その少年全属性魔法師につき   作:猫林13世

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ネーミングセンスがほしい……


命名

 女の子の着替えを済ませて、僕たちは気になっている事をそれぞれ話しあう事にした。

 

「普通の女の子……じゃないわよね?」

 

「記憶障害でしょうか? それとも一時的に忘れてるだけ?」

 

「何であの子は二人を信用出来ないと言ったのでしょうか?」

 

 

 女の子は僕たちがひそひそと話してるのが気になるのか、さっきからしきりに僕たちに視線を向けてくる。

 

「とりあえず、恵理さんと涼子さんも自己紹介をしてくださいよ。何時までも信用されないままじゃ色々と拙いでしょうし」

 

「そうかしら?」

 

 

 恵理さんが首を傾げたけど、涼子さんは僕が言いたい事を理解してくれたようだった。

 

「そうですよ。何時までも元希君に着替えを手伝わせるのは拙いですし」

 

「一回着たんだし、もう大丈夫でしょ」

 

「それでも、何時までも警戒されてたら話が進みませんよ」

 

 

 涼子さんの説得に、恵理さんも渋々応じた。何で渋々だったんだろう……

 

「えっと、私は早蕨恵理。こっちが妹の早蕨涼子よ」

 

「よろしくお願いします」

 

「……元希、こっち来る」

 

 

 女の子が手招きして僕を呼ぶ。僕は首を傾げながらも言われるがままに女の子の側に移動した。

 

「この二人、何だか危ない匂いがする。元希からはしない。だから元希が私の相手する」

 

「匂い? 別にそんなのしないよ? 二人とも僕がお世話になってる人なんだから」

 

「でも信用出来ない」

 

「まぁいきなり会った相手を信用しろ、って言う方が無理な話よね」

 

「ですが、元希君はすぐ信用されたようですけど?」

 

 

 恵理さんが女の子を覗きこもうとすると、女の子はすぐに僕の背後に隠れる。何だか妹が出来たような気になって来た。それも、飛び切り警戒心が強い。

 

「ところで、君の事はなんて呼べばいいのかな?」

 

「呼ぶ? ……分からない」

 

「名前も思い出せないのか……恵理さん、涼子さん、どうしましょうか?」

 

 

 困ったので二人に助けを求める。だけど女の子は僕のズボンを引っ張って首を振る。

 

「あの二人はダメ。元希が考える」

 

「僕が? いやでも、同性の二人の方が色々と助けになると思うんだけど……」

 

「元希が考える!」

 

 

 語尾を強めて僕を威嚇してくる女の子。僕を、というか二人を、というか……とにかく恵理さんと涼子さんはまだ警戒されてるようだった。

 

「そうだな……じゃあ『リン』で」

 

「『リン』?」

 

「元希君、由来は?」

 

 

 僕が決めた呼び名の由来が気になったのか、恵理さんが僕に近寄ってくる。恵理さんが近づいてくるにつれて、リンは怯えたように僕にしがみつく。

 

「えっと、雑木林で発見したので……『林』の字を当てて『リン』です」

 

「仮の名前としてはいいわね。もし思い出せないままだったら、この子はリンちゃんで決定ね」

 

「悪くない。元希、今から私の事『リン』って呼ぶ!」

 

「えっ? うん、そのつもりだけど……」

 

 

 何だか妙に懐かれちゃったけど、何で僕の事は警戒しないんだろう? そんなに人畜無害に見えるのだろうか?

 

「ところで恵理さん。この後の授業の時とか、リンの事はどうすればいいんでしょうか?」

 

「そうねぇ……元希君と離すと暴れちゃいそうだしね……」

 

「リン、元希と一緒。ずっと一緒!」

 

「ずっとは無理だよ……寝る時とかお風呂とかは一緒には無理だよ」

 

「大丈夫。元希はリンの裸に興奮したりしないから!」

 

 

 それは何が『大丈夫』なんだろうか……僕からしたら何の根拠にもならないと思うんだけどな……

 

「今日一日は元希君の傍に居させてあげましょう」

 

「ちょっと、恵理さん? そんなに簡単に言わないでくださいよ……」

 

「しょうがないでしょ? 私が預かるにしても、リンちゃんは私の事を信用してくれてないんだから」

 

「そうですね。姉さんが面倒を見るよりも、元希君の傍にいてもらって、みんなで面倒を見た方が良いかもしれませんね。もしかしたら、他にも信用出来る人が見つかるかも知れませんし」

 

「そんな……二人とも、そんなあっさり決めちゃっていいんですか?」

 

 

 無駄だとは分かってるけども、一応は抵抗しておかないと。このままじゃ僕がリンの世話係にでもされそうだし。

 

「元希、リンと一緒、いやなのか?」

 

「うっ……」

 

「元希君。こんな小さな女の子泣かせたらダメだぞ?」

 

「……分かりました。今日は僕が面倒を見ます」

 

「ほんとか? 元希、リンと一緒?」

 

「うん、一緒だ」

 

 

 泣きそうな顔をするなんて、こんなに小さくても女の子なんだな……自分の武器を理解しているようだ。

 

「じゃあ、そろそろ授業だから、元希君とリンちゃんは教室に行きなさい」

 

「分かりましたよ……その代わり、涼子さんは説明を手伝ってくださいよ?」

 

 

 おそらく、僕一人じゃ炎さんたちを納得させられる説明が出来ない。リンに任せても要領を得ないだろうし……

 

「分かりました。それじゃあ姉さん、また後で来ます」

 

「はいは~い。私の方でも、色々と調べておくわね」

 

 

 恵理さんを理事長室に残し、僕と涼子さんはリンを連れて教室まで向かった。さて、どうやって説明するのが一番いいんだろうか……ありのままを話しても、おそらく納得はしてくれないだろうしな……特に水が……




とりあえずは落ち着いた……のか?

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