朝から酷い目に遭ったけど、とりあえず朝食を済ませて学校に向かう事にした。何時もより距離があるけども、炎さんたちからするとさほど変わらないらしいので誰一人文句を言う事も無く学校までの道のりを半分くらい進んだ。
「なぁ主殿。ワシまで学校に行く必要はあったのかの?」
「水一人でお留守番してたかったのなら良いけど、退屈でしょ?」
「確かにのぅ……歩くのは面倒じゃが、一人で退屈してるのよりかはマシじゃの。さすが主様、よく考えておるわい」
「それに、一人じゃお昼の支度とか出来ないでしょ?」
「ば、バカにするでない! 飯の支度くらい出来るわい!」
「あの惨状を繰り返されるくらいなら、水には一食我慢してもらったほうが僕的にはありがたかったし」
前に水が料理しようとして早蕨荘の台所を派手に破壊した事があるのだ。あの時は片づけと修復でかなりの魔力を消費したからね……それを繰り返し行われると大変なことこの上ないのだ。
「台所は実験を行う場所じゃないからね。水もそれくらいは分かってるでしょ?」
「なんじゃ! 恵理までそんな事言うのか!」
「だってね……あの片づけの所為で、元希君といちゃいちゃする時間が減っちゃったんだし」
「そんな時間は無かったと思いますけど……」
恵理さんの冗談にツッコミを入れた時、僕は何かの気配を感じ取った。
「気づいた? さすが元希君」
「姉さん、冗談言ってる場合じゃないかもしれませんよ」
「え? 何の話ですか?」
如何やら炎さんたちにはこの気配が感じないようだ。それほど小さいのか、それとも上手く気配を隠しているのか……おそらく後者だろう。
「リーナはみんなを連れて先に学校に。私と涼子ちゃんと元希君でここら一帯の捜索をして、必要なら日本支部に連絡を入れます」
「分かった。それじゃあみんな、慌てず騒がず、でも迅速にこの場所から移動します」
リーナさんに先導され、炎さんたちはこの場所から迅速に移動していく。残った僕たち三人で、ここら一帯の気配、周囲五キロまで及ぶ気配探知を行った。
「気の所為?」
「いや、間違いなくさっきは気配がありました」
「向こうも僕たちに気づいて、より気配を殺したのかもしれません……こちらの策敵以上の能力で隠れられたらお手上げですよ……」
念の為もう一回周辺五キロの気配探知を行ったけど、怪しい気配は感じ取れなかった。あるのは小さなモンスターの気配や人の気配だけ。さっき感じた大きな気配はどう頑張っても掴めなかった。
「警戒は怠らず、念の為何時でも戦える覚悟だけはしておくように」
「分かりました」
「日本支部には連絡します?」
「いえ、必要無いわ。私たちでも掴めないんだから、日本支部の連中が気配を掴めるはずも無いわよ」
涼子さんの問い掛けに、恵理さんは首を振りながら答えた。戦力は多い方が良いと思うけど、恵理さんと涼子さんは日本支部の魔法師たちと連携を取るつもりが無いからな……烏合の衆となるよりは一騎当千の方が戦いやすいかもしれない……
「それじゃ、私たちも学校に急ぎましょう。理事長と学年主任、そしてS組の委員長が遅刻なんてしたら恥ずかしいわよ」
少しお茶らけた雰囲気で僕と涼子さんを励ます恵理さん。僕たちもその雰囲気に合わせて学校までの残りの道のりを速足で進む事にした。
「元希君、あとで水に常に気配探知をおこなうように言っておいて」
「ですが、水が自由に動けるのは校舎内だけです。あそこからここまで気配探知が出来るかどうか……それに、水は気配探知が得意な方じゃないですし」
「主である元希君が許可すれば、水が自由に動ける範囲は広まるわよね?」
「ですが、あまり自由にして敵に捕まる可能性を高める必要は無いと思うんですけど……それに、もしかしたら僕たちの勘違いって可能性だって無きにしも非ずですし……」
そんな可能性は限りなくゼロだと、僕にだって分かっている。僕一人だけなら兎も角、恵理さんと涼子さんも感じ取ったのだ。その気配が気の所為だなんて考える方がおかしい事も。
でも僕はなるべくなら水に危険な事をさせたくないのだ。それが僕の自己満足だと分かっていても、これだけは譲れない。
「……分かったわ。ただし私たち三人は常に警戒しておきましょう。何かが起こってからじゃ遅いんだからね」
「分かりました」
恵理さんの最大級の譲歩に感謝しながら、僕は恵理さんの提案を受け入れたのだった。
気配の正体はいかに……