寝る為にそれぞれのテントに分かれた後、僕は少し気になる事があってテントを抜け出した。涼子さんと炎さんが微妙に僕の方に転がって来てる気がしたけど、まだ何とか対処出来るレベルだったので特に気にはしなかった。
「あら、元希君も眠れないのかしら?」
「恵理さん……いえ、結界の様子が気になりまして。それでテントから出てきただけです」
「そう……今のところ大きな動きどころか、何の気配も無いわよ」
「それが逆に不自然だと思うんですよね……あの場所は普通に生物が生息してたはずなのに、何の気配も無いんですから……」
「そう言われればそうね……他の小動物や無害の魔物の気配もしないなんて、確かにおかしいわね」
無害の魔物と言うのは、それほど大きく無く、攻撃力も大した事の無い魔物の事だ。小さいものならペットとして飼う事も可能な可愛らしいものも存在している。
「例の気配から逃げてるのかしら?」
「もしくは、別次元に呑みこまれたか……考えたくは無いですけどね」
結界外に飛ばしている式からも、何の気配も感じ取れないのを考えると、このどちらかの考えが正しいと言う事になるのだろう。
恵理さんの考えならば、生態系などの問題も生じずに済むかもしれないけど、僕の考えが正しいとなると、色々と問題が発生してしまうのだ。まぁ、次元の切れ目がある時点で大問題だけど……
「元希君、魔力は大丈夫かしら?」
「それほど消耗はしてませんので大丈夫ですよ。大規模な結界は恵理さんが張ってくれましたし、僕はそれほど疲れてません」
「ならいいけど、元希君はついこの間まで魔力不足だったんだから、出来るだけ無茶はしないでね」
「分かってますよ。また絶対安静とか言われて部屋で大人しくしてるのは大変ですからね」
主に掃除したり洗濯したりと家事をしたくなってしまうので……普段生活してる分には気にならない汚れも、じっとしていると気になったりしてしまうのだ。
「そういえば、この場所の生物たちは特に問題なく生息してるわね……」
「こっちまでは切れ目が無いんでしょうか?」
「今のところは、って考えていた方が良いかもしれないわね」
恵理さんの言葉に、僕は頷いた。ここまで切れ目が侵攻してこないなどと言いきれないからだ。
「とりあえず、今はゆっくりお休みなさい。いくら疲れて無いって言っても、元希君は私や涼子ちゃんのように魔力回復が得意じゃなさそうだしね」
「魔力回復?」
意味は分かるけど、聞いた事の無い単語だったので僕は首を傾げた。
「言葉通り、魔力を回復させる事よ。体内のエネルギーを魔力に変換して、不足した魔力を体内で強制的に生成する事。それなりに場数を踏んだ魔法師でも、簡単には出来ない荒業だけどね」
「もしかして、それだから恵理さんと涼子さんはあれだけ食べても太らないんですか?」
「それだけじゃないけどね」
ウインクでも付いてきそうな感じで答える恵理さんに、僕は頷いた。今度やり方を教えてもらおう。
「っ! 元希君、気づいた?」
「ええ。今一瞬だけ何か気配が」
結界内に何ものかの気配が生じたのだ。ついさっきまで何ものの気配も無かったのを考えれば、やはりあそこ一帯に次元の切れ目があるのだろう。
「式から送られてきた映像では、何も確認出来ないわね」
「仕方ないですよ。夜目の利く式じゃないですし、あの辺りは街灯もありませんし」
あくまでも式は保険で飛ばしてるだけなので、夜目が利くタイプの式では無いのだ。仕方ないとはいえ、もしちゃんとした式だったらこの気配の正体が分かったかもしれないと思うと、次はちゃんと夜目の利く式を飛ばしておこうと思った。
「私の方で飛ばしてる式でも捉えられなかったのだから、夜目が利いても駄目って事でしょうね。いったいどんな魔物なのかしら……」
「気配的には、水が暴れていた時の気配と近しいものを感じるんですけどね……だけど水は今テントで寝てますし」
「水と似てる、って事は、相手はドラゴンなのかもね。だけど、次元を切り裂けるドラゴンなんて聞いた事無いわよ……」
「日本だけではなく、アメリカのデータバンクでも正体不明だったんですから、聞いた事無くて当然だとは思いますけど……」
今から確認しに行くわけにもいかないので、僕と恵理さんは一先ずテントに戻り休む事にした。もしドラゴンだったとして、僕たちだけで倒せるなんて言いきれないのだから、最低限コンディションを保ち、ベストな状態で戦闘に入れるようにしようと決めたのだ。
どんなオチにするべきなのか……散々引っ張って勘違いじゃ駄目ですしね……