リンに身体を乗っ取られたと思った次の瞬間には、僕の頭には僕の知り得ない魔法が浮かんできた。その魔法を発動させた事により、僕の身体は全身が悲鳴をあげている……だけどそんな事も気にならないくらいに、その魔法の威力に驚いてしまった。
「これは……土壌が回復している?」
自分が使った魔法だけど、僕はその魔法の効果や威力を知らない。だからその結果は自分の目で見て確かめなければいけないのだ。
「リン、この魔法は……リン?」
「スー……」
「寝ちゃってるのか……まぁ無理も無いよね」
記憶を失っているのに、僕の中に入り込んできて、そして僕に神の魔法を教え使わせたのだ。リンも体力をかなり消耗してしまっても仕方ないだろう。
「僕が運んで行ければいいんだけど……どうしよう……」
最善の行動は、僕がリンをおんぶしてテントまで帰るのが良いんだけども、あの魔法を放った事により、僕の全身は限界を超えている。したがってリンをおんぶするどころか、自分の足で歩く事すらままならないのだ。
「誰かに電話して迎えに来てもらわなきゃ……えっと、携帯は……」
大した距離でもないし、それほど時間を掛けるつもりも無かったから持ってきてないんだった……こうなると念話を飛ばすしかないんだけど、今の魔法で僕の中の魔力の殆どを使っちゃったしな……この距離でも届くかどうか微妙なところだぞ……
「(誰でも良い。この念話が届いたら助けに来てください……)」
最後の魔力を振り絞って念話を飛ばして、僕の意識はそこで途切れた。何だか久しぶりに意識を失ったような気がする……そもそも頻繁に気を失ってたのがおかしいのか……
誰かに運ばれている感じがして、僕は目を覚ました。どうやら念話が届いたらしく、誰かが僕たちを迎えに来てくれたんだろうな。
「ん……」
「気がつきましたか?」
「バエルさん? それに秋穂さんも……どうして二人で?」
「元希君が念話を飛ばしてきたんでしょ。『リンと二人で動けなくなっちゃったから迎えに来てほしい』って」
「僕が?」
それ程長い念話を飛ばした記憶は無い。だけど二人はその念話を感じ取って僕たちを迎えに来てくれたという。これはどういう事なんだろう……
「何があったんですか?」
「報告も兼ねるから、恵理さんと涼子さんに伝える時に一緒に教えるよ。今はちょっと話すのもつらいから……」
「元希、もう大丈夫? 起きてる?」
「リン? 君は歩けるの?」
声を掛けられた事で、僕はリンが自分の足で歩いている事に気がついた。
「ワタシ、平気。元希、倒れてて心配」
「そっか……ごめんね。ちょっと疲れちゃっただけだから」
並大抵の疲れでは無かったけども、リンに心配を掛けるのは違う気がして、僕は無理をして笑って見せた。でも、無理してると自分でも分かるくらい、声に力がこもって無かった。
「ダメ! 元希、ちゃんと休む! 元気無い、リンにも分かる!」
「ごめんなさい……」
やっぱりバレバレだったようで、リンに怒られてしまった……見た目が幼い女の子だから違和感があるけど、リンは神様だしな……僕なんかよりよっぽど生きてるんだろうし、注意怒られるのも無理無いか……
「ふふっ」
「? 何か可笑しかったですか?」
「いえ、どっちが年上だかわからないやり取りだなって思いまして。お兄ちゃんの面目丸潰れですね、元希さん」
「お兄ちゃんって……見た目は幼いですけど、リンの方が僕なんかより長く生きてるんですよ?」
あれ? 神様って生きてるんだっけ……まぁいいや。
「そうでしたね。でも、事情を知らない人が見れば、妹に心配を掛けてるお兄ちゃんにしか見えませんよ」
「それは……そうですけど」
見た目は完全に僕の方が年上なんだし、今の喋り方のリンしか知らない人が見れば、完全にダメな兄に怒ってるしっかり者の妹にしか見えないだろうな……
「今日はこのまま寝袋に直行ですね」
「せめて着替えさせてください……」
「さて、どうしましょうかね? リンちゃんに頼んでみます?」
「バエルさん……僕で遊ぶのは止めて下さい……」
バエルさんとも同い年なのに、何でこんなにもお姉さんっぽいんだろう……僕が幼いのかな……
ヒロイン候補として出したんだけどなー……完全にお姉ちゃんポジション……