放課後、僕たちは例の場所に向かった。次元の切れ目が無いか確認するのと、より高度な結界をここら一帯に張り直す為だ。
「う~ん……やっぱりあたしたちには何も感じられないな」
「元希様や理事長先生たちが漸く感じ取れるレベルですものね」
「わたしたちじゃ異変があっても気づけませんわ」
「次元の切れ目ならボクは分かるかもしれないけど……」
次元・時空を切り裂くのは大抵は闇属性の魔法だから、御影さんが言ってるように彼女なら気づけるかもしれない。だがそれはあくまでも「魔法で時空を切り裂いた」場合のみの話だ。自然現象、もしくは「魔法ではない何か」で時空を切り裂いた場合、御影さんでは検知出来ない可能性が高いのだ。
「岩崎さん、氷上さん、風神さん、光坂さん、岩清水さん、そしてアレクサンドロフさんは先にテントに戻っていてください。私たち教員と元希君の四人で探索、結界の張り直しを行います。その間に六人は夕食の準備をお願いします」
「それが妥当ですね……私たちじゃ元希さんたちの邪魔しか出来ませんし」
「そうですね。私たちは結界を張る事も、万が一魔物がいた場合でも、足手まといにしかならないでしょうし」
「そんな事は無いですよ。でもみんなを危険な目に遭わせたくないって元希君が」
「恵理さん! その事は言わないって約束したじゃないですか!」
「えー、そうだっけ? お姉さんそんな事約束した覚えないなー」
明らかに惚けてる恵理さんに、僕はこれ見よがしにため息を吐いて見せた。だがそれくらいでへこたれる人ではないし、バエルさんを除く五人が感動して僕に飛びついて来たため、僕の無言の抗議はそれっきりになってしまったのだった……
「のう主様、ワシはどうすれば良いんじゃ?」
「水はみんなと一緒に先に戻ってて。今日はもう十分動いてもらったし、これ以上は水だって疲れるでしょ?」
「それはそうじゃが……主様の側にいた方が楽しそうなんじゃがのぅ」
「水……楽しもうとするのは良い事だけど、今回は遊びじゃないんだよ。危険が伴くかもしれないんだから、水だって危ないかもしれないんだよ?」
「ワシはこれでも水龍なんじゃがの……じゃが主様がそこまでワシを大切だと思ってくれているのら仕方ない。今回は主様の言葉を聞くとするかの」
なんだか良い様に解釈したようだけども、とりあえずは離れてくれるみたいだ。僕は水に見えない角度に顔を逸らし、人知れずため息を吐いたのだった。
みんなを遠ざけてから、僕たちは水が粒子を採取した場所周辺で時空の切れ目を探した。粒子がこの辺りにあったのなら、それが出現した場所も近くにあると判断したからだ。
「やっぱりありませんね」
「そうですね……でも、謎の粒子はぽつぽつと検出してますし」
「アメリカのデータバンクから情報を引っ張ってきたけど、やっぱり該当するデータは無かったわね」
「この辺はより強度の高い結界を張っておきましょう」
僕の提案に三人が頷く。粒子の持ち主が何属性かは分からないので、とりあえずは一般的な結界を張っておく。それとは別に、光属性の結界も張り、時空の切れ目が出現しても大丈夫なようにはしてあるのだが。
「これで防げるのなら、それで安心なんですけどね」
「全くの未知だものね。私たちや元希君の力でも、対抗出来ないかもしれないし……」
「弱気になっちゃダメですけど、確かに不安ではありますよね」
「日本支部には報告したんでしょ? ならそこまで不安がる必要は無いんじゃないの? 腐ってても日本で優秀だと言われてる魔法師が集まってるんだから」
「そうだけど、それでももしこの場所に出現したのなら、あいつらが到着するのを待ってる余裕なんてないのよね」
日本支部の人たちが到着する前に、僕たちが拠点にしている場所は襲われるだろう。だからいくら日本支部に報告してたとしても、安心する事は到底無理なのだ。
「全属性魔法師が三人いる、って言ってもね……未知の生物相手にどこまで通用するか、また魔法が効くのかも分からないからね」
「もし魔法が効かなかったら、日本支部の連中が来ても意味ありませんけどね」
怖い事を言う早蕨姉妹に、僕とリーナさんは顔を見合わせてしまった。ネガティブ思考なのか、それとも全ての可能性を考えているのかは分からないけど、出来る事なら不安になるような事は言ってほしく無かった。ただでさえ未知と言う事で不安なのに、それ以上に不安をあおられたのだから、僕やリーナさんがより不安になってしまうのは仕方無かっただろう。
何時発展させようか……