二日学校を休んで寮で大人しくしていたおかげで、とりあえずの魔力は自分で作り出す事が出来るようになった。それでもまだ、戦闘訓練は避けた方が良い状況なので、今の時間はバエルさんと二人で教室でのんびりしている。
本当は体育館まで一緒に行って見学するつもりだったのだけども、万が一参戦したくなったら拙いからって事で僕とバエルさんは体育館までの同行を禁止されてしまったのだ。
「涼子さんも心配性ですよね……」
「ですが、早蕨先生が私たちの事を心配してくれている事は確かですし」
「でも、こうして教室に二人だけってのも退屈ですし」
「今のうちに休んでいた分の授業のノートを写すんですから、退屈とは言えないんじゃないですか?」
「そうですけど……」
僕は水奈さんに、バエルさんは美土さんにノートを借りて、今は休んでた分のノートをひたすら書き写しているのだ。コピーすればいいんだろうけども、どうせ時間が余ってるんだからって事で書き写しているのだ。
「元希さんは誰かを好きにならないんですか?」
「ぐぅっ!? な、何ですかいきなり……」
いきなりのバエルさんの質問に、一瞬呼吸困難に陥り、慌てたように身体が酸素を求めだした。それにしても何でいきなりこんな事を聞いてくるんだろう……
「いきなりでした? この間私は元希さんに告白しました。その返事をもらって無かったのを思いだしたので」
「……何時かは好きになる時は来ると思います。僕も人間ですから。でもそれは今じゃ無い」
「何でですか?」
「今は勉強に集中したいんです。ただでさえ僕は、他の人よりも魔法に接してきた時間が短いんですから。授業以外の時間も、出来る事なら魔法に関する事に使いたい」
「真面目ですね」
「真面目、とは違うんです。僕はしっかりと勉強して魔法師として立派になって、今まで苦労を掛けてきたお母さんに恩返しをしたいんです。女手一つで僕を育ててくれたお母さんに、少しでも楽をしてもらいたいから」
「そうですか。でも、その気持ち分かります。私も施設の人に恩返ししたいですから」
片親である僕と、両親が無く施設で育ったバエルさん。境遇が似ていると言えばそうなのだが、僕の気持ちを分かってもらえたのは嬉しい事だと思う。
「では、もしその願いがかなった時、もう一度告白しますね」
「ありがとうございます。本当にうれしいです」
バエルさんのようなきれいな人に好きになってもらえるなんて、僕からすればあり得ない事なのだ。炎さんたちも何でか分からないけど僕の事を好いてくれているようだし、本当に何でなのかが分からないけど、これが俗世間で言う「モテ期」ってやつなのだろう。
教室でバエルさんと語り合ってから数日後、僕もバエルさんもすっかり元通りの生活が出来るようになるまで回復していた。もちろん、無理をすれば周りから怒られるだろうから当分は大人しくしているつもりだが。
「元希もバエルも回復したし、快気祝いで何処か遊びに行こう!」
「いきなりですわね。でも、楽しそうですわ」
「今回は危なくない場所にしましょうね」
「また二人が無茶しなきゃいけない状況になるのだけは勘弁だからね」
「偶には室内で遊ばない? ほら、炎の家にあるアレで」
「アレかぁ……でも、元希とバエルはやった事ないだろ? 不利じゃないかな?」
あの日以降、僕とバエルさんの関係は変わっていない。互いに今は勉強の時期なのだと思っているからだろう。もしかしたらバエルさんは思う事があるのかもしれないが、表向きは何一つ変わっていない。
「だったら炎さんが教えて差し上げればよろしいじゃないですか。私たちも手伝いますので」
「えっと……みんなが言ってる『アレ』ってなんなのさ?」
「来てからのお楽しみだよ。元希も男なんだから細かい事は気にしちゃダメだぜ?」
「全然細かくないような気がするんだけど……」
「まぁまぁ、元希さんったら。男の子なんですから、女の子が秘密にしてる事を無理矢理聞き出そうとするのはいけないと思うわよ?」
「何で『乙女の秘密』みたいになってるんですか……」
他の人もそこまで激しいアタックはしてこないので、僕たちと同じ考えを持っているのだろうと、今日この瞬間までは思っていた。
だけどまさか、この後であんな事をされるなんて思っても無かった……当たり前だけど、未来なんて見る事は出来ないんだから……
思わせぶりな終わり方ですが、特に急展開とかではありません