その少年全属性魔法師につき   作:猫林13世

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かなり燃費が悪い魔法です


お出迎え

 理事長室で色々と話していたら、突如ノックの音が部屋に響いた。

 

「誰?」

 

『ワシじゃ。元希はおるかの?』

 

「水? 元希君なら居るわよ」

 

 

 恵理さんの返事を聞き、水が扉を開けて理事長室に入ってきた。何だかかなり疲れてるように見えるけど、何してたんだろう?

 

「自由行動と言うものはすばらしいのぅ!」

 

「そんなに遊んだの?」

 

「うむ! とりあえず敷地内を五周してきた!」

 

「……お疲れ様。ところでその紙は?」

 

 

 僕は水が持っていた紙が気になり訊ねた。すると水は今思い出したように手を打って恵理さんにその紙を手渡した。

 

「さっきハゲオヤジに渡すように頼まれたんじゃ。まぁ頼まれたと言うより強制されたと表現した方が正しいかもしれんがの」

 

「如何いう事?」

 

「如何もこうも、いきなり角から現れワシにその紙を押し付けてきたんじゃ。少しでも身体に触れてたら今頃水没していたじゃろうがな」

 

 

 怖いから笑顔でそんな事言わないでほしいんだけど……水の事だから冗談んじゃなく本気だろうし……

 

「それで姉さん、紙にはなんて書いてあるの?」

 

「転入生のバエル・アレクサンドロフさんを迎え入れる為に転移魔法を使えって。それから彼女は早蕨荘で生活するから部屋を用意しろって」

 

「随分と上からな書き方ね。ハゲオヤジって副校長なんでしょ? 恵理に対して随分と偉そうね」

 

「魔法協会の狗だからね。自分の方が偉いって思ってるんじゃないの?」

 

「そうですね。あのオヤジの勘違いは滑稽ですが、見てても面白くないんですよね」

 

 

 恵理さんと涼子さんが同時に機嫌を損ねているようだ……なんとなく身の危険を感じた僕は、気付かれないようにゆっくりと二人から距離を取った。

 

「それで、転移魔法の展開時間は?」

 

「えっと……三十分後!? 何考えてるのあのハゲ!」

 

 

 転移魔法は恵理さん、涼子さんと僕しか使えない魔法。しかも魔法を使う事によってかなりの体力を消耗するのだ。ついさっき使った僕と涼子さんは三十分後に再度使う事は難しい……そうなると恵理さんが転移魔法を使うのだが、恵理さんはこの決定に納得してなさそうなんだよね……

 

「決めるだけ決めて全部人任せ……魔法協会の名が聞いて呆れるわね」

 

「如何します? 彼女は何も悪くありませんが、自力で日本まで来てもらうよう要請しますか?」

 

「……ご丁寧に座標まで指示してあるんだからやるしか無いでしょ。本当に仕方ないけどね」

 

 

 恵理さんは不承不承である事を強調するかのようにため息を吐き、指定された座標を確認する。僕と涼子さんが訪ねた(不法入国ではあるが)座標とは少し違うみたいだ。

 

「随分と待遇がよさそうな子だけど、本当に魔法師として目覚めたてなのかしら?」

 

「周りの態度はそんな感じでした。腫れ物に触るような感じと言うのでしょうか……兎に角違和感があるようでしたし」

 

「まぁこっちに来たら聞けば良いのかしらね。早蕨荘で生活するって事は時間が取れるって訳だし」

 

 

 転移魔法の準備をしながら、恵理さんはもう一度バエル・アレクサンドロフさんの資料に目を通した。

 

「孤児、ね……ロシア政府から援助を受けているから今回の転入も断れなかったのかしら」

 

「学校の成績も悪くないようですし、ロシア政府としてもいずれは中枢に、と考えての援助ではないのでしょうか?」

 

「如何かしら。魔法師として使えそうだったからとか? 確かロシアには占星術師が居たでしょうから、未来予知でもしたんじゃないの?」

 

「まさか。それは穿ちすぎじゃない?」

 

 

 この場に僕が居る事を忘れているかのように、三人は話を続けていく。この会話、生徒である僕が聞いても良かったんだろうか……

 

「さてと、そろそろ陣が開くけども……誰が迎えに行くのかしら?」

 

「普通に姉さんが行けば良いのでは? 転移魔法を展開してるのも姉さんですし、何より理事長なんですから」

 

「陣を保つので精一杯よ。その上転移して連れてくるなんて無理。誰か行ってよ」

 

「じゃあ元希ちゃんが行けば? 同級生だし、何より一つ屋根の下で生活する相手だもの。元希ちゃんも向こうの子も早めに慣れておいた方が良いんじゃないかしら?」

 

「行って帰ってくるだけで慣れるとは思えませんが……」

 

 

 顔合わせは出来るかもだけど、それで慣れれるなら最初から苦労しないんじゃないかな?

 

「元希君、お願いね」

 

「……分かりましたよ」

 

 

 僕は転移魔法の陣、その中心に立ち再びスヴェルドロフスク州に移動する。今回は不法入国ではなく霊峰学園の遣いの者としての転移だ。見つかっても捕まる事は無いだろう。

 

「えっと……貴女がバエル・アレクサンドロフさんですか?」

 

 

 写真と遠目で顔は知っているけども、向こうは僕の事を知らないから慎重に声をかけた。

 

「そうですけど……貴方は霊峰学園の先生ですか?」

 

「いえ、僕は貴女と同い年の生徒です。魔法科の主席として、今回貴女の迎えを頼まれまたのです。詳しい話は理事長室でしますので、今はとりあえず荷物を持って陣の中へ。長い事保つのは無理ですので」

 

 

 一度閉じてしまうと今度は僕が陣を繋がなくてはいけなくなっちゃうし……さっき使ったから当分は僕も繋げられないからな……

 

「……同い年なんですか?」

 

「見えないでしょうけども、これでも高校生です」

 

「えっと……よろしくお願いします? ……お名前は?」

 

「東海林元希です。こちらこそよろしくお願いします、バエル・アレクサンドロフさん」

 

 

 転移までの短い時間で自己紹介を済ませて、そのまま理事長室に戻る。慣れない人は時空酔いをするらしいんだけど、見た限りではバエルさんは大丈夫そうだったので安心した。




立場が似てるので、元希君も普通に馴染めそうな感じです

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