昨日現れた気配を確認するために、僕と恵理さんと涼子さんは早朝とも言える時間にテントを抜け出し結界を張った場所へと向かった。ちなみに、涼子さんは僕がテントを抜け出そうとしたタイミングで目を覚まし、何処に行くのかと尋ねられたので、僕が昨日の事を話したのだ。
「せっかく元希君と早朝デートが出来ると思ってたのに」
「そんな事考えてたんですか?」
随分と余裕なんだな、と僕は思った。未知の気配を感じ取ったというのに、別の事を考えられるあたり、恵理さんの場数の多さが窺える半面、緊張感が無いんだなとも思えてしまった。
「姉さんだけじゃいざという時危ないですからね。我ながらナイスタイミングで目を覚ましましたよ」
「あの……そろそろ問題のポイントなんですけど」
二人とも緊張感の無い事を言っているので、僕一人だけでも緊張感を持って行動しようと思っているのだけども、どうしても二人につられちゃいそうになっている。だから二人に緊張感を取り戻してもらおうと、僕は気配を感知したポイントが近い事を二人に伝え緊張感を持ってもらう事にした。
「そういえばこの辺りだったわね。涼子ちゃん、念の為に元希君と一緒に警戒して」
「分かりました。それにしても、本当に気配一つもありませんね」
辺りを見回して、涼子さんがそう呟く。確かに今この瞬間には、この辺り一帯に何ものの気配も存在していない。だけど昨日来た時よりも粒子が濃く存在しているので、昨晩の気配は間違いなく未知の生物だったと断定出来るだろう。
「まって、何かいる」
恵理さんが指さした方向に、僕と涼子さんも目を向けた。パッと見では分からなかったけど、何かがうごめいたような感じが確かにしたのだ。
「でも、気配はありませんよ?」
「よっぽど気配遮断が上手い魔物なのでしょうね。それにしても、この距離で見えないとなると、擬態でもしてるのでしょうか?」
「それか、余程小さいかのどちらかでしょうね」
相手に気づかれないよう近づき、僕たち三人は同時に未知の生物を捕える為に魔法を放った。
「よし、手応えあり」
「念の為に大き目の結界にしましたけど、手応え的には小さいですね」
「まだ子供なのでしょうか?」
確かに結界の中には何ものかの重みを感じている。だけどここら一帯の生物を追いやった、あるいは別次元に飛ばした魔物のものにしては、手応えが小さすぎるのだ。
「さてと、捕えた獲物を確認しましょうか」
「どんな能力を持ってるか分からないんですから、慎重に確認してくださいね」
「分かってるわよ。それにしても、手応えが無さ過ぎなのよね」
慎重に、だけど大胆に近づいていく恵理さんを、僕と涼子さんは少し離れた場所で見守る。いざというときは何時でも魔法を発動できるように、体内の魔力は活性化させているが、出来ればこの魔力を使わずに終わりたい。
「あら、随分と小さい子がいるわね」
「小さい子? 恵理さん、如何いう事ですか?」
恵理さんの言い回しが気になったので、僕も近づいてみることにした。ゆっくりと恵理さんの近くまで移動して、結界の中を確認したのだが、そこには――
「えぇ!?」
――女の子が一人、結界の中に閉じ込められていた。
意識を失っている女の子をよそに、僕たちは今回の気配の原因が本当にこの子なのかどうかの話合いをする事にした。
「間違いなく、昨日感じた気配はこの子よ。水の様に擬人化してるのかしら?」
「ですが、それだったらこんなに小さな女の子にはならないと思うんですけど。水も普通に僕と同じくらいですし」
「起きてくれない事には分かりませんけど、もしかしたら水様の様に古風な喋り方をするかもしれませんよ」
「それはあり得そうね。そもそも、この子が何ものであれ、異次元から来た未知の生物である事には変わり無いわよ。そうじゃなきゃ、何でこんな場所に裸で一人、意識を失ってるのかが説明出来ないもの」
「そうですね。ここら一帯は昨日から立ち入り禁止区域ですし、私たちの結界を破ってまで入れる人間は殆ど存在しませんしね」
殆ど、という事は少しはいるのだろうが、それでもこの子がその「少し」には思えなかった。とりあえず裸でいさせるのもあれなので、僕が羽織っていた上着を掛けてあげている。
「場合によったらうちで保護しなきゃいけないかもね。未知の生物とはいえ、女の子な訳だし」
「そうですね。男が中心になっている日本支部には引き渡せませんね」
「そこまで酷い事にはならないと思うんですけど……」
同じ男として、そして一般的に考えてそこまで悲惨な事にはならないと思いたい。だけど僕ら三人に対する日本支部の魔法師たちの態度を考えると、そう簡単にはいかないんだろうな……また厄介事に巻き込まれてしまったんだろうか……
普通の女の子なのか? それとも……