午後の授業はA組と合同のバーチャル戦闘訓練だ。僕たちS組の五人と、A組の秋穂さん・バエルさんの七人は上級モンスターとの戦闘、それ以外のA組のメンバーは初級モンスターとの戦闘らしい。
「よろしくね、元希君」
「秋穂さんも。バエルさんはバーチャルの戦闘は初めてですよね?」
「はい。そもそも魔法を使った戦闘自体が初めてですので」
「あっ、そうでしたね」
バエルさんが魔法師として覚醒したのは、この学園に来る少し前。それまでは普通の生活をしていたんだし、ロシアでは魔法の訓練や授業を受けてないのだから当然だった。これは僕の失念だったな。
「そういえば元希、水のヤツは何処に行ったの? アイツも一緒ならもっと楽が出来るのに」
「水なら涼子さんに呼ばれて何処かに連れてかれちゃったよ。なんでも水が必要な案件が出来たらしいけど」
その為、この訓練の担当は涼子さんではなく恵理さんだ。何となく……いや、確実に嫌な予感がしてるんだけども、その事はみんなに悟られないようにしなければ。
「は~い、上級者の七人はこっちに来てね」
「理事長先生、私たちもそれほど経験があるわけではないのですが」
「それでも、中級以上の魔法を使う事が出来るんだけら、少しくらい難易度が高くても大丈夫よね。何より元希君がいるんだし」
ウインクしながら僕を見てくる恵理さん。いやいや、僕だってここに来るまでは戦闘なんてした事なかったんですけど……
僕の無言の問い掛けには一切答えずに、恵理さんは僕たちを架空世界へと転送する。出来る事ならば、一体とかにしてくれないかなぁ……
僕の希望が通ったのかは分からないけども、今回の敵は一体だけのようだった。僕と御影さんの二人でこの世界の情報を集めそれを表示して全員と情報を共有する。
「今回のモンスターはケンタロスか……近づかれたら危ないね」
「誰かがおびき出してくれれば、わたしの魔法で落としますけど」
「でもケンタロスって知能が高いんじゃなかったでしたっけ? 上手くおびき出せますかね?」
「いっそのこと元希君に任せれば……」
「でも、それだと授業に意味が無いよ?」
秋穂さんの案は、御影さんの正論で却下された。僕としてもみんなで倒すから意味があると思ってるので、今回はみんなで倒したいのだ。
「じゃあ水奈さんとバエルさんでケンタロスの脚を凍らせて、残りで攻撃するのは如何?」
「でも元希、どうやってケンタロスをおびき出すんだよ?」
「まぁ見てて」
僕は魔法を詠唱する為に六人から距離を取る。失敗するつもりは無いけども、常に最悪が起こっても良いように準備だけはしておかなければね。魔法は簡単に日常生活を奪う事が出来るんだから。
「氷の狼よ、その姿を顕現し全てを凍らせよ『フェンリル・コキュートス』」
敵を倒す為ではなく、今回は囮を頼む為に、僕は禁忌魔法を発動させた。そして姿を現した氷狼にケンタロスをおびき出してもらう事にした。
「お願いね」
何故氷狼を選んだのかというと、水奈さんとバエルさんとの相性を考えてだ。例えば炎の巨人だと、二人の魔法を溶かしてしまうかもしれないし、雷の鷲だと今度は一緒に固まって倒されてしまうかもしれない。そうなると顕現させた僕にも少なからずダメージが来るので、それは避けたいと思ったからだ。
「さて、それじゃあ水奈さんとバエルさんは準備して。僕たちは動きが止まってからが出番だからね」
六人に指示を出して、僕は氷狼の動きを追う。上手くおびき出してくれると良いんだけど。
「大丈夫、元希君の思惑通りにケンタロスは動いてる」
「みたいね。だけど、僕たちの匂いでバレる可能性もあるし……風よ、我らを包み姿を隠せ『ウインド・カーテン』」
気流を操作して、僕たちの匂いがケンタロスに届かないようにする。これなら匂いでバレる事は無いだろう。あとは、あのケンタロスの知能が高すぎないように祈ろう。
「来た。いきますわよ、バエルさん」
「は、はい」
水奈さんの合図でバエルさんも魔法を詠唱する。
「「氷よ、かの者の脚を止めよ『アイスフロア』」」
地面を凍らせ動きを鈍く、あるいは完全に止める魔法『アイスフロア』。氷狼はその魔法をものともせずその場から離れていく。
「いきますよ、みなさん!」
「美土がしきらないの!」
「炎は使えないから岩でいくよ!」
「宣言しなくても良いよ」
それぞれがそれぞれの得意魔法で攻撃を仕掛ける。炎さんは『アイスフロア』の効果を残す為に炎系の魔法ではなく岩系の魔法を放つ。美土さんは風、御影さんは視界を奪う光魔法だ。
「アイス・フェンリル!」
囮として使った氷狼を呼び戻し、僕はケンタロスへと襲いかからせる。本来の用途であり囮などという仕事をさせられていた氷狼は、嬉々としてケンタロスへと噛みついた。
『は~い。敵モンスターの沈黙を確認。みんなの勝ち~!』
恵理さんの終了のアナウンスを聞き、僕たちは現実世界へと帰還した。それにしても、本当に一体だけで終わってよかったな……恵理さんの事だからきっと何か企んでると思ってたよ。
「それじゃ、今度は元希君一人で頑張ってね」
「……え?」
如何やら悪だくみはあったようだった。現実に戻ってきたばかりの僕を、恵理さんは再び架空世界へと転送したのだった……何で僕ばっかりなのさ。
次回元希君が一人で戦います。