日本支部の写真流失が発覚した翌日、僕は誰かの気配を感じて目を覚ます。
「うにゅ~……だれ?」
恵理さんや涼子さんの気配ではない。そもそもあの二人の場合は完全に気配を遮断する為に僕の気配察知能力では感じる事が出来ないのだ。
かといって水の気配でも無い。だけど早蕨荘には僕の他にはこの三人しか生活してないし、もしかして泥棒さんだろうか?
「君が東海林元希君かしら?」
「そうですけど……」
眠いのを我慢して目を開けると、目の前に見たことの無いお姉さんが居た。恵理さんや涼子さんと一緒の綺麗な銀髪を腰の辺りまで伸ばしていた。そしていきなり抱きつかれて僕が確認出来た容姿はそこまでだった。
「うにゃ!?」
「うんうん、恵理や涼子が気に入ったのが分かるわね。このままアメリカに連れて行っちゃおうかしら」
「懐かしい気配がすると思ったら、やっぱり貴女なのね……」
「あら、不法侵入は立派な犯罪よ?」
恵理さんと涼子さんの声が聞こえてきた。如何やら異変に気がついたらしいけど、とりあえず助けてくれないですかね?
「久しぶりに会った友人にその態度は酷くないかしら?」
「ここに来るならちゃんと玄関から入ってきなさいよね。貴女窓から入ったでしょ」
「目的の元希ちゃんを確認いち早く確認したかったのよ」
ちょっと待って。今ちゃんって言った? 僕は男なんだけど……その前に早く解放してくれないかな……
「うにゅ~……」
「あら?」
「リーナ! 早く元希君を放しなさい!」
「分かったわよ。相変わらず怒ると怖いわね、涼子は」
「何事じゃ騒がしい」
「あら? この子は誰かしら?」
「ほら、昔一緒に遊んでた泉の主の娘よ」
「あの水神様の娘なんだ。それにしては彼女より言葉遣いが古風というか何というか……」
「見た目が幼いからじゃないかしら? あの子も似たような言葉遣いだったから」
恵理さんと昔の事を話してるって事は、この人がアメリカの魔法協会理事のアンジェリーナさんなんだろうな……さっき涼子さんが『リーナ』って呼んでたし。
「それでリーナ、こんな時間に何の用なの? ただ元希君の顔を見たかったってだけじゃないでしょ?」
「……やっぱ恵理には隠し事は出来ないわね。例のヤマタノオロチ討伐に参加した男の子がどんな感じなのか確認しに来たのと、アメリカ支部からお願いがあって日本に来たのよ」
「お願い? 元希君は留学させないからね」
そもそも僕には留学資金なんて無いので、頼まれても無理なんですけど……
「それも魅力的だけど……我々魔法協会アメリカ支部は、卒業後に東海林元希君にアメリカ支部に加わってもらいたくて参りました」
「あら? アメリカ支部は国籍優先でアメリカ国籍の無い元希君は採用外じゃないのかしら」
「そんな事言ってられる場合でもなくなってきたのよ。外部就職が認められるようになってから、アメリカ支部に魅力を感じなくなった若い魔法師の海外流失が止まらなくてね。アメリカでも古い考えを見直す事になったの。その矢先にあのニュースが全世界に流れたでしょ? 日本支部は元希ちゃんを貴女たち二人と同じく『化け物』呼ばわりした事から採用はしないでしょうし、それならいち早くつばを付けておこうってね」
「確かに最近のアメリカ支部は魔法師の高齢化で討伐には他国の援助が無ければ厳しいって聞いてたけど、そんなに苦しい状況なの? リーナが居るんだから大丈夫だと思ってたけど」
「それがそうでも無いのよ。理事って言っても私は末席だし、頭の固い連中ばっかだし。高校生に手伝ってもらおうって発想が無いから、アメリカの高校生は卒業まで実戦経験がないのよね。だから世界的に見ても遅れてる」
僕だって今回の事が無ければ三年生まで討伐には参加しなかっただろうし、それほど遅れてるとは思わないんだけどな……
「確かにイギリスとかドイツなんかは早々に実戦に参加させてるし、日本もそういった動きがない訳でも無いのよね」
「そうなんですか?」
「今回元希君や岩崎さんたちが実戦投入されたのは試験的な意味もありましたし、私や姉さんも参加するって条件で日本支部の要請を飲んだんですよ」
「そうだったんだ……」
てっきり日本支部の魔法師さんたちだけでは厳しいから数を集める為に呼ばれたんだとばかり思ってたけど、裏にはそんな考えがあったんだ。
「悪いけど元希君は卒業と共に私と結婚するからアメリカには行かないわよ」
「うぇ!?」
「姉さん! 元希君は私と結婚するんです! だから姉さんとは結婚しません!」
「また始まったのぅ……元希や、モテる男は辛いのぅ?」
「楽しんでないで何とかしてよ……」
恵理さんと涼子さんの言い争いを面白そうに眺めてる水。何時もの事なんだけどこの良い争いを止める僕の気持ちにもなってよ……
「それから、元希君を獲得出来るまで私はアメリカには帰らないから。今日からこの早蕨荘で生活させてもらうからね」
「「はぁ!?」」
「おぉ! 二人がハモったぞ」
まぁ驚くのはしょうがないよね。てか僕も驚いてるし……
「まだ決まった相手がいないのなら、私だってチャンスがあるでしょ? 私と結婚してアメリカ籍を取得してもらえれば最高だしね」
「……冗談ですよね?」
「あら? お姉さんではダメかしら?」
アンジェリーナさんが僕を誘惑するように擦り寄ってくる。とても整ってる顔に涼子さん以上のプロポーションの持ち主であるアンジェリーナさんは冗談でも高校生男子にこんな事をしてはいけないと思うんだけどな……
「言っとくけど、元希君に誘惑は無駄よ。何せまだそっちの知識は疎いからね」
「じゃあお姉さんが教えてあげるわよ?」
「元希を誘惑するで無いわ」
ぎりぎりで水が助けてくれたけども、もう少しでアンジェリーナさんにキスされるところだったよ……
愛称の理由とかはもう少し後で説明します