冗談だか本気だか分からないプロポーズをしてから、アンジェリーナさんは僕に自己紹介をしてきた。
「魔法協会アメリカ支部理事で、恵理と涼子の友達のアンジェリーナ・スミスよ。よろしくね元希ちゃん」
「よろしくお願いします……あの、何で『ちゃん』付けなんですか?」
「もちろん可愛いからよ」
はぁ……何なんだろうその理由は……僕は珍しく頭痛を覚えて頭を押さえた。
「それでリーナ、元希君がアメリカに行くまで帰らないってのは?」
「人材確保の為に派遣されたんだから当然でしょ? いい返事がもらえるまでは帰れないじゃない」
「それでここに住むと?」
「別に良いでしょ? 相変わらず部屋は余ってるんだからさ」
「相変わらず?」
アンジェリーナさんの言葉に引っかかりを覚えてつい口を挟んだ。その事を気にした様子もなく、アンジェリーナさんは僕の疑問に答えてくれた。
「私が昔留学してたのは聞いてる?」
「はい」
「そのときにこの『早蕨荘』に下宿してたのよ。恵理と涼子もここに住んでたからね」
「そうだったんですか……」
その時から恵理さんと涼子さんはこの場所に住んでいたのか……もしかしたら強すぎる魔力を持っていた所為で家族から捨てられてしまったのだろうか?
「えぇ、元希君。その通りよ」
「私と姉さんはこの魔力の所為で親に忌み嫌われそして捨てられたの」
「ごめんなさい……」
辛い事を思い出させてしまったので、僕は素直に頭を下げた。声には出してなかったけども、この二人には僕の考えている事を知るなんて造作も無い事なのだから……
「何で謝るの? 元希君は声に出した訳じゃ無いわ。私たちが勝手に元希君の思考を読んだだけなんだから」
「そうですよ。悪いのは私たちで元希君じゃ無いですよ」
そう言いながら恵理さんと涼子さんが僕を抱きしめる。二人が悲しんでるのは分かったし、やっぱりその原因は僕なんだと思い、もう一度頭を下げた。
「してリーナとやら、部屋は何処にするんじゃ? いくら部屋が余ってるとはいえ、掃除せねば使えないぞ?」
「大丈夫! 元希ちゃんの部屋に住むから!」
「「「駄目(じゃ)!」」」
三人が声を揃えて、大きな声でアンジェリーナさんの考えを否定した……のはいいんだけども、僕を抱きしめたまま大きな声を出さないでくれないかな……鼓膜に響いて更に頭痛がひどくなるよ……
「まぁ冗談はさておいて、掃除なら自分でするから気にしなくて良いわよ。それに、臨時教師と言う事で明日から霊峰学園で雇ってもらえる事になってるし」
「あら、私は何も聞いてないけど?」
「まぁ協会を通しての要請だから、恵理に届く前に副校長が許可したんでしょうね。言っとくけど正式な決定だからね」
そう言えば副校長は協会側の人だったっけ。恵理さんに話しを回しても相手にされないと思って独断で許可したんだろうな……でも良いんだろうか?
「あのハゲオヤジが!」
「姉さん、言葉が汚いですよ。せめてメタボジジイにしないと」
「涼子も大概じゃろ」
随分と怒ってるのか、恵理さんと涼子さんの言葉遣いが汚くなっていく。まぁ自分たちの事を『化け物』呼ばわりする団体の手先だと考えると、普段の態度が良すぎるのだと思うけどね。
「と、言うわけで元希ちゃん、明日からは『リーナ先生』って呼んでね?」
「それは良いですけど、アンジェリーナさんが担当するのは普通科なのでは? 魔法科には英語の授業ってそれほど熱心に取り組んでませんし」
「そう言えばそうだったわね。私が通ってた時も英語の授業はモニターで済ませてたし」
「そういう事よ! 貴女の思惑通りには行かなくて残念ね、リーナ」
「別に瑣末事よ。同じ学校に居れば元希ちゃんの事を知る事が出来るし、ゆっくりじっくりと距離を詰めて行く事が出来るからね」
瑣末事って、随分と珍しい言葉を使う人なんだな……僕の周りではそんな言葉を使う人は居なかったな。
「してリーナよ。教師になるのは分かったのじゃが、当然食い扶持は入れるんじゃろうな? 働かざるもの食うべからずじゃぞ、ここは」
「エネルギー供給は手伝うわよ。それで問題無いでしょ?」
「まぁそれなら構わないがの……その代わり我が主殿にちょっかいを出そうものなら地平の彼方まで吹き飛ばしてやるからそのつもりでの」
「水! 失礼だよ」
「じゃが元希よ。これくらい脅しておかなければお主の貞操が危ないんじゃぞ」
「何の話ししてるのさ!」
急にエッチな話しになりそうだったので、僕は慌てて水の口を塞いだ。だけどちょっと慌てすぎたのか、足がもたついてそのまま水が居る方向に倒れこんでしまった。
「うわぁ!?」
「何じゃ元希よ。そんなにワシの胸が気に入ったのか? ほれ、もっと感じるが良い」
「違うってば! 水、分かっててやってるでしょ!」
水がこんな事をすれば、当然のように対抗してくる人が居る訳で……
「聞き捨てなら無いわね! 元希君が気に入ってるのは私のおっぱいよ!」
「何言ってるんですか、姉さん。元希君が好きなのは私の胸で姉さんのでは無いですよ」
「ちょっと二人とも……」
「元希ちゃん、お姉さんのおっぱいも触ってみる?」
火に油を注ぐかのように、アンジェリーナさんが僕に胸を押し付けてくる。朝から大変な事になってしまった……僕はただ水の口を塞ごうとしただけなのに……
魔法師としてではなく教師として登場させました。