(──どこだここは)
男は意識が目覚めると同時に疑問を抱いた。
空が近い。そして、自分は何か硬い物の上に居る。
男の名はレイ・アーヴェルス。
かつて異世界アルトミアルスで魔王として君臨し、一つの巨大な大陸の八割を支配していた男だ。
身長百九十二センチ。白髪赤目。顔つきはワイルド系のイケメンだが髭は生えていない。
左胸には上下逆の泣いている女の入れ墨がされている。
かつて、と言ったようにレイは勇者によって討伐された。
だが死んでも復活できるよう対策をしていたレイは見事復活を果たしたのだ。
そして魔王城を移し、これからはスローライフでもするかと思って寝たらここに居た。訳が分からない。
「──レイは私が召喚したの!」
「いえ、私です」
そしてその傍ではレイをほったらかしに何か言い合う二人の少女が居た。
(デッッッッッ)
思わずレイは目を大きくする程片方の少女の胸を見た。
それはでかかった。巨峰だった。少し動くたびにバルんばるん揺れていた。
金髪緑眼。尖った耳に緑の服を着、背中には弓を持っている。
対するは小柄な少女だ。
猫耳と尻尾を持つ少女でエルフの少女より頭一つ分小さい。
黒髪翠眼の少女だ。
「私が今から命令します。これでどちらの召喚獣か白黒はっきり着くでしょう──右手を上げなさい」
黒髪の少女がレイに命令をした。
そのことにレイは怒りを抱いた。
だが、レイの首に首輪が生成された。
そして体がその命令に従いそうになり──
「なんだこんなもん」
ふん、とレイは首輪を引き千切った。
「えっ」
黒髪の少女が間抜けな声を漏らした。
それに対しエルフの少女は勝気な表情を浮かべた。
「なら私の番だ! 左手を上げて!」
またしてもレイの首に首輪が生成される。
「効かんが」
そう言ってレイは首輪を引き千切った。
レイはある
レイが居た世界にはレベルや魔法と言ったゲーム的なシステムがあった。
最大レベルは百でレイのレベルは九十七。これは単独で大陸一つから生命を根絶できるレベルである。
レイは
クラス、職業構成は近接モンク──素手戦闘に特化した者になっている。
レイが少女たちが使った魔術──従属の魔術に抗えたのはレベル差と装備によるものだ。
レイが装備している指輪──骨に着けているので外見からはわからない──の一つに精神操作無効の指輪がある。
これにより無効化出来たのだ。
「え……と……」
たはは、とエルフの少女は笑みを漏らした。
「で、だ。其方らはなんだ?」
レイが問いかけるとエルフは驚いた声を上げた。
「喋った?!」
「……なるほど。魔王ともなれば喋れるわけですか」
エルフの少女が驚くのに対し獣人らしき少女──豹人族の少女は納得したような声を出した。
「其方らの説明次第では殺す。さぁ、訳を言え」
この世界にもレベルはある。レイの居た世界から三倍にしたような感じだ。
故にレイはこの世界だと二百九十レベル以上の強さを持っていることになる。
そんなレイが少し怒気を込めて言えばそれだけで威圧となる。
「わ、私は……シェラ・L・グリーンウッド。貴方を召喚したのは、旅をする仲間が欲しかったからだよ!」
「……なるほど。そちらの──黒髪の方は?」
レイの問いに豹人族の少女は苦い顔をしながら答えた。
「……私はレム・ガレウ。強さを求めています。だから魔王をこの星降りの塔で召喚しようとしました……制御下に置くのは失敗してしまったようですが」
「なるほどな。で、あれば。取引と行こう。余はこの世界に関する知識、情報を持たない。故に其方らが余にそれらを提供するならば其方の力となってもいい。無論ある程度の生活を整える為の金も出してもらうが」
「それならいいよ! 仲間になろー!」
そう言ってシェラはレイに抱き着いた。
(?!)
レイは童貞である。捨てる機会はあったが怖くて捨てなかったカス童貞である。
だから豊満な胸が己の素肌に当たったことに驚愕しつつ己の
「ではまず……ここはまずどこだ?」
「……星降りの塔という、召喚獣を召喚するのに最適な場所です。ファルトラ市から二時間ほど歩いた先にあります」
「そのファルトラ市というのは?」
「辺境都市です。魔族領に近い街の一つですね」
「その魔族というのは?」
「魔王の眷属の事です。世界の破滅を企む種族ともされています」
「なるほどな……まぁ、残りはおいおい聞くとしようか。行くぞ」
レイは道がわからないので二人を先に行かせ塔を降りていく。
長い階段を下りた先は草原だった。
「ねーねー、レイはどこから来たの?」
何の気兼ねなくシェラが問いかけた。
「召喚主として知ってはいないのか?」
「召喚獣がどこから来たかなんて知ってる人はいないよ。ただレイは話せるから、レイは知ってるかなーて」
「……余はこことは違う世界から来た。異世界の魔王だ」
「異世界! すごいね!」
シェラがキラキラした目を向けた。
「異世界ですか……」
レムもそれは凄い、と謎の納得をしていた。
■
一時間半程歩く事で三人はある橋に着いた。
ファルトラ市にほど近い橋である程度要塞としての機能もある橋だ。
三人が橋を渡ろうとすると橋に常駐する兵士が問いかけて来た。
「えっと、ガレウさん? そちらの男性は?」
「……道中で知り合った人、です」
「そうだ。余は旅人なのだがその道中でこの者らと知り合ってな。行き先が同じなので同行している」
レイがその場ででっち上げた嘘を言った。
「そうですか。わかりました。どうぞお気を付けて」
そう言われるだけで三人は通る事が出来たのだった。
更に三十分程すすむ事で
ファルトラ市に入った。
ファルトラ市には多数の種族が居た。
豹人族。兎の耳と尾を持ち十代後半で老いなくなるグラスウォーカー。
犬の様な耳と小柄な体躯が特徴のドワーフなどだ。
レイは異種族多いな、と思いつつ進んで行くと声が聞こえる。
レイの聴覚は鋭い。小銭の音を聞き分ける、などは出来ないが複数人の声を別けて聞いたり遠くの声を聞くのは可能だ。
その聴覚に「なんであんな男がレムちゃんと一緒に?」や「シェラちゃんと一緒にいるあの男誰だ? ヒューマンか?」などと言った声が聞こえる。
それらを無視しレイたちは二人が泊まっている宿、安心亭に入っていった。
「いらっしゃいませにゃ~★」
そこには猫耳と尻尾を持つ豹人族のメイド服を着た少女が居た。
三人は受付に進むとレムが話し出した。
「あの、私の部屋にもう一人居れる事は出来ますか?」
「ん、出来るけどどったの?」
「えっと……この人を入れたくて」
そうレムはレイを見ながら言った。
そのことに対しレイは驚きの表情を浮かべた。
(まさかこいつ、男と同部屋になるつもりか?!)
レイは童貞である。機会があったのにしなかったガチの童貞である。
故に少女と同部屋など御免被る。
「待って! 私の部屋と一緒にする! お金は少しあるから!」
そうシェラも財布を出してアピールしてきた。
「ちょっと待て。其方らまさか余と同部屋にするつもりか?」
「そうです。召喚した者として責任は取らなければなりません」
「いや困るが。男と同部屋など襲ってくださいと言ってるような物だろう。まぁそもそも余に生殖器は無いが──」
「いや私が預かるからレムはしなくていいよ!」
そのあとレムとシェラは何か言い合う──と思ったらメイ──メイド服を着た豹人ぞ億の少女が手を叩いて言った。
「三名様大部屋にごあんなーい、ね」
有無を言わさぬ圧に三人は納得するしかなかった。
そして鍵を受け取り三人は二階に上がり、借りた部屋に入った。
(ベッド一つしかねぇ!)
まさか男に女と同部屋しかも同じベッドで寝させる気か?! とレイは固まった。
だが少し考えてそもそも睡眠無効の指輪を装備しているので寝なくていいか、と思い直した。
幸い椅子はあるし暗視能力もあるので手持ちにある暇つぶし用の本でも読んでいれば夜は過ごせるだろう。
椅子が二つに丸テーブルが一つある。読書ぐらいは出来るだろう。
「なぜ私が貴女と一緒の部屋に……」
レムが不満そうに言った。
「私だって本当はレイと一緒の部屋だったのに……」
少女としてそれはいいのか、とレイは突っ込みたくなったが辞めておいた。
そこに部屋にノックが来た。
レムが「どうぞ」と返すことでドアが開かれる。
そこには女性が居た。
紫色の髪をした妙齢の女性だ。手には長生きの杖を持っている。
その後ろには護衛らしきフードを被った魔術師らしき男が二人立って居る。
「セレスティーヌ……」
「こんばんは、レムさん。お話したいことがあるのだけどいいかしら? 夕飯も奢るわ」
「……それなら」
「あ、私も奢って貰っていいですか?!」
シェラが問いかけた。
「勿論。三人方全員奢りますわ」
(金持ってんな)
レイは謎の感心をしながら一階へ降り、食堂で適当なテーブル席に座った。
そしてパンとスープが運ばれてくる。
スープはコンソメスープの様な物でソーセージが数本入っている。
「それでレムさん。そちらの男性は?」
「……セレスティーヌになら話してもいいでしょう。星降りの塔で召喚した者です。ただ、隷属は出来ず……こうして共に行動することになりました」
「……星降りの塔で、ね。では──単刀直入に聞くけどあなたは何者かしら?」
セレスティーヌはレイを鋭い目で睨みながら問いかけた。
それに対しレイはソーセージを飲み込んでから答えた。
「余はレイ・アーヴェルス。こことは異なる世界で魔王として君臨していた存在だ」
「……魔王。ではこの世界に害を齎すと?」
「何故そうなる? 余が居た世界における魔王とは魔を統べる王でしかなく、世界に仇なす者の事ではない……まぁ聞いた限りではこの世界の魔王は人類の敵のようだが」
「えぇ。世界を創造した神に対し仇なした敵です。この世界で魔王を名乗るのはやめた方がいいかと」
「……そうか。ならそうさせてもらおうか」
「──おい。さっきからなんだお前は」
そこに第三者の声がかかった。
セレスティーヌの護衛をしている魔術師が声をかける。
「レム様やセレスティーヌ様相手に敬語も使わず……何様のつもりだ?」
「──そういう其方はそのセレスティーヌ様とやらの話を遮って何がしたい?」
レイは煽る様に言った。
ここで手を出して来たら大義名分を得たとばかりにぶち殺す算段である。
男──名をガラクは額に青筋を浮かべた。
「ガラク。おやめなさい」
だがセレスティーヌがそう言う事でガラクは一時怒りを鎮めた。
だが謝罪の言葉はなかった。
「ごめんなさいね……それで、レムさん。魔術師協会に来るつもりはない?」
そうセレスティーヌは勧誘の言葉をレムに投げかけた。
それをレムは断る。
「いえ。私のしたい事は冒険者でないとできません。申し出はありがたいですが……断らせていただきます」
そうレムは小さく頭を下げた。
「そう……貴女の抱えることが、よくなることを祈ってるわ──それじゃあ私たちはこれで。失礼します」
そう言ってセレスティーヌたちは去っていった。
レイは考える。
この女何か面倒な秘密抱えてるな、と。
魔術師協会で様付けされるほどの立場の人間──恐らくは協会長がわざわざ目にかけ、そして何かしらを抱えている存在。
放置すれば面倒なことになりそうだ、とレイはパンを粗食し終えると同時に立ち上がり、レムの首根っこを掴んだ。
「な、何を?!」
レムが突然のことに驚愕の声を上げる。
「ちょっと拷問してくる」
レイがそう言う事で空気が凍てついた。
「わ、私はここでご飯食べてるね」
そうシェラは助けることなく食事に戻った。
「この薄情者──!」
そしてレイはレムを連れ二階の部屋に戻っていった。