お風呂では何とか貞操を守った……女の子が使う方が正しい気がしないでもないが、あの状況を考えればこの言葉であってるはずだ。
お風呂では危ない場面もあったけども、テントではそれほど危ない事は無いだろう。炎さんと秋穂さんはスキンシップは多いけど、水奈さんや美土さんほど過激なものではないし、涼子さんも箍が外れなければ大丈夫なはず……だよね?
「さーて! それじゃあ元希の隣は誰が寝るか決めようぜー!」
「とりあえず元希さんは両端がある場所にして、その隣二人を決めましょうよ」
「……公平に全員くじで良いじゃないですか」
出来れば僕はどちらかの端で、なるべく出口に近い方が好ましい。いざという時すぐに逃げ出せるように。
「ダーメ。元希は絶対に挟まれるんだ!」
「何で?」
「その方がアタシたちが嬉しいからに決まってるじゃん!」
「………」
無邪気に――あるいは容姿相当な笑顔で言い切られてしまった。何故だか分からないけど、炎さんのあの笑顔には逆らえないんだよね……他の人もそうらしいから、何か特別な事があるんだろうか?
「とりあえず何泊もするんですから、日替わりで場所を移るのはどうでしょう? もちろん元希君は動かないですけど」
「早蕨先生の案で良いですよ。元希さんの隣で寝られるのなら何でも」
「アタシもそれで良いぜ! てなわけで、賛成三人、反対一人で可決だね」
「……僕は何も言って無いけど」
またしても民主主義という名の数の暴力で僕の意見は却下される事になってしまった……別に最初から通るとは思って無かったけども、少しくらいは抵抗したくなるんだよね……それが無駄な抵抗だと分かってても。
公平なくじの結果、初日の並びは端から涼子さん、炎さん、僕、秋穂さんとなった。これが一日おきに動き、明日の並びは秋穂さん、涼子さん、僕、炎さんとなるらしい。ちなみに、出入り口は秋穂さん側だ、つまり僕は外に出る場合、秋穂さんをまたいでいかなければならない事になる。
「さて、明日も学校だし早く寝ましょう。いくら転移魔法がある、って言っても、あれはかなり疲れる魔法だからなるべく使いたくないので」
「確かに。あれは疲れますよね……」
「そうなのか? アタシや秋穂には使えないからな……」
「空間魔法は闇属性だからね。使えても御影だろうし」
「上位魔法だろ? 御影にはまだ無理だよ」
炎さんと秋穂さんが僕を挟んで会話を楽しんでいる。僕はさっさと夢の世界へと逃げ出したいのに、これじゃあなかなか逃げられないじゃないか……
「なぁ元希。転移魔法ってどのくらい疲れるんだ?」
「どのくらいって……魔法を連続発動し続けなきゃいけないから、普通の攻撃魔法や回復魔法の数倍、数十倍くらいは疲れるけど」
「そうなの? じゃあかなり負担の掛る魔法なんですね」
「前にロシアに行った時は動けなくなるかと思ったもん」
バエルさんの調査の為にロシアに行き、そして帰る時も転移魔法を使った。あの時は涼子さんと僕とで行き帰りを分けたから何とかなったけども、あれを一人でやれと言われたら死ぬかもしれない……まぁ今回は目に見えている場所への転移なので、前ほど負担は掛らないかもしれないけど。
「ま、とりあえずは自力で学校に向かうって事で。転移魔法は最終手段なんだろ?」
「当然だよ。あれを毎日使え、なんて言われたら僕だけでも早蕨荘に帰るもん」
「よほど使いたくないんですね」
炎さんと秋穂さんとおしゃべりに興じていたけども、徐々に僕の瞼は重くなってくる。
「そろそろ限界かも……」
「そっか。じゃあ元希、お休み」
「お休みなさい、元希さん」
「うん、お休み……」
炎さんと秋穂さんに就寝の挨拶をしたところで、僕は限界に達した。さっきまでは早く逃げ出したいとか考えていたのに、いざ眠くなると何だかもったいない気分になる。せっかくのお泊りで、普段はこんな時間までおしゃべりする機会なんて無いんだから、そう思うのも仕方ないんだろう。でも、普通こういった場面だとテンションが上がって眠れなくなるものじゃないだろうか……そんな事を考えながら、僕は睡魔に身を任せ夢の世界へと落ちて行ったのだった。
かなりリア充っぽく見えますが、彼はかなり苦労してるので……