その少年全属性魔法師につき   作:猫林13世

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元希君は苦労する事が多いな……


歓迎会

 使用するテントの変更も済み、僕たちはリンの歓迎会の為の料理を作り始めた。といっても、作るのは僕とバエルさんと秋穂さんだ。

 

「買い出しもですが、何で僕たちなんですか?」

 

「元希君たちが料理上手だからよ」

 

「……皆さんだっていうほど下手じゃないですよね?」

 

 

 一般的な調理などは全員出来るし、味付けもそこまで悲惨なものにはならないのだが、他のみんなは料理をしたがらないのだ……特に恵理さんとリーナさんは寮でも作らないし……

 

「元希ちゃんに任せておけば問題無いからね! その間に私たち教員は例の場所をもう一度調べてくるわね」

 

「……そういう理由なら別に良いですけど」

 

 

 リンを発見した場所――即ち時空に歪みが生じている場所の確認に行くのなら、無理に調理を頼むわけにもいかない……水やリンもそれに同行するらしいし、炎さんたちはここら辺一帯の結界の調査と綻びが見つかった場合、補強しなければいけないので、これまた調理を頼むわけにもいかないのだ。

 

「本当は全部元希君がやれば早いんだけども、元希君は一人しかいないもんね」

 

「生徒に何でもかんでも押し付けないでくださいよ……」

 

 

 丸投げ発言をした恵理さんに、僕は呆れたのを隠そうともしない声音で応えた。

 

「それじゃ、調理はお願いね。岩清水さんもアレクサンドロフさんもしっかりと元希君のお手伝いをするのよ」

 

「……恵理さんが言わなくても二人ならちゃんとやってくれますって」

 

 

 秋穂さんは偶にふざける事もあるけども、基本的には真面目な人だ。バエルさんは言うまでもなく真面目だ。確かにこの三人が一番効率よく調理が出来るのだろうけども、もしこの三人が調理担当に決められたら、僕は断固抗議するつもりだ。他の人も出来なくないんだから、こういった事は順番でやるのが一番だと思うから。

 

「それじゃあ、不本意ですが始めましょうか」

 

「そうね。甚だ不本意ではあるけども、元希君と一緒だし良いかな」

 

「私は別に不本意ではありませんが、任されたからにはちゃんとお役目を果たしたいと思います」

 

 

 バエルさんの言い方が少しおかしくて、僕と秋穂さんは笑ってしまった。だけどその事を気にすることなく、僕たち三人は調理に取りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 みんなが戻ってきたタイミングで、僕たちは調理を終えた。品数はそれ程多くは無いんだけども、十二人前ともなると、結構な重労働だ。

 

「これ、元希が作った?」

 

「僕だけじゃないけどね」

 

「これ、手を洗わずに摘まみ食いなど、お主は行儀が悪いのじゃの」

 

「むっ、別に悪く無い」

 

 

 相変わらず水とリンの仲は良くなさそうだけども、バチバチの関係でもなさそうなのでとりあえずは安心かな。

 

「何か分かりました?」

 

「ダメね……リンちゃんが現れて以降、あの場所から謎の気配は感知出来ないし、特におかしな事も起こらないわね」

 

「やはり、リンが何か関係してるんでしょうかね?」

 

「そう考えるのが一番自然です。ですが、リンさんが何か悪さをしていたようには思えないのですが……」

 

「涼子、こういった事に感情を挿み込むのは感心しない。あくまでもフラットな感情で調査に当たらなければダメよ」

 

「リーナにいわれなくても分かってます。でも、今日一日見た限りですが、リンさんは関係無さそうです」

 

「それは僕も思いますけども、まだ一日です。判断を下すには早計過ぎますよ」

 

 

 僕は調査に行っていた三人と話合い、今しばらくは経過観察に留める事を話し合った。

 

「なぁ元希、何時まで話してるのさ?」

 

「ゴメン、もう終わったから」

 

 

 炎さんが待ちきれない、とでも言いたげな表情で僕たちの傍にやってきたので、とりあえず話合いは一旦終了した。

 

「それでは、リンさんとの関係発展を願い、私が乾杯の音頭を取りたいと思います」

 

「相変わらず水奈は固いな」

 

「ですが、それが水奈さんと良いところですわよ」

 

「炎が大雑把過ぎるだけ」

 

「それは言えてるかも」

 

 

 既に乾杯の準備は終わってるようで、グラスを持ってないのは僕たち四人だけだった。

 

「とりあえずは現状維持で。何か不審な点があったら、絶対に一人で調べずに情報を共有して複数人で調べる事」

 

「分かりました」

 

「それじゃ、私たちも乾杯の輪に加わりましょうか」

 

 

 相変わらず惚れ惚れする切り替えの早さだ……さっきまでシリアスな雰囲気を纏っていた恵理さんだったが、今はもうその雰囲気はなく、何処までも明るい何時もの雰囲気だった。

 

「それでは、末長いお付き合いを願いまして……乾杯!」

 

「「「「「乾杯!」」」」」

 

 

 気づいた時には既に乾杯の音頭が取られていた。僕たちは遅ればせながらその輪に加わり、その日はみんな楽しそうな雰囲気で一日が終わった。明日もこんな雰囲気なら良いんだけどな……




次回リンの正体が……

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