その少年全属性魔法師につき   作:猫林13世

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やられるだけの主人公じゃないですよ


元希君の決意

 影の知らせを感知した僕と御影さんは、他のみんなに説明する時間を惜しんで現場に駆け付けた。

 

「なんか……大変な事になって無い?」

 

「うん……かなり危ないかもしれない……」

 

 

 影から情報はもらっていたけども、まさかここまでとは思ってなかった……あれって超大型モンスターってやつじゃないのかな……

 

「おい二人とも、いきなり走り出すなんて……なに、あれ……」

 

「蟹……でしょうか?」

 

「少なくとも普通の蟹じゃなさそうね」

 

「あの気配を掴んだから元希さんと御影は走り出したのね……」

 

「あれが……モンスター……」

 

 

 僕たちの後を追いかけてきたのだろう。残りの五人も例の超大型モンスターの存在を見て驚いている。まぁ、現在進行で魔法協会の魔法師たちが攻撃を仕掛けているのに、あの大蟹はまったく気にした様子は無く進んでいるんだもん、驚いてもしょうがないよね……

 

「あれって普通の魔法師で倒せるものなのか?」

 

「どうでしょう……少なくとも学生である私たちでは無理そうですわ」

 

「ですが、元希さんなら大丈夫なのではないでしょうか?」

 

「さすがに無理だよ……あんなのバーチャルでも戦った事が無いもん……」

 

 

 ヤマタノオロチは一度現実で、そして昨日は架空で戦ったけども、あんな化け蟹なんて退治したことないよ……

 

「理事長に連絡……って、もう来てるわね」

 

「さすがはSランク魔法師って事なのでしょうか?」

 

「さっきボクの影が気配を掴んだのと同時にあの二人に連絡をした。さすがにボクたちだけじゃ無理だと思って」

 

「なるほど……さすが御影だね。冷静な判断だったと思う」

 

 

 恵理さんと涼子さんの二人がいれば、あの化け蟹も何とか出来るかもしれない……でも、これだけ日本支部の魔法師がいるのに、誰一人気配に気づいて無かったのかな? 僕たちの影が気配を掴んだ後も、ショッピングモールには警戒警報が発令されなかったし……

 

「元希君、現状は?」

 

「えっと、警備員の人に一般人の避難誘導をお願いして、僕たちは前線であの蟹の足止めを、と思ってきたんですけど……想像以上の大きさでちょっと困ってます」

 

「被害者は今のところ魔法協会の人たちだけ。非難はスムーズに行ってると思います」

 

「なるほどね……でも、ここに来てたのは偶然かしら? 大型モンスターの目撃情報は貴女たちも知っているはずよね?」

 

 

 魔法大家の娘である四人と、名門岩清水家の令嬢である秋穂さんに視線を向ける恵理さん。僕とバエルさんは寮生だし魔法協会からの通達も届かないのだ……だって恵理さんと涼子さんが日本支部とは仲が悪いから……

 

「いるかも、という事は知ってましたけど、まさか本当にこのタイミングで現れるとは思ってませんでした」

 

「私もです。家からは注意しろと言われてましたけども、まさか自分が来るタイミングで出現するとは……」

 

「そっか……まぁそうよね……」

 

「姉さん、結界張り終わりました」

 

「了解。じゃあ元希君以外の六人は、涼子ちゃんのフォローを。この結界を破られたら一般人にも被害者が出るわよ」

 

「えっと……僕は?」

 

 

 何で六人だけがフォローに回るんだろう……僕も出来るならそっちが良いなって思ってるんですが……

 

「元希君は負傷した日本支部の魔法師の治療をお願い。むかつく相手だけど、徒に命を散らさせる必要は無いわ」

 

「わ、分かりました」

 

「それが終わったら私のフォローをお願い。足止めするにしても、倒すにしても、さすがの私でも一人じゃ厳しいから」

 

 

 この状況でも、恵理さんはウインクを僕に見せてくれた。余裕があるのかと勘違いしそうだけども、恵理さんの表情に余裕は見られなかった。

 

「急いで手当しなきゃ!」

 

 

 僕はとりあえず避難させられている負傷者の集団に近づき回復魔法を発動させる。

 

「ば、化け物……」

 

「第三の化け物だ……」

 

「こ、殺される……!」

 

 

 この人たちはあのヤマタノオロチ討伐の時にも現場にいた人たちなのだろう。僕の顔を見るなり恐れ、怯え、戦いた。

 

「(予想出来たとはいえ、この対応は傷つくな……でも、へこんでる場合ではない!)」

 

 

 全属性魔法師が恐れられるのは仕方のない事だと割り切り、僕は怪我の治療を進めていく。

 

「こんな事になるなら、水を連れてくれば良かった」

 

 

 水属性なら回復魔法が使えるだろうし、まぁ汚れも落とせただろうし……

 

「それにしても、魔法師って女性が多いんじゃなかったっけ? 何で日本支部の人たちは男性が多いんだろう?」

 

 

 確か女性8に対して男性は2の割合だった気がするんだけど……

 

「それは、この部隊が男性魔法師のみで構成されているからだ……」

 

「あっ、そうなんですか……って、その傷でしゃべらないでくださいよ!」

 

 

 急いで回復魔法を施術して事なきを得たが、あと少し遅かったら命の危険性があったな……

 

「他のものは君や早蕨姉妹の事を恐れ、怯えているが、実際には君たちには助けられていると私は思っている」

 

「そうですか……でも、無理はしないでくださいね。あんな傷でしゃべれば血がいっぱい出ちゃうんですから」

 

 

 日本支部の人の中にも、僕や恵理さん、涼子さんの事を認めてくれる人はいるんだなぁ……って、そんな事思ってる場合じゃないや。

 

「えっと、動ける人は急いでここから離れてください。もし可能なら向こうで結界を保ってる涼子さんや霊峰学園の生徒たちの援護をお願いしたいんですが……」

 

 

 さすがに戦うのは無理だろうと判断したのか、ちょっとおもしろくなさそうな顔をしながら負傷者だった人たちは結界の維持を手伝ってくれる事になった。

 

「では、私も手伝いに行く。悪いがあの魔物は君と早蕨恵理に任すぞ」

 

「あっ、はい」

 

 

 僕も自信など無いけども、本職の人に任されちゃったら逃げる事も出来ないだろう。という事で治療が終わったので僕は恵理さんの側に駆け寄った。

 

「恵理さん、終わりました」

 

「そうみたいね。でも、コイツを倒すのは無理そうね……また異空間に飛ばすしか……」

 

「蟹って事は水属性ですよね? 凍らせるのは如何です?」

 

「大きすぎて無理よ……それに、コイツ自分に回復魔法を常駐でかけてるみたいなの。凍らすにしても一瞬でじゃないと……」

 

「禁忌魔法『コキュートス』なら大丈夫ですかね?」

 

「どうかしら……それに、私は『コキュートス』は使えないわよ?」

 

「大丈夫です、僕がやりますから」

 

 

 あの大きさの蟹を凍らせた事は無いけども、他に出来る人がいないんじゃしょうがない。僕がやるしかないよね。




少しは男の子らしいところを見せておかないと……ヒロインとの絡みも男女逆ですし……

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