その少年全属性魔法師につき   作:猫林13世

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50話目です


田舎暮らしと施設暮らし

 校内案内も大体済んだところで、バエルさんが僕をマジマジと見詰めてきた。

 

「えっと……何か僕の顔についてますか?」

 

「いえ……本当に同い年なのかと思いまして」

 

「……僕も信じられないと思いますが、本当に同い年です」

 

 

 僕から見ればバエルさんは大人びていて同い年だと知らなければ年上だと思っていただろう。だからバエルさんが僕を本当に同い年なのかと疑っても別に不思議は無いと思ってる……

 現実逃避だと分かっているけども、僕の見た目が幼いだけじゃないと思っても良いじゃないか。だってバエルさんは大人びてるんだから!

 

「………」

 

 

 僕は誰に言い訳をしていたんだろう……ふと冷静になって考えると、今の僕の思考はなかなか危ない人だったんじゃないだろうか……頭の中とはいえ誰に話しかけてたんだろう?

 

「如何かしました、元希さん?」

 

「いえ、なんでもないです。後は教室と食堂を案内して終わりですかね。早蕨荘の中は迷うほどでも無いですし、その内分かりますから」

 

 

 僕が頼まれたのは校内の案内のみ。早蕨荘の案内は恵理さんか涼子さんに頼むとしよう。動性同士の方が何かとやりやすいって事もあるだろうし。

 

「あっ……」

 

「如何しました?」

 

「バエルさんは家事とか大丈夫ですか?」

 

「一応は……施設では家事は全員でする事になってましたから」

 

「そうですか。なら大丈夫かな」

 

 

 早蕨荘は一応寮という事になっているが当然家賃が発生する。だけど家事を手伝うかエネルギー供給を手伝う事によってそれは免除されるのだ。

 

「家賃の事ですか? ですが一応奨学金が出ますので……」

 

「ですが無駄遣いはなるべく省いたほうがいいですし。三年間でどれだけお金が掛かるのか分かりませんからね。何しろこの霊峰学園は所謂お金持ち学校ですから……」

 

 

 学食でも僕が食べるような手ごろな値段のものから、高級レストランかと思うような値段の食べ物まで置いてある。もちろん僕はそんなものを食べた事は無いけども……

 

「……そういえば、元希さんは何故早蕨荘で生活を? 主席入学なら色々と便宜を図ってもらえそうなものですが」

 

「僕はこの学校に来るまで魔法師の世界の事を殆ど知りませんでした。それに僕は田舎出身ですし、主席入学だって知ったのも入学直前で図ってもらう便宜というものも知りませんでしたので……お金も無いですし、奨学金を返せる自信も無かったですし……」

 

 

 お母さんの教えでは「返せないと思うお金は借りないこと」。なので僕は奨学金はお断りして早蕨荘への入寮を希望したのだ。

 

「そうでしたか……元希さんも大変だったんですね」

 

「バエルさんだって、突然魔法師としての才能が目覚め、今までの生活を変えなきゃいけなくなっちゃったんですから。僕なんかより大変だったと思いますよ?」

 

 

 僕は田舎では腫れ物に触る扱いを受けていたんだと気付かなかった。それに気付いたのはここに来てからだったし……我ながら鈍いなと思ったものだ。

 

「ですが、これで国の為に何か出来ると思ったので、周りの反応は悲しかったですがそれとは別に嬉しかったですよ」

 

「国の為……何故そこまで国にこだわりを? もちろん答えたくなければ構いませんが」

 

 

 僕自身踏み込んだ質問だと思ってるので、バエルさんの気持ちを尊重するつもりだった。答えたく無い質問だってあるだろうし、先に思ったとおりかなり踏み込んだ質問だ。答えない方が普通なのかも知れない。

 

「私は孤児でロシア政府が管轄する施設で育ちました。だからロシアと言う国が私の親なのですよ」

 

「……施設の先生とかではなく、国が親……ですか」

 

 

 その気持ちは僕には分からなかった。片親ではあったけども、僕には実の親が存在しているし、そこまで国に身を捧げる気持ちにはなれないからだ。それ以前に僕は日本という国に根を下ろす事も出来なくなってしまう可能性が高い全属性魔法師だ。バエルさんのように成長して国の為に働く、などと思うことすら出来ない立場なのだ。

 

「すみません、踏み込んだ質問をしてしまって。それでは残りの箇所を案内して早蕨荘に行きましょう」

 

 

 僕は何も言うべきでは無いと判断して、この話題を打ち切った。多少強引だったと僕も思ったし、バエルさんも不思議そうな表情を浮かべていた。でもその事を追求してくる事は無く、大人しく僕の案内についてきてくれている。その点は非常にありがたかった。

 

「さて、ここが早蕨荘です」

 

「立派な建物ですね。これが寮なんですか?」

 

「僕も最初は驚きました。こんな綺麗な建物で生活できるんだ、って」

 

「分かります!」

 

 

 僕は田舎で、バエルさんは施設で生活してきた人間だ。こんなにおしゃれで立派な建物で生活していいなんて考えられなかったからこの共感はある意味当然だったのかな。

 

「お帰りなさい。もう掃除も終わってるから部屋に案内するわね。元希君も来る?」

 

「いえ、僕は自分の部屋に戻ります。さすがに異性の部屋に上がりこむような無礼は働きたくないですし」

 

 

 言外に僕の部屋に来ないでと訴えたのだけど、恵理さんは笑って誤魔化した。バエルさんが真似するような事は無いだろうけども、毎朝部屋に誰か居るってのはかなりの恐怖だ。鍵を閉めても意味は無いし、こうなったら言外にではなく直接言ったほうが良いんだろうと分かってはいるんだけど……

 

「如何かした?」

 

「いえ……なんでもないです」

 

 

 恵理さんの笑顔を見ると、何故か強く言っちゃいけないような気分にさせられるんだよね。何でだろう?




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