その少年全属性魔法師につき   作:猫林13世

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八月も終わりですね……


土地神の魔法

 リンの記憶を取り戻す為に、僕はまずリンをあの雑木林へと連れて行く事にした。何か良い方法があるわけでもないので、まずはこの場所につれてきて何か無いかを確かめるためだ。

 

「リン、何か思い出した?」

 

「ここ、元希と会った場所?」

 

「そうだね。ここにリンがいたんだよ」

 

「そうなのか。ワタシが目覚めたのは恵理の部屋だったからな」

 

 

 あそこは別に恵理さんの部屋じゃないんだけどね……理事長室ってだけで、恵理さんの私室ではないのだ。

 

「ワタシはここの神様なのか?」

 

「状況を見るに、多分そうだと思う」

 

「そうか……ワタシは神様だったのか」

 

 

 何だろう……全然神様っぽくないと感じてしまうのは、リンの記憶が無いからなのだろうか? それとも元々が神様っぽく無かったのだろうか?

 そこら辺の事は、今考えても仕方ないので一先ずおいておく事にして、僕はリンと一緒に雑木林の中を歩く。結界が利いているので、今のところ土壌の悪化は抑えられているし、バイオマス研究所の手助けもあり、徐々にではあるが、ここら一帯の土壌の保存は出来ている。ただし、回復には至っていないが……

 

「元希、どうかしたのか?」

 

「ん? 何でそう思ったの?」

 

「何だか難しい顔してる。元希、何か悩み、ある?」

 

 

 今のリンにも分かるくらい、僕は表情に出していたようだ。僕はリンに心配される立場じゃなく、リンを心配しなきゃいけない立場なのにな……

 

「大丈夫だよ。こうしてリンと一緒にいる事で、その悩みは解決するかもしれないからさ」

 

「そうなのか? なら、リン、ずっと一緒! 元希、それで悩み、無くなる?」

 

「そうだね。無くなると思うよ」

 

 

 僕とずっと一緒にいたいと思ってくれるのは、素直に嬉しい事だ。でも、僕とずっと一緒にいるということは、即ちリンの記憶が戻らないとイコールになってしまうのだろう。記憶が戻れば、僕と一緒にいられなくなる可能性だってあるのだから……

 

「むー」

 

「どうしたの?」

 

 

 僕がまた考え事をしていたら、今度はつまらなそうに、わざわざ声に出してリンが僕を見ていた。見ていた、というか睨んでいた。

 

「元希、また難しい顔してる。リン、一緒にいる! もっと嬉しそうする!」

 

「はは、そうだね。今はリンと一緒にいるんだから、難しい顔は良くないか」

 

 

 リンの事で頭を悩ませているのだが、リン本人が悪いわけではない。むしろ、こうして楽しんでくれているのだから、僕が別の事に頭を働かせてるのがいけないのだろう。

 

「ねぇ、リン」

 

「なんだ、元希?」

 

「ここにきて、何か思い出さないかな?」

 

 

 僕は本来の目的である、リンの記憶につながる何かが無いかを探す事にした。記憶が戻ってからの事で頭を悩ませるのは、記憶が戻ってからでも良いのだから。

 

「うーん……何となく、懐かしい」

 

「懐かしい?」

 

「うん、昔ここにいた……ような気がする」

 

「それは……リンはここにいたんだから、そう思うのは普通だよ。でも、やっぱり何処かにその記憶は残ってるんだね」

 

 

 記憶が無くても、自分が生まれ育った場所――もっと言えば、リンはこの辺り一帯の土地神様なのだから、覚えていて当然なのかもしれない。

 

「ここ、荒れてる……何だか悲しい……」

 

「原因はリンが取り除いてくれたけど、僕たちだけじゃ元には戻せないんだ」

 

「そうなのか? 元希、凄い魔法師。元希でも、出来ない?」

 

「恵理さんや涼子さんでも出来ないんだ、僕だけじゃ無理だよ」

 

「無理違う! 元希、出来る!」

 

 

 リンは何を根拠に僕なら出来ると言っているのだろうか……僕なんかよりよっぽど凄い魔法師である恵理さんや涼子さんでも出来ないんだから、僕にはもっと無理だと思うんだけどな……

 

「元希、リンの夢、見た。だから大丈夫」

 

「どういう……っ!?」

 

 

 僕の身体が、何者かに乗っ取られる感覚に陥る。意識はあるのに身体の自由が利かない……良く見ればリンがその場に倒れこんでいる……

 

「(リン!)」

 

 

 僕は叫んだつもりだったけども、声を発する事は出来なかった。

 

『心配しなくても、ワタシは大丈夫です。今、少し元希の身体を借りているだけですから』

 

「(君は……リン、なのか?)」

 

 

 脳内に直接声が聞こえて来た。僕は直感的に、その声の持ち主はリンだと理解した。

 

『そうですね。ワタシは、「リン」と呼ばれているモノです。元希、貴方はワタシに優しくしてくれています。ですので、あのワタシ――「リン」がこのワタシを取り戻すまでは、貴方が面倒を見てあげて下さいね』

 

「(で、でも……この辺り一帯の土壌を元に戻すには、貴女の力が必要なんです)」

 

『その力は、貴方の中にあります。意識するだけで、土壌は元に戻るはずでしょう』

 

「(どういう事なんです?)」

 

 

 この問いかけに対する答えは無かった。次の瞬間には、僕は身体の自由を取り戻し、リンも問題なく起き上がっている。

 

「(意識するって言っても、なにを意識すれば……)」

 

 

 土壌を元に戻す為に、僕は何となくイメージを広げた。すると頭の中に、知らないはずの詠唱が流れてくる……

 

「母なる大地よ、その姿をあるべき姿に戻し、全てに幸をもたらさん『ガイア・リザレクション』」

 

 

 次の瞬間には、張っていた結界は消え去り、土壌は元あるべき姿に戻っていたのだった。




神様ならこれくらい出来るでしょ、って事でこんな感じに……

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