教室に着くなり放送で副校長が全校集会があると言って魔法科と普通科の生徒全員を大講堂に呼び出した。内容はなんとなく分かってるけども、いきなりにもほどがあると思うんだけど大丈夫なんだろうか……
「いったい何だって言うんだろうね」
「分かりませんわ。この間の労いなら魔法科の生徒だけで十分ですし……」
「普通科の生徒も全員となると、全く想像出来ませんわね」
「元希君は何か聞いてないの?」
僕が恵理さんと涼子さんと同じ場所で生活してるのを知ってる四人は、僕の方に視線を一斉に向けてきた。
「僕も何も聞いて……あれ?」
なんだか身体が宙に浮いてるような……
「何だ、元希君も知らないのか」
「秋穂さん……とりあえず降ろしてください」
いきなり持ち上げられるとビックリするんですからね。秋穂さんに降ろしてもらってから、僕は水が居ない事に気が付いた。
「あれ? 水が居ない……」
「水様なら先ほど出て行かれましたけども」
「出て行った?」
何かあったのだろうか……水が僕に何も言わずに傍を離れる事は滅多に無かったんだけど、全く無かった訳じゃないのでそれほど過剰には心配はしない。だけど学校で僕の傍を離れるのは本当に珍しいな……
「よう元希」
「健吾君」
「さっきお前の使い魔を見たけど、何やってるんだ、あれは?」
「えっと?」
健吾君の話では、水は裏庭の方に向かって水を噴出していたらしいのだ。ホントに何をしてるんだろう……
「ちょっと見てくる」
「集会は良いのか?」
「何となく集会の理由は分かってるから大丈夫だと思うよ」
多分だけどリーナさんの紹介だろうし。僕はこっそりと大講堂から抜け出して裏庭に向かった。こういった時、背が小さいと目立たなくて楽で良いな。
「えっと水は……居た」
健吾君が言ったように、水は裏庭に向かって水を噴出している。打ち水にしては勢いが強すぎるし、ホントに何が目的なんだろう……
「何してるの?」
「おぉ元希か。見ての通り体内の水を吐き出してるのじゃ」
「……何の為に?」
「定期的に体内の水を取り替えないと気持ち悪いからのぅ。出せる時に出しておこうと思っての。どうせ集会とやらはリーナの紹介だろうし」
「そうだろうけど、そういうことなら一応僕に言ってから居なくなってよ。見当たらなくて心配したじゃないか」
「スマンのぅ。じゃがそこまでワシの事を心配してくれるとは、我が主はよっぽどワシが好きなんじゃのぅ」
如何してそういう結論が出たのだろう……とりあえず機嫌がよさそうなので水を差す事は言わなかったけども、水の勘違いは何時か解いておこう。まぁ嫌いでは無いからそのままでも良いんだけど。
「とりあえず大講堂に戻るよ。一応居なきゃいけないんだから」
「仕方ないかのぅ。主様の命には逆らえないからの」
「……別にそんな大仰な事じゃないじゃないか」
唯単に講堂に戻るだけで命令なんてしないってば……
僕たちがコッソリと講堂に戻った時にはちょうどリーナさんが壇上で挨拶をしていた。それにしても普通科の男子生徒の盛り上がり具合がすごいな……
「アメリカから来ましたアンジェリーナ・スミスです。気軽にアンジー先生と呼んでくださいね!」
……あれ? 僕には『リーナ先生』って呼んでって言ってたのに、何で皆には『アンジー先生』なのだろう? 何か意味があるのかな?
「後で恵理さんにでも聞いてみよう」
「何が?」
「ううん、なんでもないよ」
炎さんが不思議そうに僕の顔を覗き込んできたけども、僕はきわめて普通の態度で炎さんに答えた。
リーナ先生の挨拶も終わり、集会も終わりという事で解散となった。一斉に移動するから僕はなるべくその人波に飲まれないように端っこに移動した。
「相変わらず凄い人の多さじゃのぅ。こいつら全員この学校の生徒と言うんじゃから驚きじゃよ」
「僕も未だに驚いてるけどね」
小学校でもこれだけの人数は居なかったし、そもそも村全体の人口を集めたとしてもここの生徒数には及ばないだろうしね。
「そろそろ行けるんじゃないかのぅ?」
「まだ飲まれそうだから……皆が出て行ってから戻ろう」
入学式の時の失敗を思い出し、僕は皆が大講堂から居なくなるのを待つ。途中で健吾君が僕に視線を向けてきたので、僕が健吾君に念を送り会話をする事にした。魔法が使えない健吾君でも、僕がラインを引けば会話くらいなら出来るのだ。
『何ボケッとしてるんだ?』
「人込みが苦手なんだ……それで人が居なくなるのを待ってるんだ」
『ふーん。大変なんだな』
「健吾君みたいに大きければそんな事気にしなくても良かったんだけどね」
取り留めの無い会話をしながら、僕はそろそろ帰れるかなと思い出口に向かう。健吾君にはそろそろ帰れそうと伝えて念を切ったので、今は声は聞こえない。
「も・と・き・ちゃん!」
「うにゃ!?」
「何してるのかな~?」
「リーナ先生……」
漸く戻れると思ったら、今度はリーナさんに捕まった。丁度良いし、さっき思った事を聞いてみよう。
「先生の愛称は『アンジー』なんですか? それとも『リーナ』なんですか?」
「普通に付き合うには『アンジー』かな。アメリカ支部でもそう呼ばれてるし。でも特別な相手には『リーナ』って呼んでもらいたいの」
恵理さんや涼子さんは分かるけども、僕も特別な相手なのだろうか? 新たな疑問が生まれたけども、これ以上のんびりは出来ないので僕はリーナさんに一礼してから教室に戻ったのだった。
念話を使いましたが、完全に元希君の魔力なので健吾に魔法的才能はありません。