A組との合同授業という事で、僕の周りには炎さんたちだけではなく秋穂さんとバエルさんもいる。うぅ……A組の男の子の視線が痛いよ……
「みんなにはまず、基礎魔法を自由に使えるようになってもらいます。既に自由に使える人もいるでしょうが、より精密に、より強力に魔法を使える為に基礎は重要になりますので怠らないようにしてくださいね」
涼子さんの説明にA組の男の子が元気よく返事をする。さっきまでバエルさんや美土さんに見惚れてたのに……そこら辺の気持ちの変動にはついていけないな……
「元希よ、ワシは散歩に出かけたいのじゃが」
「じゃあ何でついてきたのさ……」
授業が始まる前、僕は水についてくるか如何かを訊ねたのだ。その時はついてくると答えたのに、授業が始まってすぐに、水は別行動をとりたいと言ってきたのだ。
「基礎魔法の授業など、見ていても退屈じゃからのぅ。じゃったら敷地内を散歩しておった方がワシには有意義なのじゃ」
「好きにしなよ……水だって男の子から好奇の目で見られてるんだから」
服を着るのが嫌いなのか、水は上着を簡単に羽織るだけできちんと着ていない。早蕨荘内なら僕が我慢すればいいだけなのだが、学校では他の男の子の目もあるんだからと注意しても改めてはくれないのだ。
「主殿は心配性じゃのぅ。ちょっとくらい胸が見えたからと言って、誰も気にせんじゃろ」
「そんな事ないと思うんだけどな……」
既に余所見を誘発しまくっている水に、涼子さんが困ったような視線を向けているのだ。
「エロガキの視線なぞ気にするだけ無駄じゃ。ワシが意識してるのはお主の視線だけじゃからのぅ」
「うわっ!?」
見せつけるように抱きついてきた水に、僕は驚きの声を上げる。男の子だけじゃなく、炎さんたちからも鋭い視線を向けられ、僕は少し委縮してしまう……向けるなら僕じゃなくて水に向けてよね……
「東海林元希君、こちらに来て基礎魔法八種を見せてください」
「え、あ、はい」
何でか分からないけども、涼子さんも怒ってる様子だった。だから何でみんな僕に怒るんだろう……ふざけてたのは水だよ……
授業が終わり、僕は早蕨荘に帰ろうと廊下を歩いていたら、後ろから声を掛けられた。
「随分とモテモテだな、元希」
「あっ、健吾君……モテモテって何?」
「お前を何とかしようって、普通科の男子も意気込んでたぞ」
「僕が何をしたって言うんだよぅ……」
僕は昨日と同じように過ごしてただけなのに、何故か今日の方が嫉妬や殺意の目を向けられる回数が増えた気がするのだ。
「多分転入生が関係してるんだろうよ。彼女、普通科の男子にも人気があるからな」
「そうなの?」
「ロシア美人って噂だしよ。まぁ俺はあまりそっちには興味無いから」
確かにバエルさんは美人だし、近づきたいって思う男の子が沢山いてもおかしくは無いだろう。だけどそれと僕とが何の関係があるって言うんだよぅ……
「ま、元希は色々と目の敵にしやすいだろうし、お前なら怒っても怖くないって思われてるんじゃねぇの? 実際はどうなのか知らないが」
「僕を目の敵にすると、怖い理事長先生と神様がお怒りになると思うけど……」
「あ、そりゃやばそうだな」
言葉では戦いてる風の健吾君だが、顔は明らかに楽しそうな感じがした。まさかとは思うけど、健吾君が楽しむ為に僕は目の敵にされているのだろうか……
「せいぜい殺されないように注意するんだな。俺から言えるのはそれくらいだ」
「無責任だなぁ……もう少し考えてよ」
「だって俺の問題じゃねぇし。それに、元希なら殺される心配もないだろ」
信頼されているのだろうか? 健吾君は僕が殺されるなんて微塵も思ってない表情を浮かべて笑った。まぁ僕も簡単に殺されるような事は無いだろうと思ってるけども、それでも恐怖心は拭いきれないんだけどな……
「あ、元希さんちょうどよかった」
「ふえ? あっ、バエルさん。如何かしましたか?」
「ちょっと視線が……」
「あぁ……」
あからさまな視線がいくつかバエルさんに向けられてるのを、僕も感じ取った。確かにこれは居心地が悪いって感じちゃうかもね。
「帰りましょうか」
「そうですね。荷物の整理も残ってますし」
「あれ? 恵理さんたちが終わらせたんじゃないんですか?」
僕の時は恵理さんと涼子さんが二人で全部やっちゃってたけど……
「さすがに下着などは自分で整理したいですし」
「そ、そうですか……」
今、殺意の目が僕に突き刺さったような……僕は見てないからね!
「それにしても、本当に元希さんは凄い魔法師だったんですね」
「? 如何いう……」
「だって見た目はこんなにも可愛らしいのに、魔法を使ってる時の元希さんは非常に心強い感じがしましたもの」
「そうですか? なんだか嬉しいですね」
魔法が使えるってだけで、田舎では奇異の目を向けられていた僕だが、こうして魔法を使って頼もしいと思われるのはなんだかとっても嬉しい。バエルさんも僕と似たような環境だったからだろうか、僕の気持ちが分かるようだった。
「あの視線は、耐えられませんものね……」
「それだけ魔法師が珍しいんでしょう」
僕たちはそれぞれの育った環境を思い出しながら早蕨荘迄の道のりを進んでいく。途中から視線も気にならなくなったからなのか、僕とバエルさんの足取りは軽いものに変わっていたのだった。
自分で話考えてるのに、サブキャラ好きの悪い癖が発動している……