その少年全属性魔法師につき   作:猫林13世

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とりあえずキャラはこれで打ち止めにするつもりです。


疑惑の転入生

 午後の授業は特に問題なく終わり、放課後になった。今日は朝色々あって洗濯出来なかったから急いで帰って洗濯をしよう。

 と意気込んだのは良いんだけど、学校を出る前にその計画は破綻してしまった。

 

「元希君、丁度よかった。今から理事長室に行きますよ」

 

「あの、涼子さん? それは決定事項なんですか?」

 

 

 そりゃ一日くらい洗濯しなくても着るものが無くなるわけじゃないですけど、せっかく晴れてるんですからもったいないですよ。

 

「姉さんが呼んでるんですよ。何でもリーナも一緒に居るらしいですけど」

 

「そうですか……」

 

 

 どうやら断る事は出来ないようだったので、僕は洗濯を諦めて理事長室に向かう事にした。最悪夜にでも洗濯すれば良いし……などと現実逃避をしながら。

 

「ところで元希君、水様はご一緒じゃないんですか?」

 

「水なら敷地内には居ると思いますけど、何処に行ったのかは分かりません」

 

 

 学校の敷地内のみで自由行動を許可したとたんにこれだもんな……まぁ水も自由に動きたい時もあっただろうし、敷地内なら最悪気配を探れば何処にいるか分かるしね。

 

「そうなんですか。まぁ今回の話に、水様はさほど関わってないらしいですし」

 

「そうなんですか……」

 

 

 今まで、水が関係してたような話ってあったっけ? 水のお母さんが見せしめで討伐された時くらいしか水に関係している話は無かったような気がするんだけどな……

 

「姉さん、元希君を連れてきました」

 

 

 相変わらず涼子さんは理事長室に入るときにノックをしない。もちろん他の場所では礼儀正しいし、先生の間でも人気が高いらしい……もちろん魔法科の先生の間でだけど。

 だけど理事長室に入るときだけは別で、涼子さんはまるで自分の部屋に入るかの感覚で中に入っていくのだ。

 

「いらっしゃい。今お茶淹れるわね。涼子ちゃんが」

 

「私がですか? そこは姉さんが淹れるんじゃ」

 

「だって涼子ちゃんのほうがポットに近いでしょ?」

 

「まぁいいですけど」

 

 

 二人の遣り取りをぼんやり眺めていたら、背後に気配を覚えた。

 

「この程度じゃ気付かれるのね。今度はもう少し気配を殺して……」

 

「あの……何で僕の背後に立ちたいんですか?」

 

 

 リーナさんが結構物騒な事を考えていそうだったので僕はその事を尋ねてみた。

 

「いかに元希ちゃんに気付かれずに近づいて、そしてガバっと抱きついて思う存分すりすりしたいからよ!」

 

「……今だって思いっきり頬ずりしてるじゃないですか」

 

 

 バレたからといって、リーナさんが頬ずりを諦める事など無いのだ。今朝初めて会ったはずなのに、何故だか気に入られているのだ。

 

「それで姉さん、元希君を呼んだ理由は?」

 

「あぁ、それね……この間のヤマタノオロチ討伐で、アジア諸国の魔法師が元希君に興味を持ったらしいのよね。それこそハニートラップでも仕掛けてくるんじゃないかってくらいに元希君を狙ってる国だってあるのよ」

 

「ハニートラップ?」

 

 

 僕にそんなもの仕掛けても無意味なのに……てか効果を発揮する前に意識を失うから、国に協力させようと動いても意味が無いんだけどね。

 

「でもいち早くアメリカが……いえ、リーナが動いた所為でおいそれと動けなくなってるのが現状かしらね」

 

「ふっふん! さぁ、私を崇め奉れ!」

 

「……兎も角、リーナの来日は私たちにとっても、何より元希君にとってプラスに働いたって訳なのよ。もちろんそれだけで諦めてくれるなら最初から脅威でも何でも無いんだけどね」

 

「まだ何かあるんですか?」

 

 

 ボケたリーナさんを綺麗に無視して、恵理さんは一つのメモ用紙を僕に見せてくれた。その横には一枚の写真……随分と綺麗な女性がそこに写っていた。

 

「この人は?」

 

「編入希望者なんだけど……明らかに元希君目当てなのよね。アメリカが動いてロシアが手を拱いてるだけな訳無いとは思ってたけど早すぎるわ」

 

「名前は、えっと……バエル・アレクサンドロフさん?」

 

「ええ。年は元希君と同じで、能力は問題なくAクラス相当よ」

 

「同い年なんですね……」

 

 

 かなり大人びてる感じが写真からしたので、てっきり先輩かと思ったけど……この場合は僕が幼いんだろうか? それとも相手が大人っぽいんだろうか?

 

「まだそれほど経ってないからって突っぱねる事も出来るんでしょうけども、そんな事したら外交問題になるとか言ってきそうだしね」

 

「まぁ日本支部は世界から見たらそれほど大したこと無いですしね」

 

「本場のイギリスやフランスと比べれば、どの国も大したことないわよ」

 

 

 僕が衝撃を受けている前で、恵理さんとリーナさんがけらけらと笑いながらおしゃべりを続けていた。

 

「ロシア政府には、明日から通わせたいって言われてるんだけど、さすがにそれは無理って答えたわ」

 

「まぁいきなりは無理よね……」

 

「てなわけで元希君」

 

「は、はい?」

 

「早速で悪いんだけど、涼子ちゃんと二人でロシアに飛んでくれない?」

 

 

 全く話が見えないんですけど……何処を如何取ったら僕と涼子さんがロシアに行く流れになるんだろう。

 

「二人なら転移魔法が使えるし、水も居ない今がチャンスなのよ。コッソリとそのバエル・アレクサンドロフさんの事、調べてきてくれないかな?」

 

「姉さん、ロシア政府から資料が来てるはずですよね? それで分からなかったんですか?」

 

「明らかに嘘だらけの資料なんて役に立たないわよ」

 

 

 ヒラヒラと資料の束を見せて、恵理さんはそれを涼子さんの前に投げ捨てた。遠目でしか見えなかったけど、あの資料には魔法が掛けられていた。

 

「名前、性別、年齢……その他は明らかに偽造ですね、この資料」

 

「そういう事だから、お願いね」

 

 

 こうしてなし崩し的ではあるが、僕と涼子さんのロシア行きが決定したのだった……僕はまだ一言も行くなどと言ってなかったのに……




次回、元希君ロシアへ

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