宴もたけなわという事で、そろそろ歓迎会も終わりを迎えようとしていた。
「せっかくだからみんなも今日は泊まっていったら?」
恵理さんのこの一言は、僕にとって嫌な予感しかなかった。
「でも恵理さん、部屋ってそんなに余ってませんよね? それに、着替えとかもあるでしょうし」
「着替えくらいなら私か涼子ちゃんのを貸せば大丈夫よ。シャツや下着は洗濯しておけば大丈夫だし、明日も学校だから制服で十分よ」
「で、ですが……」
僕が気にしているのは「あのルール」だ。生活するわけではないけども、恵理さんの事だからあのルールを適用させるかもしれないのだ。
「元希はアタシたちに泊まってほしくない理由でもあるのか?」
「そういう訳じゃないけど……」
「じゃあ、私たちはお泊りさせていただきますね」
「元希さんと夜も一緒なんて、なんだか緊張するわね~」
「美土、セリフと顔が合ってないよ」
「寮での生活って、なんだか憧れるよね」
みんなノリノリでお泊りする事を前提で話をしている。お願いだからあのルールだけは黙っててほしいな……
「それじゃあまず、誰がどの部屋に泊まるかね。公平を期すために寮で生活してる人もくじを引いてもらうからね」
「如何いう意味ですか?」
僕たちは自分の部屋で寝るんじゃないのだろうか……
「人数的にちょっと部屋が足りなくてね。二組は相部屋って事になるから」
「つまり、元希様と一緒の部屋になれる可能性もあると?」
「そういう事」
恵理さんの悪戯っぽい笑みに、僕は最大級の怖気を感じた。あの人の事だ、何か仕込んでいるかもしれない。
「じゃあまずはお泊り組からくじを引いてね」
炎さん、水奈さん、美土さん、御影さん、秋穂さんの順でくじを引き、それぞれが一人部屋に決定した。
「残ってるのは、私、涼子ちゃん、リーナ、水、バエルちゃんと元希君ね。この中から二組相部屋の人が出るから、覚悟はしておく事ね」
やっぱり仕込んでたのだろうか……あり得ない確立では無いけども、それでも五人がそれぞれ一人部屋を引く確立よりはよっぽど低い確率だろう。
「まずは私ね……あら、自分の部屋だわ」
「邪念が入るからですよ……元希君の部屋ですね、私は」
一人部屋なのだが、涼子さんは妙に嬉しそうな顔をしていた……そういえば、僕は僕の部屋で寝て、他の人たちでくじ引きをすればよかったんじゃないだろうか……
「つまり、残り四人は誰かしらと一緒って事ね。羨ましい」
「ではワシから……2じゃな」
「じゃあ次は私……2?」
「あら、水とリーナが同部屋なのね」
「くじを引く前に終わっちゃったわね」
つまりはそういう事なのだ。残ってるのは僕とバエルさん。そして残ってる部屋は相部屋のみ……
「二人仲良くね。それじゃあみんなでお風呂に入りましょう」
「それって元希も一緒なんですか?」
恵理さんの宣言に炎さんが首を傾げて問う。頼むから誰か一人でも反対してくれないだろうか……
僕の願いもむなしく、みんなでお風呂に入る事になってしまった……ちなみに湯船の狭さだとか、洗い場の狭さだとかは魔法で如何とでもなるそうだ。
「うら若き乙女たちが、異性の元希君と一緒にお風呂に入りたがるとはね」
「姉さんが仕向けたんですよね?」
「だいたい、元希ちゃんと一緒に入れるって言われて断る女はいないわよ」
「そうじゃのぅ。元希のものは立派じゃからの」
「うぅ……」
なんだこの辱めは……唯一バエルさんだけは同情的だけども、普段僕に同情的な秋穂さんや御影さんまでノリノリだし、ここに僕の味方はいないと考えるべきなのだろうか……
「それじゃあ今日は五人に元希君を洗える権利をあげましょう。私たちは常に元希君と一緒にお風呂に入れるからね」
「そうなんですの?」
恵理さんの言葉に水奈さんが首を傾げる。お願いだからあのルールだけは言わないでください。
「早蕨荘では、お風呂は全員一緒に入るのがルールなの。わざわざ沸かし直すなんて面倒な事を避けるためにね」
「でもそれって、元希君も承諾してるんですか?」
「実は元希君は反対してたんだけど、姉さんが強権を発動して反対意見を握りつぶしたのよ」
「なるほど……じゃあわたしたちもここで生活すれば元希さんと一緒に!」
「この早蕨荘は住む場所の無い生徒の為の寮よ。魔法大家の貴女たちや、名門の岩清水さんが生活するような場所では無いのよ」
秋穂さんのお家も名門だったんだ……僕は現実逃避ぎみにそんな事を考えていた。
「我が主よ。何時まで前を隠してるつもりじゃ?」
「ずっとだよ! それくらい分かるでしょ!?」
タオルを奪おうとした水を払いのけ、僕は逃げるように湯船に入ろうとしたのだけど……
「まだ身体を洗って無いわよ? 悪い子の元希君には、罰が必要よね?」
「え、恵理さん……笑顔が怖いです」
「みんな、元希君の全身、隅々まで洗ってあげましょう!」
恵理さんに襲われるようにタオルを奪われ、僕は恥ずかしさから意識を手放すのだった……炎さんたちにまで見られちゃったな……明日から如何やって話せばいいんだろう……
「あれ?」
随分と意識を失っていたのか、それとも一瞬だったのかは分からなかったけども、僕は背中に柔らかい感触を覚えた。
「皆さん、元希さんが嫌がってます」
「バエルさん……」
「大家さんの言う事は絶対よ。バエルちゃんも分かってるでしょ」
如何やら一瞬だったらしい……まだ僕はお風呂場にいた。そして、恵理さんの強権発動によって、バエルさんの意見も握りつぶされたのだった……
自分でやってて元希君が可哀想……