へろへろの状態で恵理さんに抱きつかれたので、僕は意識を失ったらしい。最近では意識を失うのにも慣れたのか、こうやって客観的に自分の状況を知る事が出来るのだが……これって良い事なのだろうか?
「ん……」
何となくだが、さっきまでの状況は良くないような気がして、僕は意識を取り戻そうと努力する。身体を動かそうとしてみたり、意識を覚醒させようと必死になってもがく。
「元希君! 大丈夫?」
「……なんとか大丈夫です」
心配そうに覗きこんできている恵理さんに、僕は何とか返事をする事に成功した。さっきまでの空を飛んでいるような感覚は、とりあえず治まった。
「良かった。まさかいきなり気を失うなんて思ってなかったから」
「ちょっと無理しましたからね……衝撃に耐えられませんでした」
無理をしたのは僕だけど、無理をしなければいけない状況を作ったのは恵理さんだ。七人で戦闘訓練をした後すぐに、僕一人だけもう一戦させられたのだ。しかも相手は僕一人では倒せないであろうヤマタノオロチ。無理をしなければ僕は無事に現実世界に戻ってこれなかっただろうな。
「良かったわ、本当に……バエルちゃん、元希君をお部屋まで運んであげて」
「分かりました」
「あれ? まだ授業中じゃ……」
「もうとっくに終わってるわ。ここは保健室よ?」
言われてから、僕はこの部屋に消毒液の匂いが混じってるのに気がついた。時計を見れば既に放課後、もっと言えば最終下校時間も近づいていた。
「帰ったらゆっくり休む事ね。家事は私たちがやっておくから、元希君は安静にしてる事。もし動いてたら元希君の貞操を奪っちゃうかも」
「……怖い事言わないでくださいよ」
教師としてその発言は良いのか? とも思ったけども、それくらい僕の事を心配してるんだろうなと分かったのでそう返した。
「それじゃあ元希さん、私の背中に乗ってください」
「うえぇ!? 大丈夫ですよ、もう歩けますから」
いくらバエルさんの方が大きいからといって、女の子の背中におぶさるのは恥ずかしい……てか情けないから遠慮したいのだけど……
「まだ意識がハッキリしてないでしょ? だからバエルちゃんに運んでもらいなさい」
「……だって恥ずかしいじゃないですか」
「そんな事言ってると、本当に貞操を奪っちゃうからね?」
「はい……大人しく運ばれます……」
恵理さんの目が、雰囲気が冗談だと言ってなかったので、僕は大人しくバエルさんに背負われる事にした。事情を知らない人が見たら、姉に甘えてる弟って感じに見えるのかな……同い年なのに何でこんなにも成長スピードが違うんだろう……
幸いな事に、バエルさんに背負われてる時に知り合いどころか誰ともすれ違わなかった。さすがに最終下校時間が近かった為、校内には殆ど人が残って無かったのだろう。
「ごめんなさい、重くないですか?」
「大丈夫ですよ。むしろ軽くて羨ましいです」
本来なら女性が言うはずのセリフを僕が、男性が言うはずのセリフをバエルさんが言う。なんだかおかしな感じがするけども、見た目的には合っているのだ。
「頑張って牛乳とか飲んでるんですけど、一向に背が伸びる兆しが無いんですよね……」
「私は特に何もしなかったんですけどね……女子としてこの高い身長はちょっと嫌です」
バエルさんは健吾君と並べばちょうど感じの身長なのだ。僕みたいに背の低い男と一緒にいると、余計に大きく見えるんだろうな……
「とりあえず、元希さんの部屋まで運びますね」
「いえ、ここ迄くれば大丈夫ですよ。後は自分でいけますから」
「ですが、理事長先生に元希さんの貞操を奪わせるのは……」
何となくだけども、バエルさんが恵理さんに敵対心を向けているような気がする……本当に気がするだけなんだけども。
「分かりました。じゃあ部屋までお願いします」
バエルさんに背負ってもらってるからなのか、僕はさっきから睡魔と闘っているのだ。程よい体温が身体中に広がってきてるし、バエルさんは僕を襲ったりしないと確信しているからか、安心も出来るのだ。
これが恵理さんやリーナさんだったら緊張感で睡魔など襲ってくる暇も無かったのだろうけども。
「元希さん、眠いんですか?」
「だ、大丈夫です……まだ起きてます……」
僕の眠気に気づいたのか、バエルさんが心配そうな顔で僕の事を見てきた。でも何となくバエルさんの表情は優しさに満ち溢れているような感じがしている。
「眠かったら寝ても良いですよ。ちゃんとお布団も敷いてあげますから」
「大丈夫……」
「元希さん?」
「くー……」
結局僕は、バエルさんの背中に負ぶさったまま寝てしまったのだった。次に起きた時、僕は制服のまま布団の中にいたのだった。さすがにバエルさんは僕を着替えさせようとか思わなかったようで、僕はホッとしたのと同時に、バエルさんに申し訳ない気持ちでいっぱいになったのだった。
やっぱりこの二人の安心感は書いてて気分が良いです