その少年全属性魔法師につき   作:猫林13世

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神様の代理は神様……


代理の管理者

 授業が終わり、僕はリンをつれて理事長室に向かおうとしたのだが、教室を出る前に水に捕まってしまった。

 

「主様、その小娘をつれて何処に行くつもりじゃ! ワシをおいていこうなどと思わない事じゃな!」

 

「結構重要な話合いがあるから、水をつれて行くわけにはいかないんだけど……」

 

「ワシは主様の使い魔じゃが、ここら一帯の水源を管理する神なのじゃぞ! 蔑ろにするのなら、全ての水源を汚染してやろうか?」

 

「どんな脅しなんだよぅ……」

 

 

 水をつれて行かなかったから、ここら辺の水源が全てダメになったなんて笑えない……僕は水の脅しに屈して理事長室につれて行く事にしたのだった。

 

「元希、コイツの言う事、聞かなくて良い」

 

「後から出てきた分際で、ワシと主様の間を引き裂くのか、この小娘!」

 

「小娘違う。リン!」

 

「五月蠅い! お前なぞ小娘で十分じゃ!」

 

 

 ……理事長室に向かう間、ずっと似たような事で言い争う水とリン。何で仲良く出来ないんだろう……

 

「失礼します」

 

「待ってたわよ、元希君。……何で水まで一緒なのかしら?」

 

「えっとですね……」

 

 

 僕は恵理さんに、水をつれてこざるをえなくなった理由を話した。

 

「なるほど……確かに忘れがちだけども、水は氷上家が祀っている水神の化身。水源を汚染するくらい簡単でしょうね。それじゃあつれて来たのも仕方ないか」

 

「冗談に聞こえなかったんですよ……」

 

 

 半分以上……いや、百パーセント本気だったのかもしれないが、水の脅しにはそれだけの迫力と、僕一人で判断するには大きすぎる被害が見え隠れしていたのだ。

 

「後は涼子ちゃんとリーナが調べた結果が届けば、リンの正体がハッキリするんだけどね」

 

「まだ何か調べてたんですか?」

 

「元希君が言ってたように、あの雑木林だけじゃなくって、周辺の森林や竹林、田畑なんかにも影響が無いか調べてるのよ」

 

 

 なるほど……リンがどの程度の土地神様なのかは分からないけども、周辺一帯の生物を消し去れるレベルの力を持っているのだから、彼女の加護の範囲はかなり広いのではないか、と僕が朝恵理さんたちに話したのだ。その裏付けをしてるとなると、余計な仕事を作っちゃったのかもしれないな……

 

「姉さん、戻りました」

 

「調べ終わったわよ」

 

「御苦労さま。それじゃあ早速だけど、リンの正体についての仮説・その裏付けをしていきましょうか」

 

 

 恵理さんは机の上に資料を並べ、必要なものをホワイトボートに貼っていく。

 

「まずリンの正体だけど、元希君が言ったように土地神様で間違いなさそうよ。念入りに調査した結果、あそこら辺一帯――正確に言うならば、半径五キロにおける土壌や水質が著しく悪化してるわ。これは彼女の加護が得られて無いからでしょう」

 

「今のところ作物への影響は大きく無いですが、いずれは私たちでは誤魔化せないレベルで影響が出ると仮定されます」

 

「ワタシ、神様なのか?」

 

「そうみたいだね」

 

 

 自分の事なのに、全然実感が持てないリンが、僕の服の裾を掴んで上目遣いで尋ねてきた。

 

「あの雑木林に生息していた生物だけど、何時の間にか外来種に取って食われたようね。最近では在来種が減ってるって噂があったらしいわ」

 

「そしてその外来種ですが、あの土壌には適さず、自分たちに適した環境に変える能力を持っていたとも言われています」

 

「つまり、リンは現存の樹木や数少なくなった在来種を護る為に外来種を一掃したと?」

 

「そう仮定するのが妥当かと。駆除の仕方がダイナミックですが、土地神様なら説明出来なくはないですからね」

 

「その外来種ですけど、どこから現れたんですか?」

 

 

 僕は気になった事を涼子さんに尋ねる。普通に生活していたのなら、自分が住むに適さない場所に現れるとは思えないんだけどな……

 

「どうやら飼ってた人が逃がしたのが繁殖したそうよ」

 

「責任のとれない人間が環境を破壊していくのよね……生態系もだけど……」

 

「リンちゃんだけの力では元の土壌に戻すのは難しそうですね。力を失ってる事を考えても、私たちで何とか悪化を防ぐだけでもしておいた方が良いかと」

 

「そうね……バイオマス研究科に相談して、何人か生徒を派遣してもらいましょう」

 

「それは理事長である姉さんの管轄です。私には出来ません」

 

「分かってるわよ。後は、リンが記憶を取り戻すにはどうするか、だけど……当面は元希君に世話を任せるわ」

 

 

 それって何も解決してないんじゃ……

 

「それから……水」

 

「なんじゃ?」

 

「あそこら辺一帯の水質管理だけど、貴女がやってくれない?」

 

「何故ワシがこの小娘の代わりを務めなきゃいけないのじゃ!」

 

「水、お願いできる?」

 

「むぅ……主様に言われたら仕方ないのぅ……じゃが、ワシは小娘の代わりを引き受けるのではなく、主様の命令を実行するだけじゃからな! その辺りを勘違いせぬように!」

 

 

 何となく、水がツンデレのようにも思えたけど、これで当分は作物に影響は出ないだろう。この先どうにかしてリンの記憶を取り戻さなければいけないんだけど、どうすればいいんだろうな……




恐ろしい脅しだ……

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