脱衣所に突入される前に、僕は姿を現した。本当ならもう少しゆっくりとして、みんながある程度温まったところを見計らって出てくるつもりだったんだけども、相変わらず炎さんは怖いもの知らずだ……
「遅いよ元希! もっと早く準備出来るだろー」
「何を根拠に言ってるんですか……」
「だって元希は男だろ? 女ほど色々用意するようなものも無いし、あれこれ着けてる訳でも無いだろ?」
「炎さん……そこまで開けっ広げに言われると恥ずかしいんですけど……」
「ん? 別に元希にならブラでもパンツでも平気で見せられるけど?」
そういう発言が恥ずかしいと言ってるのに……ホントに炎さんは僕を異性として意識してないんだろうな……まあ、こんな見た目だし仕方ないよね……
「それよりも、元希様。例の場所はどうでしたか?」
「一応結界は張っておいたよ。それに、何かあったらすぐに分かるようにもしてある」
「わたしたちではお役に立てそうにないですね。だから、これはせめてもの安らぎになってくれると嬉しいですね」
「ちょっ!? 美土さん、密着しすぎですよ!?」
布地も何もない――タオルを巻いていない美土さんの肌が、僕の背中に柔らかい感触を与える。これってつまり、そう言う事だよね……
「あう、あうあうあう……」
「ボクも、小さいけど元希君を気持ちよく出来る」
「御影もやるねー。じゃあ私も元希君を気持ちよくさせてあげるね♪」
妙な対抗心を燃やした御影さんと、ノリノリでその二人に続こうとした秋穂さんだったが、常識人のバエルさんと、微妙にズレてはいるがまともな涼子さんに止められて、何とか思いとどまってくれた。
「今日一日は様子見、と言ったところね。万が一今日現れるとしても、私たちだけで何とか出来る、なんて言いきれないんだけどね」
「姉さん、そこは嘘でも安心させてあげる場面ですよ」
「だってそうじゃない。相手が全くの未知なんだから、根拠の無い自信なんて、逆に不安を煽るだけよ」
「確かにそうですが……」
珍しく真剣な表情の恵理さんだけども、格好は全然まともじゃない。少しくらい隠すか、恥じらうかしてくれないのだろうか……見てる僕が恥ずかしいですよ……
「あれ? 目が瞑れない……」
「残念! 元希ちゃんの目は私の魔法で瞑れなくしてあるよ」
「リーナさん!? なんて事をしてくれてるんですか、貴女は!」
一緒に入っても、見なければ良い。だが振り返っても美土さんや御影さんたちが待ち構えてるだろうし、タオルで視界を隠そうにも、僕はタオルを一本しか持って来ていない……つまり下を隠してるので、視界を塞ぐのにタオルは使えないのだ……
「うぅ~~……」
僕が恥ずかしくて唸ってると、急に背中に柔らかい感触が襲った。それと同時に僕の視界は暗闇に覆われる事になった。
「あ、あれ?」
「こうすれば見えませんよね?」
「あっ、バエルさん、ありがとうございます」
「あー! バエルだけ元希にオッパイ押し付けるなんてズルイぞ!」
「違います!」
炎さんの発言を、大慌てで否定するバエルさん。やっぱりバエルさんにそんな邪な気持なんて無いですよね。
「ですが、バエルさんがそうしてる以上、元希様の背中にはバエルさんの胸の感触が伝わってるわけですし」
「じゃあわたしたちは、元希さんの身体や頭を至るところまで隅々洗ってあげましょうか」
「そうだね。さぁ元希君、覚悟は出来てる?」
「え、あれ? 見えないのに、御影さんの笑顔が見える……」
きっと最高の笑顔をしてるんだろう、と見えない視界で御影さんの姿を見たような気分になってしまった……だけど僕に抵抗する術は無い。少しでも動けば、バエルさんに悪いし、断って手をどけてもらえば、前に立っている恵理さんやリーナさんの裸を見てしまう事になる……リーナさんが使った魔法が分からない以上、対抗魔法を使う事も出来ないし……そもそも対抗魔法が存在してるのかも分からないからな……
「さぁ、バエルさんはそのまま元希君の視界を塞いでるのよ。私たちで元希君を全身、隅々まできれいにしてあげるから!」
「えっ、はい……分かりました」
みんなの勢いに負けたのか、バエルさんが頷いた。それは背中の感触で何となく分かった事だが、バエルさんも少し混乱してしまってるようだな……貴女は最後まで冷静でいてほしかったのに……
「では主様のココは、僭越ながらワシが洗ってやろう」
「ちょっと! そこはじゃんけんで決めるんだよ!」
「じゃが小娘、主様のココは神聖じゃからの。ワシが洗うに相応しい場所なのじゃ」
「そう言って独り占めするつもりなんだろ? 神様なのにがめついね」
……人の一部分を指して言い争うのは止めてもらいたいな……見えないけど、水が何処を指して言ってるのかなんてすぐに分かるよ……ホント勘弁してほしいよ……
「あの、元希さん……」
「何ですか、バエルさん?」
「ごめんなさいね。私は止めるべきだったんですよね?」
「仕方ないですよ……あの六人を相手に一人で止めるのは不可能ですし……」
良かった。バエルさんは進んでこの状況を甘んじてた訳じゃ無かった。それだけでも僕の心は救われた……本当に僅かだけどね。
相変わらず女難の相が出てる元希君……