スヴェルドロフスク州で転入生のバエル・アレクサンドロフさんの調査をしていて気付いた事は、彼女が今現在通っている学校に魔法科が存在しない事だった。
「おかしいわね……事前に送られてきた資料では、彼女の能力は申し分ないものなのに、何故魔法科に通ってないのかしら……」
「最近魔法師として目覚めたのでは無いですかね? 元々のポテンシャルが高い分、覚醒したてでも十分な能力が備わっているとか」
「そんなに高いポテンシャルがあるのなら、今頃になって目覚めるなんてありえないと思うんだけど……でも、元希君みたいに自分のポテンシャルを自覚してない場合はありえるのかも知れないけど……」
僕ってそんなに高いポテンシャルを秘めているんだ……
「友達は多そうね。さっきから男女問わず話しかけられてるし」
「ですが、あまり楽しそうには見えないんですけど……」
話しかけてきている相手も、親しいというよりは何だか余所余所しい感じを受けるし……まるで田舎に居た時の僕と同じような扱いを受けているような……そんな感じがした。
「別に魔法師は畏怖の存在じゃないのにね……やっぱり元希君の考えが当たってるのかも知れないわね」
「彼女となら仲良く出来ると思います」
似たような扱いを受けている――受けていた僕としては、彼女となら仲良くなれそうな気がしている。もちろんこちらの存在に気が付いていて、演技をしているのなら別だけど。
「もしかしたら四人目かも知れないわよ」
「四人目……全属性魔法師ですか?」
「元希君並のポテンシャルだと考えるならね」
過去三人は日本人だったが、四人目はロシアに出現すると言う事になるんだろうか……でも、そうなると今以上に畏怖の目を向けられる事になってしまうのだ……
「僕、彼女に優しくしてあげたいです」
「えっ!? 元希君、彼女と深い仲になるつもりなの!?」
「? 深い仲って何ですか?」
涼子さんが使った表現にイマイチピンと来なかったので、僕は首を傾げて尋ねた。
「ううん、何でもないのよ。元希君にはまだ早い世界よね」
「?」
何だかそんな表現を聞いたような気もするけど、覚えてないと言う事は僕に関係ない事だったんだろうな。
「とりあえず全属性魔法師かは置いておくにしても、彼女が最近魔法師に目覚めたのならば今の状況も頷けるわね」
「でも、日本に来るよりそのままロシアの魔法科に転入じゃ駄目なんでしょうか?」
その方が人付き合いにおいても楽だと思うんだけどな。言葉も通じないなんて苦労もしなくて良いだろうし。
「それはロシア政府の考えでしょうね。せっかく同学年に全属性魔法師が居るんだから、タイミングよく現れたハイスペックな魔法師を日本に送り込もうってね」
そんなものなのかな……個人を全く無視して国の為に異国に送りつける。そんな事しなくても僕のデータなら簡単に手に入ると思うんだけどな……何せ写真が流失するほどデータ管理が杜撰なんだから……
「とりあえず今日はこんなものかしらね。転入に関しては問題なさそうですし、姉さんにはそう報告しましょう」
「そうですね。ところで、彼女が転入してくるのって明日ですよね? 今日調べても入学拒否は出来なかったんじゃ無いですか?」
「調査開始時点では転入の日程は決まってなかったのよ。それをあのハゲオヤジがまた勝手に返事して……魔法協会の狗なんだから」
涼子さんが見せてはいけないような顔をしている……よっぽど副校長との反りが合わないんだろうな……
「さて、帰りは元希君が転移魔法を使ってね」
「僕がですか?」
「ええ。練習も兼ねてね」
「分かりました……」
正直自信は無いけども、二人なら何とか出来るかな……えっと、まずは転移先の風景を思い描いて、それからその場所につながるように路を描く……イメージを膨らませてそこに魔力を注ぎ込み現在地と転移先を完全に繋げる……こんな感じかな?
「上手上手! 元希君、転移魔法初めてじゃないでしょ」
「初めてですよ……ものすごい疲れるんですね」
「まだこれからよ。この後私たちを実際に転移させるんですから」
涼子さんに言われ、これからまだ疲れる作業が残っていたのを思い出した。繋いだだけじゃなくって、実際に運ばなきゃ意味は無いんだった……
「えっと……路は繋がってるので、後はこの路に僕たちを通すイメージで良いんですかね?」
「そうね。でも今の元希君だと離れてると危険かもね。しっかりとくっついていましょう」
そう言って涼子さんは僕を抱き上げた。確かにこの方が運ぶには楽かも知れないけども、この体勢で日本に戻るんだよね……転移先を理事長室にしてあるから、この姿で戻ったら恵理さんとリーナさんに怒られそうな気がするんだけど……
「それじゃあ元希君、帰りましょうか」
「わ、分かりました」
この際怒られるのは我慢しよう。下手して二人ともとんでもない場所に転移されるよりはよっぽどマシだろうし……
そう覚悟してからは早かった。一瞬の時を経て、僕と涼子さんはロシアのスヴェルドロフスク州から日本の霊峰学園理事長室へと戻って来た。
「お帰り。如何だった……って! 涼子ちゃんズルイ!」
「元希ちゃんを抱きしめてる!? なんて羨ましい……」
ほらやっぱり……何でかは分からないけども、僕は涼子さんを含めた大人三人に溺愛されているのだ……てかリーナさん、何時まで「ちゃん」呼びなんですか……
如何元希と絡ませようか……