恵理さんと涼子さんの調査に同行した僕は、夢の中で聞いた事を確かめるために空間ではなく地面をくまなく調べた。
「やっぱり……」
調べた結果、この辺り一帯の土壌が荒らされていて、このまま放っておいたら草木はもちろん、生物すら生息出来なくなってしまう恐れがあったのだ。
「ということは、リンはこの辺り一帯を納めている土地神様なのかな……でも、それほど強い力がありそうな雰囲気では無いんだけどな……」
土地神様なら、魔物のデータバンクで調べてもヒットするわけない。未知の生物だと判断されても説明はつく。だが別問題として、どうして土地神様が人間の姿をして、記憶すら失っているのかという疑問が浮上してくるのだ。
「元希君、何か分かった?」
「僕たちが感じ取った気配はリンで間違いなさそうです。でも、あの気配は魔物じゃ無く神様のものだったのかもしれません」
「神様?」
僕は今日見た夢の内容を話して、土壌の状態を恵理さんと涼子さんにも見てもらった。
「確かにこれは酷いわね……」
「気配に気を取られていて、土壌の状態とかは見落としてましたね……」
「何者かが荒らしていたのを、土地神様であるリンが異次元に飛ばした、んでしょうね……でも、そうなると何でリンが人の姿をしているのかと、記憶を失った理由は何なのか、という疑問が残るんですよね……」
とりあえずの処置として、僕と恵理さんで土壌を回復させる魔法を行使し、涼子さんがここら一帯に水を撒き樹木に活力を与える。
「土地神であるリンちゃんがこの場を離れてるなら、定期的に水捲きや土壌整備をしなきゃ駄目ね」
「一番良いのはリンちゃんをこの地に戻す事ですけど、記憶の無いリンちゃんを戻したところで今まで通りの加護が得られるかどうか……」
「そこら辺はリンと話しあってみましょう。話してる間に記憶を取り戻すかもしれませんし」
「そうね。早いところ力を取り戻してもらわないと、私たちの魔法でも限度があるからね」
「栄養とか色々と考えなきゃいけませんし、簡単には発動出来ませんしね」
僕たちが施したのはあくまでも応急処置程度の魔法だ。それほど長い時間効果が持続するわけでも、掛け続ければ安定するわけでもなく、本当に応急処置レベルの効果しか期待できないのだ。
何時までもこの場所の土地神様を不在にさせておくのは拙いのだが、今のリンにその力が備わっているのかと聞かれれば首を傾げざるえない状況なのも確かなのだ。
「とりあえず調査は終わりね。リンちゃんが力を取り戻すまでは、私たちのその場しのぎの魔法で何とか保たせるわよ」
「分かりました。土壌の事は風神さんに相談してみましょう」
美土さんの実家は土魔法の名家だもんね。土壌を豊かにする魔法にも長けているかもしれない。僕は涼子さんの提案に頷いて、テントまで戻る事にした。
戻ってきて最初に思ったのは、何で僕ばっかこんな目に遭わなければいけないのだろう、だった。雑木林から戻ってきた僕を出迎えたのは、水とリンの熱烈歓迎だったのだ。
「主様! 何処に行っておられたのですか!」
「元希、一緒じゃなきゃ駄目!」
そういって僕に向かって二人が飛び込んで来たのだが、足場が悪く二人より軽い僕は、二人の体重を受け止める事が出来ずにその場に倒れ込み、頭を打った。
「あ、主様!?」
「元希、大丈夫か!?」
原因である二人が、僕の事を心配そうに覗き込んで来る。僕は大丈夫だと伝える為に笑顔を見せようとして――激痛に顔を歪めてしまったのだった。
「元希君!? ちょっと、大丈夫!?」
「なんとか……少し切れただけですので」
側頭部から血が流れ出ていたので、恵理さんが焦ったように――実際かなり焦っているのだが、僕に近づいてきた。
「それ程深くないですし、治癒魔法を掛けておけば治りますよ」
僕は右手をヒラヒラと振って、自分の側頭部に治癒魔法を掛けた――のだが……
「あ、あれ?」
「私が掛けます!」
魔力が安定してなかったのか、僕の治癒魔法は不発に終わり、それを見た涼子さんがすぐさま僕に治癒魔法を掛けてくれた。
「スミマセン……思ってたよりも大丈夫じゃ無かったですね」
「まったく、元希君は少し自分の事を優先的に考えてもいいんじゃないですか?」
「ごめんなさい……」
ついつい水やリンを甘やかして、自分の事を蔑ろにしている感は自分でもあったので、涼子さんの言葉に素直に頷いたのだ。頷いた時に、少し痛みが走ったのは内緒だ……
詳しい原因は次回