リンがあそこら辺一帯の時空を歪ませる事はもう無いだろうということで、僕たちは時空の歪み対策の結界を解除し、その代わりの結界を構築する。
「しかし元希さん、結界に土魔法を組み込むなんて出来るんですか?」
美土さんに問われ、僕は苦笑いを浮かべる。彼女が疑問を持ったように、結界は基本的に光か闇魔法を組み込んで構築するもの、他属性の魔法を組み込むなど前例が無いのかもしれない。
「別に魔法に対する結界を作ろうとしているわけじゃないんだ。この結界はこれ以上土壌が荒れないようにするための結界、定期的に張り直すと考えれば、他属性の魔法を組み込んだ結界を作れるはずだよ」
「でも、わたしは結界魔法なんて使えないんだけど」
「うん、だからそっちは僕たちが担当するよ。美土さんはその結界に土魔法の要素を組み込んでくれればいいんだよ」
本当ならそれも僕たちだけでやれれば良かったんだけど、僕たちが土魔法の要素を組み込もうとしても、結界の魔力に耐える事が出来なかったのだ。
そこで土魔法を得意としている美土さんに頼んで、僕たちは結界強度と土魔法を打ち消さないようにするように専念する事にしたのだ。
「わたしの魔力じゃ、元希さんや理事長先生たちの魔力に敵わないと思いますけど……」
「それで良いのよ。私たちの魔力じゃ、結界の効果を半減させてしまったのよ」
「こんな言い方では風神さんに失礼ですけど、結界の魔力より低い土系統の魔力が必要なのよ」
「そうだったんですか。確かに自分でも分かってますが、わたしの魔力はお三方より明らかに低いですからね」
そうなのだ。この結界の最大のポイントは、土系統の魔力がそれほど高くなくても効果を発揮出来るところにあるのだ。
だけど、僕や恵理さん、涼子さんの土魔法では、その威力が高すぎで、加減したら今度は結界の魔力に潰されてしまったのだ。
「風神さんは全力で土魔法を結界に組み込んでちょうだい。それでダメならまた違う威力を要求するから」
「分かりました。では……いきます!」
美土さんの土魔法が発動する。僕たちは結界に意識をやり、上手く組み込まれているかを確認する。
「なるほど……この威力なら結界に弾かれる事も、結界を呑みこもうとする事も無いんですね」
「絶妙なバランスだわ……このデータを保存して、次からは私たちだけで構築出来そうね」
「この結界なら、二,三週間は持ちそうですね。その間にリンの記憶探しをして、見つからなくても再構築で同じくらいは持つでしょう。もちろん、何時までもこのままじゃダメですけどね」
この結界は「これ以上荒れない」だけで、「元の土壌に戻る」わけではない。一度荒れてしまった土壌では、いずれ樹木などは枯れてしまうだろうし食物の品質にも影響が出てしまうだろう。
「これでいいんですか?」
「ええ。風神さんのおかげで結界に必要な要素は完璧に備わったわ。ありがとう」
「あとは土壌整備をしっかりとしておけば、これ以上荒れる事はないでしょうね」
「リンが元に戻れば一気に解決なんですけどね。こればっかりは急いても仕方ない事ですが……」
「あら、元希君が誠心誠意お願いすれば、リンも元に戻ってくれるかもしれないわよ?」
「ですが……そもそも僕には神に対する知識がありません。水だって、水奈さんのお家で崇め奉ってた水神だ、って事くらいしか知りませんし」
あとは、水の母親が恵理さんと涼子さんの友人(神?)だった事くらいしか知らない。主って事にはなっているけど、僕は殆ど彼女の事を知らないのだ。
「大丈夫よ。リンは元希君に懐いてるし、神様について良く知らないのは私たちも一緒だからね」
「私たちは基本的には魔を狩る物ですからね。神様について詳しくないのは仕方の無い事です」
ここら辺一帯の土壌と水質が懸かっているのに、そんなテキトーな考えで良いのだろうか……
「てなわけで、結界構築は終わりね。風神さん、お疲れ様」
「あとは私たちの仕事ですので、風神さんは皆さんのところに戻ってください」
「じゃあ僕も……」
「何言ってるの。元希君はまだ調査が残ってるわよ」
「僕だって生徒なんですけど」
「貴方がいなかったら、誰がリンの戻し方を調べるのよ」
そんな事僕に言われても……
「姉さん、元希君はリンちゃんの傍にいてもらったほうが良いと思いますけど。記憶を探すにしても、それ以外でも基本的にはリンちゃんの傍に元希君がいた方が効率が良いでしょうし」
「そうね……じゃあ元希君、リンを元の神様に戻せるように頑張ってね」
「分かりました……それじゃあ美土さん、行こうよ」
「ええ。それでは理事長先生、早蕨先生、また後ほど」
恵理さんと涼子さんに一礼して、美土さんと僕はテントが張ってある場所まで一緒に戻る事になった。いきなり手を握られたのは驚いたけど、これ以上過激にならないのなら良いかな……
次回、誰かが乗っ取られる……