ってくるような小さいヤツにはね」
「誰の事ですか?」
「元希君は知らなくて良いのよ。会っても利益なんて無いヤツだから」
恵理さんがそこまで言う相手ってもしかして……
「影の禁忌魔法ってあれですよね? 生態系とかに影響出ないんですか?」
「加減すれば大丈夫よ。狙いをしっかり定めて必要最低限の攻撃で終わらせるわよ」
また難しそうな事を簡単に言ってくれますね……さっきも思ったけど僕もう五発も禁忌魔法放ってるんですよ? そんな微妙な加減が出来る状態では無いんですけど……
「疲れてるならお姉さんの胸で休む?」
「姉さん! ふざけてる場合ですか!」
「ちょっとした冗談じゃないの。涼子ちゃんはすぐ怒るんだから」
「まったく……ですが、元希君が疲れてるのは事実でしょうし、冗談は兎も角休みますか?」
「いえ、大丈夫だと思います。それに恵理さんや涼子さんの補佐くらいしか出来ないでしょうしね」
僕がメインになるとは思えないし、恵理さんと涼子さんがカバーしきれない箇所を補う程度なら今の僕にだって出来るだろう。
僕は恵理さんと涼子さんの考えを伝える為に日本支部討伐部隊の作戦司令室へと向かう事にした。今から放つ魔法は普通の結界では意味を成さないので、御影さんにその事を伝えるのももう一つのお遣いなんだけどね。
離れてるといっても元希君が心配な水だったのでした……