人食いの森へは徒歩で二時間かかる。
三人は軽い雑談をしながら歩いていた。
正直移動するだけなら移動用のアイテム──
だが相手の罠を踏みつぶす前提ならばそもそも相手に罠を用意させないといけないのでその手段は使えない。
という訳で二時間かけて人食いの森に入ったのだった。
(わーおようけおるわ)
レイは木の上から感じる生命反応に目を細めた。
レイはモンク系のクラスを修めている。それらは生命の探知能力を持っている。
逆にアンデッド系は探知できないという欠点があるが。
そして隠れているがガラクも居た。付けさせて置いたホムンクルスが監視をしている。
「マダラスネイクってどこに居るのかな」
シェラが疑問を発した。
それにレムが答える。
「マダラスネイクは沼地や水辺に生息するモンスターです。そこの水たまりとか危ないですよ」
レムがそう言う事でそそくさとシェラは水たまりから離れた。
そして頭に疑問符を浮かべる。
「ねー、ここって人食いの森だよね? 危険地帯の」
ふいにシェラが話し始めた。
「そうですけど……何かありました?」
レムが首をひねりながら問いかけた。
「いや、なんか人の気配おおいなーって思って」
「……その気配はどこから?」
レムが怪訝な顔で問いかけた。
「木の上の方からかな。十人ぐらいいるよ」
「確かに居るな」
その言葉にレムが召喚獣のクリスタルを握り構えた。
「え、どうしたの?」
「──こんな人気のないところで人が複数、それは罠でしょう」
「えっ罠?!」
「気づかなかったのですか? 人食いの森は危険なモンスターが多数生息する地帯です。そこに待ち構えているなど……怪しさ満点でしょう」
レムがこの駄肉エルフは、と構える。
「ふむ……」
レイが右手の指先を向ける。
十の指先から骨の弾丸が放たれた。
レイの肉体操作の応用だ。指の骨の中に空洞を作り骨の弾丸を形成。肉を火薬代わりに破裂させる事で骨の弾丸を撃つのだ。
弾速は早くライフル弾ほどの速度とダメージを叩き出せる。
あえてかすらせる程度に撃った為直撃を喰らった者は居ない。
しかし全員の体をかすめ、体勢を崩し木の上から落とさせた。
だがさすがはエルフと言ったところか。空中で体勢を直し着地した。
「面妖な術を……!」
「エルフか……エルフ風情が何用だ?」
レイは大方ガラクにそそのかされたのだろう、とは思いつつ動かしたネタは何かと考える。
一瞬凄く嫌な予感がしたがあえて無視した。
「知れた事……! シェラ様を解放してもらおうぞ! 奴隷商!」
(最悪の予想あたったやんけ!)
ふぁっきゅー。レイは神に中指を立てた。
エルフが様付けするなど、貴族か何かだろう。
最悪の場合──
「姫君を解放してもらうぞ! 大方人気のないところで純粋無垢なシェラ様をそそのかし奴隷にするつもりだったのだろうがそうはさせん!」
(姫予備か、そっかー)
「シェラ。其方は──」
「……うん。私はグリーンウッド王国の王女なんだ……」
シェラが俯きながら答えた。
「姫様! どうか国のお戻りください! みな心配しております!」
「──いや! それに私を心配してるんじゃなくて世継ぎが心配なだけでしょ!」
「ですがあなたの身も案じています! 一度でいいのでお戻りを……!」
「い! や! 私は戻らない! ──冒険者として生きていくんだから!」
シェラはそういい拒絶の意思を見せる。
(なるほど。ガラクがこいつらに奴隷だ何だとそそのかして動かしたか……余個人への恨みでここまでするとはな)
面倒になった、とレイは肩を竦めた。
レイが前に出て話す。
「おい、エルフ共。シェラはこう言っている。戻すのは諦めろ……だがお互いに妥協点を探ろうではないか。こんなところではなく──」
「黙れ! お前の様な者とは話すことはない!」
「……ならば力を見せてやろう」
レイは少しカチンと来たので力を発動する。
右手を伸ばし触手のように変化させ、鞭のように振るう。
それにより周辺の木々がなぎ倒され、豪快な音が響く。
エルフ達はどうにか避けるので精いっぱいだった。
「ば、化け物め!」
エルフのリーダー格、セルシオがそう叫びながら矢を放った。
ただの矢ではない。エルフの国の至宝の一つ、風の矢だ。
矢そのものに風属性の魔法効果が付いているという代物だ。
セルシオはそれを放った。
セルシオはエルフの中でも精鋭兵だ。それが放つ矢は強力な代物である。
「なんだこんなもん」
レイはそう言い右手で矢を掴み、へし折った。
「ば、馬鹿な……エルフの矢が通じないだと?!」
「それでどうする? これ以上やりあうつもりなら普通に殺すが」
それに対しシェラが「殺すのは駄目だよ!」と抗議の声を上げる。
「ね、セルシオ。私は大丈夫だからさ……強い仲間もいるし!」
シェラがそういう事でセルシオたちエルフはぐぎぎと言う顔をする。
「あとは──こいつだな」
そういうや否やレイは左腕を触手に変えある木を狙って攻撃した。
木が折れると其処から一人の男──ガラクが出て来た。
ガラクは慌てながらも叫んだ。
「お、お前たち! とっととそこの男を殺せよ! 情報を与えてやったのに動かない無能が!」
「──やはりな。大方適当に大ぼらこいてエルフを動かしたか……無駄に知恵だけは回るな。悪知恵だが」
レイが鼻を鳴らすとエルフ達は「こいつにそそのかされたのか……!」と怒りをあらわにした。
レイは右手を変形させる。
巨大な竜の咢の形に変え、
「<竜砲>」
右手の竜の口から強力なエネルギー弾が放たれた。
地面を抉り空間を削りはるか彼方──この人食いの森の外まで続く抉られた後を創り出した。
ぎりぎりでガラクには当たらないよう調整しておいた。
殺すのが嫌などではない。曲がりなりにも魔術師協会の者を殺すと後が面倒なので殺さなかっただけだ。
ガラクはそれを見て「覚えてろよ!」と捨て台詞を残し走って去っていった。
「さて、エルフ共。どうする?」
「……我々は一度引こう。ですが……また来ます。シェラ様」
こうしてエルフ達は去っていったのだった。
■
念のためにマダラスネイクを狩って目玉を入手し、冒険者協会に納品した翌日。
レイはレム、シェラの二人と同じベッドで寝ていた。
「……ん?」
そして朝。起きた時左手に違和感を感じた。
それは柔らかかった。豊満だった。
レイはかっと目を見開き左側を見た。
シェラの胸を揉んでいた。
(どーしてそうなるっ?!)
これは起きる前にどうにかせねば──と思ったのも束の間。
右手もなんか柔らかいの掴んでた。
まさか、と思い右側を見る。
レムの胸を揉んでいた。
(どぼちで?!)
思わずキャラ崩壊するぐらい驚いた。
そして最悪なことに──二人とも目覚めた。
「……ん」
レムが己の胸を見て、揉まれている事に気づいた。
レイはすぐさま腕をひっこめる。
レムは「……次から気を付けてくださいね」と恥ずかしそうに言った。
「す、すまん。気を付ける」
魔王ロールも忘れて小さく頭を下げた。
「……左手もどけた方がいいじゃないですか?」
「あ、あぁ、そうだった」
そしてシェラの胸から手をどかす。
「私は気にしないからいいよー」
「気にしてください」
まったく、とレムはため息を吐くのだった。
■
昼の少し前。
レイとシェラはウルグ橋砦に向かっていた。
シェラは機嫌よくステップする。
「レムも来ればよかったのにな~」
「まぁ、事情があるのだろうよ」
今こうして向かっているのは魔術師協会からの依頼だ。
と言っても先日のガラクのように罠の依頼ではない。
その逆でうちの者が失礼しました、と詫びを兼ねた依頼である。
ウルグ橋砦にパンとワインを届けるだけで大金を得られるというお使いクエストであった。
レムは魔術師協会に借りを作るわけには、と辞退したがレイとシェラは特に気兼ねなく受けたのだ。
そうして二人雑談をしていると目的地に到達する。
「……なんだか騒がしいな」
はて何かあっただろうか、とレイとシェラは首をひねりながら橋砦に着く。
レイが近くに居た兵士に話しかける。
「おい。余は魔術師協会からの依頼を受けて来た者なんだが……この騒がしさは何だ? 何があった?」
「あーと、依頼を受けてきてくれた方ですか。どうもありがとうございます。ただ、すぐこの場を離れてください!」
「何故だ?」
「魔族の大群がこちらに接近してきているのを斥候が発見しました……時期にここは戦場になります!」
「──魔族か」
魔に属する者。魔族。
この世界では今だ弱者としか遭遇していないが、それが人類側だけで魔族側はレベル二百越えは当然などだったらレイは手も足も出ないだろう。
「……レイ……」
シェラが声を絞り出した。
──このままいけばこいつらは死ぬな。
冷静なレイがそう判断し、実際それは正しい。
この世界では魔族はボスキャラだ。故に碌な装備も無くレベルも低い兵士たちでは蹂躙されるだけだろう。
(──だが魔族の目的はなんだ?)
だがこのままこのウルグ橋砦を落としたとしても、ファルトラ市には入れない。
魔術師協会長のセレスティーヌが張った結界により、魔族は侵入出来ないのだ。
故に大軍を動かしたとしても都市の前で待ちぼうけすることになる。
そうなったら時期に外から援軍を持ってきてファルトラ市の戦力と外の戦力での殲滅戦になり、容易く魔族たちは倒されるだろう。
魔族は最強無敵の存在ではないからだ。
(と、なると。何か侵入の当てはあるな……大方人間の暗殺者にセレスティーヌを殺させるとかか)
面倒だ、と思いつつレイはファルトラ市の配下にセレスティーヌを守るよう指示を出した。
ファルトラ市の壊滅はレイの望むところではない。
どこの誰とも知らん奴がどれだけ死のうがどうでもいいが、契約関係であるレムとシェラが居る。
だから守る為に力を振るおうと、その程度の気概はあった。
「引け、其方ら。これから余が魔族と戦う。雑兵は幾ら居ても無意味だ」
レイがそう言いながら橋の方へ進む。
そのことにシェラは嬉しそうな顔をするのだった。