レイはレムをベッドに投げた。
ぐへ、と情けない声をレムは漏らした。
「さて、其方が抱える秘密について話して貰おうか」
「……話せません。話せば……誰も、私から離れるから」
「なら普通に食い殺すが」
そう言ってレイは左手を巨大な白い口に変え、捕食形態に変えた。
「えっ」
それを見たレムは怯えた表情を浮かべた。
「余は魔王。捕食した相手から記憶を抽出する事ぐらい用意だ」
「えっえっえっ」
レムは慌てて混乱する。
別に捕食してもレムの隠している秘密が手に入るだけで別のデメリットが大量に発生するが捕食されるかもという恐怖の前でレムはそこまで頭が回らなかった。
「ほーれ食べちゃうぞー」
左手の口が唾液を零した。
「わ、わかりました、話します! だからそれを辞めてください」
「いいだろう」
レイは左腕を普通の腕に戻した。
「……私は、魔王クレブスクレムの魂が封印されています」
「──なるほどな。大方死ねばそれが解放される。そのことをセレスティーヌは知っていると……知っているのは血縁とセレスティーヌあたりで、魔族側にはバレてないな」
「……何故、そこまでわかるのです?」
「バレていたらのんきに冒険者など出禁だろう。余なら座敷牢の閉じ込めて次代を作らせているからな」
「……そうですか……」
レムは暗い顔をした。
(……真実を知った奴は魔王という強大さに怯え逃げる──とでも思っているのだろうな)
レイはそう考えるが、ここから出来る事は思いつきはしたが実行に移すには難しかった。
何せやろうとしていることがニコポナデポだ。実際にそれをするのは無理がある。
次善策もあるが何ならそっちの方が嫌われそうである。
仕方がない、とレイは覚悟を決めた。
ぽん、とレイはレムの頭に手を置いた。
「案ずるな。余はどこにも行きはせん」
(まぁ利用価値無くなったら捨てるけど)
その内心は表には一切出さず己の
「……離れない……!」
レムは感極まったのか、泣いてしまった。
(泣かれると対応に困るが?!)
レイは内心そう叫びながら仕方がねぇなぁとハグをしておいてあげたのだった。
■
「……お見苦しいところをお見せしました」
「気にしてないから大丈夫だ」
部屋にそーとシェラがはいって来た。
「大丈夫? 拷問されてない?」
「しとらんから安心しろ……それでは、余は外に出て夜風に当たってくる」
それじゃあな、とレイは宿を出て行ったのだった。
レイは見知らぬ街並みを歩く。
記憶力は良い方なので道を覚えていけるので迷子になる事はない。
外に出たのには理由が一つある。
一つは単純にいたたまれなくなったので外に出たかったという事。もう一つは──
「ん」
レイが広間に着いた途端、向こう側から人の集団が現れた。
十人ほどの集団で全員魔術師協会のローブを着ている。
その中にはガラクの姿もあった。
面倒だし無視しよ、とレイは近くの椅子に座ろうとした。
だがそれをガラクが許さなかった。
「おい! そこのお前! なんでお前なんかがセレスティーヌ様と対等に話してたんだぁ?! おい!」
(うわめんどくせ)
魔王時代なら迷うことなく頭を勝ち割って殺していた相手だ。
「なんだ。ただの護衛の分際で吠えるな」
そうレイは煽った。
「なんだと……俺たち魔術師協会に立て付いてタダで済むと思うなよっ! 来い! サラマンダー!」
(いつから俺は魔術師協会とバトルことになったんだ?)
レイは狂人の考えはわからんと首をひねっているとガラクは何かしらの結晶を地面に投げつけた。
そして結晶から軽自動車ほどの大きさを持つ火の蜥蜴が召喚された。
「なるほど。これが召喚獣か」
元居た世界の召喚モンスターとはだいぶ違う、とレイは謎の感心を見せていた。
レイが元居た世界──アルトミアルスでは召喚魔法はそれ専用に特化しない限り術者より強いモンスターを召喚、使役出来ない。
だがこの世界では違く、見た感じガラクの方が圧倒的に弱いのにこの召喚獣、サラマンダーを使役していた。
「いけ! サラマンダー!」
そしてサラマンダーが炎の吐息を吐いた。
レイはポケットに手を入れたまま待ち構え──そのまま火に包まれた。
「お、おい。やりすぎじゃ……」
ガラクの仲間の一人がそう諫める。
亜人なら兎も角ヒューマンを焼き殺したとなると大問題だ。
「あぁ?! いいだろ、あんなカス野郎!」
「──誰がカスだ」
そうレイは炎が消えた中から無事のまま──煤一つつけず無傷で立って居た。
「な、なんで生きて居る?! レベル三十のサラマンダーの炎だぞ!」
これには当然種がある。
レイの方がステータスが高すぎてカスダメージにすら届かなかった、というだけだ。
レイが居た世界にはレベル差補正というのがあり、レベル差が十以上ある相手の攻撃は碌に通らない仕様がある。
この補正はレベル差が大きくなるほど補正も大きくなる。
故にレベル三十──レイが居た世界換算だと十レベル程度のモンスターの攻撃など余裕で耐えれる訳だ。
「羽虫が」
レイは不機嫌そうにそう言い、右手を触手に変えた。
先端を骨の剣に変え、サラマンダーの首を跳ね飛ばした。
サラマンダーが死亡し、黒いクリスタルに変わった。
「ひぃ?! な、なんだお前! それは!」
ガラクは触手を見て怯えた声を上げた。
普通の人間の腕は触手に変わる事なんてない。当然の反応だろう。
「聞いていただろう? 余は魔王、レイ・アーヴェルス──定命の者の常識で測れると思わぬ事だ」
その台詞にガラクは一歩後ずさんだ。
「お、お前たちも召喚獣を出せ!」
「だ、だけど……」
本来街中での召喚獣の召喚は緊急時でもない限り禁止されている。
それを破れと言うのだ。
「責任は俺が取る! だから!」
「わ、わかった!」
魔術師協会の者たちは腕を変形させるなんて人外の所業をする相手ならいいか、という考えがあった。だから召喚した。
十人全員が召喚する。
それらは○○の精、と呼ばれる下級の精霊種の召喚獣だ。
火の鳥や風の鳥など、実体のないモンスターたちである。
「これだけの包囲網など、人喰いの森からモンスターが出た時ぐらいのものだ! さぁ降伏しろ! 魔術師協会に逆らってごめんなさいと土下座しろ!」
はぁ、とレイはため息を吐いた。
この手の何も考えてないタイプの馬鹿を相手にするのは困る。
故に一手で決める異にした。
レイは右足を高く上げ──振り落とした。
それは範囲攻撃の
衝撃波が舞い散り、召喚獣たちは一撃で消え魔術師協会の者たちも吹っ飛ばされた。
だが手加減したおかげで死者は出ていない。
「おい。これに懲りたらとっととされ」
レイが怒気を込めて言うと、魔術師協会の者たちは召喚獣のクリスマスを回収すると我先にと逃げ出し──ガラクも遅れて逃げ出したのだった。
「……全く……」
これでようやく本題に戻れる、とレイは腹に意識を集中させた。
そこから眷属を創造する。
レイが持つ
自身の肉体を好き勝手に弄れるという、いわば他者干渉できない無為転変の様な代物である。
だが、無為転変と違い自己分裂が容易に可能だ。
そうして生み出すのは異世界ではホムンクルス、と呼ばれていた怪物である。
日本語表記ならば人造人間と表記されるのそれは、レイの腹から六体程産み出されたが、人とは離れた姿をしていた。
まず、頭と体は人の物だ。だが肌が雪のように真っ白である。
頭部にも髪の毛は一切なく、鼻は潰れている。
眼はぎょろぎょろとせわしなく動いている。
胴体からは四対の腕が生えており、下半身はない。
どこか気持ちの悪いモンスター、これが今作ったホムンクルスだ。
レイが作れるホムンクルスは多岐に渡り、これは隠密特化のホムンクルスである。レベルは三十で隠密系特化のクラス構成をしている。
それこそ酒場のど真ん中に居ても誰にも気づかれない程の隠密性を持つ。
「よし、行け。情報を収集しろ」
レイがそう指示を出すとホムンクルスたちは四方に去っていった。
「さて……」
これでやることは済んだな、とレイは宿に戻っていった。
■
「ん-……」
レイは一人安心亭の宿の部屋で本を読んでいた。
本の内容は多種多様なモンスターについて書かれた本だ。挿絵付きである。
「あれ? ……寝てなかったの?」
起きたシェラがレイを見て問いかけた。
レイは一人椅子に座って本を読み続けていたのだ。
装備品の
「あぁ。余は睡眠不要だからな」
そう言いながらレイは本を異空間にしまった。
「えー、けど寝た方がいいよ。寝れない訳じゃないならさ」
「……寝る場所がないだろう」
「? このベッドで一緒に寝ればいいじゃん」
レイは「それもそうだな」と返したいのをぐっと我慢していった。
「………………いや、女性と同じベッドで寝るのは問題あるだろう」
何なら同じ部屋に泊ることも問題ある。
だがレイはこの世界の金銭を持っていない。マジックアイテムなどは貴重品なので売る気がないとなると大人しくこの部屋に泊るしかなかった。
「えー? 別にいいと思うけどなー」
シェラはそうのんきに言う。
(思ってたがこの娘危機感なくない???)
レイは魔王ロールを忘れてそう思ったが口には出さなかった。
「……ん、朝ですか……」
そしてそこにレムも起きてくる。
「あれ? もう起きていたのですか?」
そうレムがレイに問いかける。
「寝てないんだって。一緒のベッドで寝ればいいのにねー」
シェラがそう言った。
「……それは、大丈夫なのですか?」
「余に睡眠は不要だ。異世界の魔王を舐めるな」
「……だとしても睡眠は健康の為必須です。今日からは一緒に寝ましょう、ね」
レムが力強い瞳でそう言った。
レイはそれを断るべきだと考えたが少女からの強い瞳による懇願に「はい」としか返せなかったのであった。