その少年全属性魔法師につき   作:猫林13世

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完全にそんな感じです……


主婦(夫)的思考

 午後の授業も終わる時間になってきて、僕とバエルさんはいよいよする事が無くなってきていた。もともと大人しくしてる暇があるなら、何かしていたいという思考の持ち主なので、安静にしている事はある意味で苦痛なのだ。

 

「せっかく寮にいるんだし、思いっきり掃除でもしたいな」

 

「そうですね。普段出来ないところまで隅々掃除したいですね」

 

「お主らの気持ちは分かった。じゃが認める事は出来んからの」

 

「何言ってるのさ。水も掃除するにきまってるじゃないか」

 

 

 自分は掃除などしなくてもいい、と思っている水に、僕は当然の如く告げる。

 

「じゃから、掃除する事は認められんと申しておるじゃろ! 主様とバエルは安静にしておらねばならぬのじゃからの! 掃除なぞ始めたらあちこち駆け回るじゃろうが!」

 

「でも、こんな機会でもなきゃ隅々まで掃除出来ないし……」

 

「自分たちが生活している場所ですし、機会があるなら綺麗にしたいじゃないですか」

 

「この主婦コンビめが……駄目と言ったら駄目じゃ! お主たちがまずせにゃならんのは、寮の掃除ではなく魔力の回復じゃという事が分からない訳ではあるまい?」

 

 

 確かに水の言っている事も間違ってはない。早く魔力を回復させないと、何時まで経っても寮から出る事が出来ないのだから。

 でも……それでも、僕とバエルさんはこの寮の隅々まで掃除したいと思うのだ。普段はそこまで凝る事が出来ないので、時間のある今だからこそ、と思ってしまうのだ。

 

「だいたい掃除なぞ何時もしておるじゃないか! それなのに、何故わざわざ集中して掃除をしたいなどと思うのじゃ?」

 

「普段の掃除では綺麗に出来ていない場所まで掃除したいんだよ。そうすればすっきりするでしょ?」

 

「ワシは今の状態で十分すっきりしておるわ。じゃからお主らが掃除したいなどとのたまっても認めるわけにはいかんのじゃ」

 

「のたまうって……普通の気持ちだと思うんだけど……」

 

 

 自分たちが生活している場所だからこそ、時間があれば綺麗にしたいと思うものだと、僕は思う。それはバエルさんも同じのようで、僕の言葉に何度も頷いているのだ。

 

「とにかく! お主たちが優先せねばならぬのは、掃除ではなく魔力の回復じゃ! 万が一にも魔力が枯渇すれば、もうこの寮にいられなくなるやもしれぬのだからな」

 

「別に魔法を使って掃除はしないんだけどな……」

 

「屁理屈を言うでない! ほれ、大人しく布団に入るのじゃ! バエル、お主もじゃからの!」

 

 

 水は僕とバエルさんの身体を押し、強引に布団に潜り込ませた。

 

「まったく。お主らは何で自分の事を後回しにするのじゃ」

 

「そんな事言われても……昔からの性分だし」

 

「私もです……」

 

 

 そろって呟いた言葉に、水は盛大なため息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水に怒られて暫く経って、僕は寮の外に人の気配を感じた。もちろん魔法を使って確かめるなんて事はしなかったけど。

 

「おっじゃましまーす! 元希、元気か?」

 

「元希様、ご無事ですの!?」

 

「元希さんなら無茶をしても大丈夫でしょうけども、あまりお姉さんに心配を掛けるのは感心しません」

 

「元希君もバエルさんも大人しくしてた?」

 

「これ、お見舞いの品だよ」

 

 

 あっという間に寮にいる人間が倍以上に増えた。みんな心配してお見舞いに来てくれたのだ。

 

「てか、元希とバエル、同じ部屋で寝てるんだな」

 

「これは看病しやすいようにじゃ。普段は別々の部屋に決まっておろうが!」

 

「水様、炎さんも冗談で言ってますので、そこで本気に取られると反応に困ってしまいますよ」

 

「なぬ? そうじゃったのか」

 

「今のは半分以上本気っぽかったですけどね~」

 

「美土、からかって楽しむのは止めた方がいい」

 

「ほんと、相変わらずよね」

 

 

 一日大人しくしていたからか、みんながいてくれるだけでかなり嬉しい。この気持ちはバエルさんも一緒のようで、笑いながら泣きそうな顔をしている。

 

「なんだよー。そんなにアタシたちに会えたのが嬉しいのか?」

 

「仕方ありませんわよ。一日中寮の中で過ごしてたんですもの」

 

「話相手もお互いか水さんだけですものね~。半日もすれば飽きますわよ」

 

「念話でも……って、元希君に魔法を使わせちゃ駄目だった」

 

「御影も偶に抜けてるわよね」

 

「むっ! そういう秋穂はしょっちゅう抜けてる。この前もパンツの上にパンツを穿いてた」

 

「それは内緒って言ったでしょ!?」

 

 

 一気に騒がしくなった部屋に、僕とバエルさんは思わず笑ってしまった。

 

「お主らが思っておる以上に、お主らは大切に思われておるのじゃ。じゃから自分をもう少し大切にする事じゃ」

 

「うん。そうだね……そうするよ」

 

「なかなか難しいですが、私も頑張ってみます」

 

 

 昔から自分より他人を優先してきた僕たちにとって、自分本位という考えは非常に難しい。それでも、大切に思ってもらえてるのだからもう少しくらい、という気持ちも当然のように芽生えたのだ。

 

「それじゃ、夕飯はアタシたちが作ってやる」

 

「なにが『それじゃ』なのかは分かりませんが、私たちが愛情をこめて作って差し上げますわ」

 

「安心して、元希君。何かありそうだったら全力で異空間に飛ばすから」

 

「……そんな物騒な事が起こらないように祈ってるよ」

 

 

 間違ってもキッチンで科学実験や爆発などが起こらないように、僕はこっそりと祈るのだった。




苦労人なんです二人とも……

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