学校までの道のりで感じた気配が気になりながらも、僕たちはそれを他の魔法科の生徒に気づかせる事無く授業を聞いていた。ちなみに本当にしょうがなく水には気配を探らせる為にある程度の自由行動を認めた。その結果、水は学園外でも自由に動ける事になったのだが、緊急時のみだと言う事を本人も自覚してくれているようで、普段はおとなしくしていると約束してくれた。
「なぁ元希、あの気配の正体はまだ分からないのか?」
「うん……あの後何度も気配探知をしたんだけど、特に何の気配も掴めなかったんだよね……」
「理事長や早蕨先生、そして元希様の気配探知をくぐり抜ける魔物など、私たちで対処出来るのでしょうか」
「水奈、少し悲観しすぎですよ。まだそんな強力な魔物だと決まった訳じゃないんですから」
「勘違い、の可能性だってまだ残ってる」
「でも、三人同時の勘違いなんてあり得るのかな?」
秋穂さんが呟いた言葉に、バエルさんも同じように首を傾げた。
「確かに誰か一人ならありえると思いますけど、全属性魔法師三人が同時に勘違い、なんて事はあり得ないと思いますが……」
「これが日本支部や余所の国の魔法師だったら分かるんだけどね……確かに元希たち三人が同時に勘違い、なんてあり得ないよな……」
「水様からの連絡はないんですか?」
「今のところ何も……何か掴んだら連絡するようには言っておいたんだけどね……」
事情を知ってる僕たちは、授業間や昼休みなどはこうして集まって話す事にしている。まぁ、普段からこのメンバーで集まってるので、特に怪しまれたりはしないんだけどね。
「理事長や早蕨先生も、まだ何も掴んでないご様子でしたし」
「恵理さんや涼子さんも、一応は式を放って調べてるらしいんだけども、やっぱり成果は無いみたいだしね」
「ボクたちも式を飛ばす?」
「わたしたちの式じゃ理事長や早蕨先生以上の成果を上げる事は無理ですわよ。年季と実力が違いすぎます」
「美土の言うとおりだね。悔しいけど私たちじゃ敵わない」
「それに、式を飛ばすと言いましても、私はその術式を使えませんし」
確かに式は日本固有の魔法だ。ロシア出身のバエルさんは使えない。
「バエルは何か使い魔的なものを出せないの?」
「私はまだ魔法に目覚めたばかりですし……」
「まぁ、私たちも数年かけて使えるようになりましたし、バエルさんがまだ召喚出来ないのも仕方ありませんわ」
「元希君は水を式として使ってるの?」
御影さんに言われ、僕は首を振った。縦にではなく横にだ。
「一応別に式は飛ばしてるけど、そっちも収穫なし。よほど強い魔物なのか、それともただの勘違いだったのかはまだ分からない……」
「じゃあやっぱりわたしたちが式を飛ばす必要はなさそうですわね。三人が飛ばして見つけられないのですから、わたしたちの式が見つける確率はかなり低いでしょうし」
「だね。じゃあのんびりとお昼でも食べようぜ」
「一応朝お弁当作ったしね。残すのはもったいない」
朝食と一緒に全員分のお弁当を作ったんだから、せっかくなら食べてもらいたい。一先ず今朝感じた気配の事は忘れる事にして、僕たちはお昼を食べる事にした。
「しかし、元希ってホント料理上手だよな」
「私たちより上手っていうのが、少し気になりますけど……」
「まぁまぁ、わたしたちの誰かと結婚しても、元希さんは日本に永住出来ますからね」
「理事長や早蕨先生だけじゃない」
「ウチは四人の家より劣るけど、元希君一人を養うくらい問題ないわよ?」
「あうぅ……その話題は止めようよぅ……」
僕だって一人で生きていけるくらいの生活能力は身につけてるんだし、結婚なんてそんな事考えた事も無いんだよね……
「私は家も家族も無いですし、元希さんをどうこう出来る財力も無いですし……」
「バエルさんも悪乗りしないでよぅ」
「ごめんなさい。つい楽しそうだったもので」
普段ならこんなこと言わないバエルさんだけども、みんなとより仲良くなった事で冗談にのる事が出来るようになったんだろう。
仲良くなったのは嬉しい事なんだろうけど、僕からしたらバエルさんだけはこんな冗談を言わないでほしかったんだけどね……
『主様、今いいかの?』
「水? 何か分かったの?」
『まだ分からんが、あの辺り一帯から謎の粒子が検出されたので報告をの』
「謎の? いったいなんなのさ?」
『調べてみんことには分からん。採取してそっちに戻るからの』
「分かった。お疲れ様」
水からの報告を受け、僕は謎の粒子について考える事にした。少し待てば実物が運ばれてくるけど、それまでにいくつか検討をつけておいた方が良いと思ったからだ。
盛り上がりが少なかった気がする……