転移も無事に終わり、僕はバエル・アレクサンドロフさんと一緒に霊峰学園理事長室へと戻って来た。
「お帰り、元希君」
「連れてきましたよ、恵理さん」
僕はニッコリ笑顔で出迎えてくれた恵理さんの正面にバエルさんを向かわせる。というか僕が居ても居なくても身長差でバエルさんの顔は恵理さんに見えているし、逆もまた然りなんだけどね……もう少し身長が欲しいよ……
「はじめまして、バエル・アレクサンドロフさん。私が霊峰学園理事長の早蕨恵理よ」
「よ、よろしくお願いします」
「そう硬くならないの。貴女がこれから生活する早蕨荘の大家さんでもあるから重ねてよろしくね」
「姉さん、あまり緊張させるのは良くないですよ」
「あら、涼子ちゃんは私が故意にバエルさんを緊張させてるって言うの? そんな事何のにな、ねぇ元希君?」
「うえぇ!? ここで僕に振るんですか……」
姉妹の語らい――あるいはじゃれあいに僕を巻き込むのは止めてほしかったんだけどな……
「ごめんなさいね、バエルさん。姉さんも悪気があってやってるわけじゃないから」
「は、はぁ……? お姉さんって……貴女が副校長ですか?」
「いいえ、私は教師の早蕨涼子。担当はSクラスだけども、合同授業なんかではバエルさんのクラスも担当する事もあるから、よろしくお願いしますね」
「は、はい! よろしくお願いします!」
無言のプレッシャー……なのだろうか? 涼子さんの挨拶にバエルさんは背筋をピンと伸ばしている。特にプレッシャーは感じなかったんだけどなぁ……
「そして私が普通科、英語教師にしてアメリカ支部理事のアンジェリーナ・スミスよ。気軽にリーナ先生って呼んでね」
あれ? バエルさんにはアンジー先生じゃなくていいんだ……もしかして同居人だからなのかな?
「改めまして、魔法科主席入学の東海林元希です。僕も早蕨荘で生活してますので、これからよろしくお願いします」
「はい。バエル・アレクサンドロフです。こちらこそよろしくお願いしますね」
何だろう……お姉ちゃんが出来たみたいな感じがするんだけど……
「一つ確認なんだけど……」
「何でしょうか?」
一通りの挨拶が済んでから、恵理さんが聞きづらそうにバエルさんに話しかける。その雰囲気を感じ取ってるのだろうけども、バエルさんは恵理さんほど気まずい雰囲気は出していなかった。
「新学期のゴタゴタが終わって、まぁ日本ではヤマタノオロチ騒動があったけども……何でこの時期に転入なんてすることになったの? この資料ではその理由が良く分からないのだけども」
「あぁ……やっぱり気になりますよね」
バエルさんはため息を一つ吐いてから恵理さんに視線を固定した。
「実は先日、私は事故に遭いました。幸い命に別状は無かったのですが、その事故が原因で私は魔法師として目覚めました」
「……それまでは全く魔法師として生活してなかったのかしら?」
「そうですね。そこに書いてあるように、私は孤児です。ですので本当の両親が魔法師だったのか、それとも突然変異で私に才能があったのかは分かりませんが、その事故以前には魔法師ではありませんでした」
「だから涼子ちゃんたちが見た限りでは、周りが余所余所しかったのかしら?」
それ、バラしちゃんですか……こっそりとロシアに行ったのに何で本人に言っちゃうんだろうな……転移魔法で疲れた意味が無くなっちゃうじゃないですか。
「そうです。いきなり魔法師として目覚め、しかもロシア支部の方々が私の検査にやって来てたので余計にでしょうけども……ついこの間まで仲良くしてた人たちも、遠巻きに私を見るようになってました」
「そうなんだ……じゃあもう一つだけ。得意な魔法は何かしら?」
「得意な魔法……ですか? 基本的にまだしっかりと魔法の教育を受けていないのでなんとも言えませんね……あえて言うとしたら氷でしょうか? 事故後目覚めてすぐ病室を凍らせてしまったので」
「なるほどね……ありがとう。貴女の荷物はこちらで運び込んでおくから、まずは学校を案内してもらったほうが良いわね。元希君、お願いできる?」
「僕ですか? 涼子さんかリーナ先生の方が……」
「じゃあ元希君がバエルちゃんのブラとかパンツを片付ける?」
「……大人しく案内します」
恵理さんの悪い笑みに負け、僕はバエルさんを案内する事にした。にしても本人目の前にして良くあんな事言えるよね……普通だったら遠慮とかするものだと思うんだけどな……まぁ恵理さんだし良いのかな?
「えっと……東海林さんは……」
「あっ、元希で良いですよ。みんなそう呼んでますし。僕もバエルさんって呼んでますから」
「そうですか。では元希さんは全属性魔法師なんですよね?」
「そうみたいですね。やっぱりロシアでも知られてるんですか?」
正直僕はそこまで自分が有名だとは思っていない。だけどアメリカ支部からやってきたリーナさんも僕の事を知っていたし、何よりこの間の流失事件の所為で、僕の周りには好奇の眼がたくさん増えてしまったのだ。
「実はロシア政府の方から、『東海林元希のDNAを取ってこい』といわれてるのですが」
「それ、僕に言っちゃ駄目なやつじゃないですか?」
「だって私にそのつもりは無いですから。せっかく奇異の眼から逃げ出せて、そして新生活を迎えられるのに……そんなことして追い出されるくらいならバラしてしまおうと思いまして」
「そうですか。でも髪の毛一本くらいなら問題ないですよ?」
「いえ、そういうものではなくてですね……」
「? 他に何か……皮膚片とかですか?」
「いえ……」
周りを確認してから、バエルさんは僕に耳打ちをしてきました。
「ッ!?」
「ですからしたくないんですよ……襲うのは嫌です」
自重してくれて本当に良かったなと思った。だって……ね? 僕にはまだ早いもん。
政府命令でもしたくないな……