何のイジメだか分からないけど、僕だけもう一戦あるらしい……架空世界に一人飛ばされた僕は、見えるはずのないモニタールームに視線を向けた。
「恵理さん、これは如何いう事なんですか? 何で僕だけこんな事を……」
『だってね~。元希君はあの七人の中でも別格でしょ? だから、個人の戦闘能力も見ておきたくてね』
まるでウインクでもしているような感覚が恵理さんからしている。きっと残りの六人も呆れてる事だろう……
『今回の魔物は元希君が討伐した事のある種族だから安心してね』
「討伐って……僕が正式に討伐したのはヤマタノオロチだけ……って!?」
恵理さんの悪戯の全容が明らかになったような気がしてきた。あれは僕一人で倒したわけでも、正確にいえば倒してない魔物なのだけど……
『大丈夫よ、能力はかなり低めに設定してあるし』
「どうなっても知りませんからね」
架空世界での怪我なら問題ないのだろうけども、こういった訓練での恐怖から魔法を使えなくなる人もいるって聞いてるんだけどな……魔法が使えなくなったら、僕はこの学園にいられなくなるし、みんなとも別れる事になっちゃうんだよね……それは避けたいな。
『じゃあ、頑張ってね。もうヤマタノオロチは元希君の事に気づいてるから』
「えぇ!? 何でそんな意地悪をするんですか!」
『えっ? だってこっちの方が面白いし、何より元希君の凄いところがみられるでしょ?』
この人はまったく……僕の大変さを少しは理解してくれないかな……
「さて、何時までも愚痴垂れてても仕方ないし、とりあえずヤマタノオロチの気配を……」
探ろうとしたけでも、それは無意味だとすぐに分かった。なぜなら……
「後ろ!?」
すぐ背後にヤマタノオロチの気配がしたのだ。慌てて振り返ると、既に攻撃態勢に入っているヤマタノオロチの姿が確認出来た。
「あぁもう! 『フェンリル・コキュートス』『ライトニング・イーグル』『イフリート・エクスブロ―ジョン』」
敵の属性を確認している暇も無かったので、僕はとりあえず禁忌魔法三連発を放つ。これで冷静さを取り戻す時間は確保出来るだろう。
「本物のヤマタノオロチは恵理さんと涼子さんと僕の三人で……いや、僕はあくまで補助だったから二人なんだよね……とにかく、倒すのではなく異次元に閉じ込めて終わらせたんだ。だからヤマタノオロチの弱点とか攻撃方法などは正確には掴めてないはずだ……なのに何故バーチャルでヤマタノオロチが出てくるんだろう?」
いくら架空とはいえ、ある程度の情報は必要……いや、架空だからこそ本物の正確な情報が必要なはずなのに。でも今目の前にいるのは間違いなくヤマタノオロチなのだ。
「考えてても仕方ないかな……とりあえず終わらせよう」
三体の召喚獣を囮に、僕は現実世界でも使った『ブラック・ホール』を発動させた。大体あの時は首も二本しか外に出てなかったし、日本支部の魔法師たちも障壁を張るのを手伝ってくれていたから呑み込めたのだ。この状況で僕一人でヤマタノオロチを呑み込めるのかは、かなり微妙な感じがする……
「やっぱりきつい……」
確実にヤマタノオロチは「ブラック・ホール」に呑み込まれてはいっている。だけども抵抗が激しく僕の体力がもつか如何か微妙なところになってきてしまった。
「こうなったら」
使える初級魔法を同時にヤマタノオロチにぶつけ、向こうの体力を削る作戦に変更する。召喚獣たちも頑張ってくれてるけども、やはりヤマタノオロチは簡単には呑み込まれてはくれない。恵理さん、能力は低くしてあるとかいってたけど、それは基準を何処においての「低く」なのかちゃんと聞けばよかったな……
「そろそろ本当に拙いよぅ……『ライトニング・ボルト』」
初級魔法ではそれほど体力を削れなかったので、僕は他の魔法もぶつける。あっちの体力と僕の体力、どちらに余裕があるかと問われれば、間違いなく向こうの方が余裕そうだ。それでも僕は諦める事を選ばない。諦めたらやられる、それは架空世界であろうと現実世界であろうと変わらないのだから。
「これが駄目なら……『アイス・フロア』」
踏ん張るヤマタノオロチの足を、凍らせた地面で滑らせる。もしこのヤマタノオロチが氷属性だったら使えなかっただろうけども、如何やらあのヤマタノオロチは氷属性では無かったらしい。
『は~い。お疲れ様』
「本当に……疲れました……」
禁忌魔法に上級魔法、中級魔法に初級魔法と、使えるものは全て使い漸くヤマタノオロチを呑み込む事に成功したのだ。疲れない訳がない。
『それじゃ、今から現実世界に戻すわね』
「お願いします……」
もしもう一戦とか言われたら、僕は間違いなく負けていただろう。だってもう魔法を発動させるどころか歩く体力すら残っていないのだから……
「あれ? もしかしてこのまま現実世界に戻ったら……」
みんなに何かされても抵抗出来ないんじゃないだろうか? 別にみんなを……いや、恵理さんを疑ってる訳じゃないんだけども、これって仕組まれていたのではないか、という疑問が僕の中に生まれ、それは現実世界に復帰した途端に現実のものとなった。疲れてるんだから、祝福と称した悪戯は勘弁してもらいたかったんだけどな……恵理さんの熱い抱擁の衝撃で、僕は意識を手放したのだった……
そろそろまた非日常パートを考えなければ……