注意:まだブルアカ本編のキャラはある意味出てこないよ!
…何処とも知れぬ、砂の中。
砂嵐が吹き荒れ、故に、その女にとって方向感覚はとうに失われていた。
黄金の髪を強風に激しく揺らし、黒いスケイルメイルを纏うその女。
だが彼女は、自身の装いについては全く気付いていなかった。
そして彼女は、自分自身が置かれた現状に酷く狼狽していた。
ただ、行く当てもなく、砂が吹き荒れる嵐の中を進んでいるだけであった。
彼女はとうに冷静さを失っており、荒い息遣いからもそのことは垣間見えよう。
彼女は予想外の出来事に弱い。
それが”現実”として自分の眼前に現れるのだとしたら、尚更。
…ふと、彼女の視界、砂の奥に、砂嵐に満ちた視界と記憶の中では明らかに”異物”となる、コンクリート材質の物体らしきものを発見した。
彼女は目元を砂から隠し守りつつ、走った。
彼女は、その際に視界に映った自分の右腕を見て初めて、自分の異様な装いに気が付いた。
顔以外の全身を覆う、”黒いスケイルメイル”。彼女は不思議に思った。
この装いは、彼女が常日頃やり込んでいる”とあるゲーム”での、自身のキャラクターの外見に酷似していたのだ。
…彼女は、この疑問を一先ず置いておくことにした。
引き続き、目元を覆いつつ走る。彼女はこれまた不思議に思った。
彼女の記憶では、自分は運動が得意な方ではなく、むしろ平均を下回っていた。
これまで、一度も息切れを起こしていない。それは彼女からしてみて、明らかなる異常の一つであった。
…コンクリート材質の物体、それを眼前に置く程の距離まで来た。
ふと気付くと、砂嵐からはとうに抜けていたようであり、周囲の景色が鮮明に見えた。
…砂が被さった、住宅街。
表現するならば、これが妥当だろう。
人気は少なく、明らかに暫く人の手が入っていない家などもあり、その景色の様は故に、彼女にはポストアポカリプス的な背景を想起させた。
漸く少しの余裕が出てきた彼女は、そこらにあった電柱の、砂が少ない部分を選び腰かけた。
彼女は一先ず、現状把握から始めた。
地面の砂が多い部分を人差し指の先にて撫で、これまでの情報を文字に起こしてみた。
『目覚めたら砂嵐の中にいた』
『私の”エルデンリング”の主人公の姿をしてるっぽい?』
『身体能力が上がってる?←姿が変わってるのと関係がある?』
『砂を被った住宅街に出た』
…一先ず情報、推測を羅列してみたが、特に意味は無かったようだ。
彼女の悪癖の一つ、
”考え無しの考えあり風の行為”である。
彼女は目を閉じ、目覚める以前の記憶を必死に手繰る。
…が、何故やら思い出せなかった。
あまりにも早く手詰まりにぶつかり、彼女は己の無能に幾度目かも分からぬ落胆を、溜息と共に零した。
…彼女は暫し休んだのち、散策を開始した。
やはり何処も砂に覆われており、景色の明らかな変容は中々訪れなかった。
「おーーーい!!」
…試しに大声を出してみたが、人が答える気配はなかった。
…と、彼女が思ったのは、それすらも成果を信頼した上での行動ではなかったからだろう。
「おい」
彼女は、びくりと身を震わせた。
突然背後より聞こえた、ドスの効いた女性の声。
ゆっくりと振り向くと、そこには”赤いヘルメットを被った少女達”が居た。
一体、何時頃から居たのか。
気が付かなかったのは、彼女が思案の海に浸っていたからであろうか。
…だがそんなことよりも、彼女には考えるべきことがあった。
彼女には、この少女達に”見覚えがあった”。
見覚えしかなかった。
赤いヘルメット、手に固く握られた…銃。
そして何より目を引いたのは…。
「おい!聞いてんのかよ!」
…少女達の頭上に浮かぶ、光輪。
”ヘイロー”。
…彼女には考える事が山ほどあったが、一先ずおいて置き、返答をすることにした。
記憶が正しければ、この少女達の怒りを買うのは得策ではない。
「…すまない、貴公ら。少し自分の思案に熱中していてな。失礼した」
…彼女は言ってから、己の口調の違和感に気が付いた。
自分はこんな、古めかしい口調ではなかったハズだ、と。
「あぁ?妙な口調しやがって。恰好付けのつもりかよ!」
少女達の間でクスクスと笑いが滲む。
「お前、ここらじゃ見ない顔だし、その…鎧?みてぇなやつ、高値で売れそうだからよオ。…その鎧と、金、置いてけよ」
…なんとなく、予測していたことではあった。
この手のタイプはすぐに金を要求する。
それは彼女の”記憶上”でもその通りだった。
数秒の逡巡の末、彼女は正直に答えることにした。
「…すまないが、今、持ち合わせが無くてな。鎧ならばくれてやっても構わないが」
現在の彼女の心境とは対極に位置する、底無しに落ち着いた声。
…相変わらず、妙な口調だ。
己の口調に感想を持ちつつ、少女達の返答を待った。
「おっと、嘘を吐くんじゃねぇぞ?アタシらだって平和的に終わらせてぇからよぉ。クヒッヒッ」
とてもそうは思えぬ口調で、先頭の少女が答えた。
この答えも…ある意味では予想済み。
ただそれは、”想定済み”というよりは、”最初から諦めていた”からであった事が大きかった。
…一瞬で、彼女は人生でこれ以上無いと断言でき得る程の思案を、巡らせた。
その末、彼女は一つの質問をすることにした。
彼女は息を吸い込み、意を決して問うた。
「…貴公、一つ質問なのだが…私の頭上には、”ヘイロー”が浮かんでいるか?」
その問いに、先頭の少女は不思議そうな声音で返した。
「…ぁあ?いきなりなんだよ?”あるに決まってんじゃねーか”」
…やはりだ、と彼女は今度こそ確信を持った。
…ここは、学園都市キヴォトス。
”ブルーアーカイブ”の舞台だ。
そして彼女は…”生徒”の一人になってしまったらしい。
何故、彼女はこのタイミングで聞いたのか、それは、自分が生徒であるかどうかを確認し、最悪撃たれたとしても大事に至らないという確証が欲しかったからである。
キヴォトスの生徒、市民は、何故やら、弾丸が効かない。いや、効きはするが、それによって怪我を負うことが限りなく少ない…と、言うべきであろうか。
そして生徒には、頭上に”ヘイロー”と呼ばれる光の輪が浮かんでいる。
生徒間でヘイローの識別は出来なかったハズだが、有無は判別できたはずなので、彼女は、彼女達に問うた…という訳である。
そして、彼女の目の前の、赤いヘルメットを被った少女達…。
彼女らは”ヘルメット団”。
キヴォトスでも有名な武装集団である。
…以上の情報は、彼女も知っている。故にここがキヴォトスだということに気付き、確信が出来た。
彼女がようやく一つの決に至った時、痺れを切らしたのかヘルメット団の団員、その先頭の団員が声を荒げた。
「…てめぇ!いつまで黙りこくってやがんだ!…もういい!お前達、丁度いい憂さ晴らしだ!アビドスの連中にやられた分、ここで晴らしてやんよ!」
…マズいことになった、と、彼女は直感する。
眼前では、手にした銃をこちらに向け、駆け出すヘルメットの少女達。
銃口は迷いなく此方に向けられており、ヘイローがある事により重傷までは至らずとも、少なからずの痛みは覚悟せねばならなかった。
…彼女は、痛みが嫌いだった。
故に、彼女は先程を上回る速度で脳を回す。
どうすればこの状況を打破出来得るか。
要点をそれのみに絞り。
…今更ではあるが、この際の彼女は気が付いていなかったが、以前までの彼女はここまでの速度で思考することなど、到底出来なかった。
…ふと、
”エルデンリングはアクションRPGだったな”
など言う的外れな思考が浮上した。
一蹴しようとした矢先、だが、その考えも存外的外れではなかった事に、気が付いた。
今の彼女は、彼女の推測上ではあるが、
”自分のエルデンリングの主人公”
の体なのだ。
…ならば、自分にも同様のことが可能なのではないか。
”全てのステータスをカンストさせ、あらゆる収集要素を完全に完了させた”、自分の主人公と、同様のことが。
…脳裏に浮かんだ、”UI”。それは後ろに迫りくる弾丸の先端を透かしつつ、視界の大部分を占領した。
迷うことなく、とある項目を念じ、選択する。
…がきん、と、小気味の良い金音と共に弾丸が金板の上で跳ね、地面に落ちた。
「…な、何だよ…!?ソレは…!」
気付くと、彼女の手には”盾と剣”が握られていた。
何が起きたのか、彼女自身にも分からない。ただ、分かるのは…
”敵”への対抗手段を得た
という事だけである。
左手に構えられた、雫のような形状の銀色の盾を見る。そして右手に握られた剣は…細長く、大剣の如し射程、だが外見に見合わぬ軽さを持つ剣であった。
一目見て、『カーリアの騎士盾』、『レディソード』だと分かった。
これは、彼女がエルデンリングにおいて、最も普段で使うことが多いセットである。
彼女はこれらを使い、幾度となく敵の攻撃をいなし、振るい、窮地を脱して来た…。
何故だか、自分自身は握ったことなど無いというのに、手に馴染むような気がした。
…彼女は考える事をやめ、感覚に任せて、レディソードを横向きに構えた。
…”片翼の構え”
突然の異常事態に狼狽えていたヘルメット団達であったが、彼女が構えを取ったのを見て、臨戦態勢とみなしたようだ。
各々が再び何やら叫び、銃口を向け直す。
そして、火花と共に、弾雨。
彼女は、感覚のまま、飛び上がる。
彼女はこのような場でどのような行動が正解なのか、当然ながら知らない。だが、何故やら身に沁みついている。このような時に、どうするのが正解か、が。
弾丸は彼女の足下を通過し、そして剣先が彼女の身を引いているかの如く、一人の団員の鳩尾に吸い込まれていった。
「ぎッ…!?」
…血は出ない。いや、微かに滲みはしたようだが、それだけだった。
これは想定通りだった。彼女の記憶にある通り、キヴォトスの生徒は、異常なまでの頑強さを持つ。弾丸が通じぬのだから、剣先による突きが致命となる可能性は極々低い。
だが、気絶させるには十分だ。
突きを受けた団員が崩れ落ちるのを確認した彼女は、再びレディソードを横に構えた。
そしてそのまま、感覚のままに、何が起きたのか分からずに立ち尽くしていた団員、その複数名に向かい、しかし此度は飛び上がらずに、ただ剣を薙いだ。
剣の腹でヘルメットを打ち据え、脳震盪を狙った一閃。続く二閃は別の団員の足元を狙い、転倒させた。そのまま三閃に移行する、が、怒号と共に飛来する弾丸により阻止される。
「舐めんなぁ!」
彼女は盾を水平に構え、弾丸を上方向に弾いた。
盾に力を感じたその時、彼女の脳裏に、幾度目かも分からぬ、えも言えぬ”確信”のようなものが浮上した。
彼女は身を任せた。その身から放たれたのは、彼女の、エルデンリングでの”メインウェポン”とも言えた、とあるアクション。
攻撃を防ぎ、その際の力を利用し、叩き込む攻撃。”ガードカウンター”である。
普段ならば遠距離の攻撃に対しガードカウンターを使用するなどという危険なことはしていなかった。
何故なら、遠距離攻撃に対して使用したところで届くはずが無かったからである。
が、敵は先程余程焦っていたのか、よもや近接格闘とも言えるような、近距離射撃を行って来た。
故に、この攻撃は余すことなく敵の身を打ち据える。
剣閃が瞬き、一瞬の間に繰り出された二連撃。
それはヘルメットを一撃で砕き、残る一撃で脇腹を酷く打った。
「がッ…、く、そ…」
彼女は敵が崩れ落ち、沈黙したのを見届けると、まだ意識が残っている団員に視線を向けた。
「…さて。まだ、やるかな?」
彼女は、脳裏で編んだ自分の言葉が、喉を通り口を介して放たれた瞬間より、意味をそのままに歪められた様を耳で確認すると。
レディソードの剣先を残る団員に向けた。
…数十分後、彼女は再び電柱の傍で腰を下ろしていた。
結果として、あの後、件のヘルメット団は、意識をなくした団員たちを連れ、逃げて行った。
瞬く間に四人もの団員を鎮圧され、彼女らは戦意を喪失したようだ。
だが、それ以上に、彼女らが”アビドス”に敗北した直後であった事が大きいだろう。
この、砂に覆われた住宅街。ここがキヴォトスだということを含めて改めて鑑みると、
ここはどうやら”アビドス自治区”だと推測できた。
そして、そこにいるヘルメット団…というと、恐らく、彼女らはカタカタヘルメット団であると思われる。
それに加え、奴らは”アビドス”の連中にやられた、といったことを言っていた。
その証拠として、当初の彼女は余裕無きゆえに気が付かなかったが、彼女たちの服は所々が焦げており、破けていた。
それは彼女らが戦闘後、或いは敗走後であった事の裏付けである。
これらの事柄、そして彼女自身のブルーアーカイブの知識より鑑みると…
今、自分は”ブルーアーカイブの最序盤、対策委員会編第一章のアビドス自治区”に来ていると判断した。
…新たに判明した情報を、先刻と同様に、彼女は砂を指先で撫で字に起こす。
『ここはブルーアーカイブの世界のアビドス自治区である』
『時間は対策委員会編第一章である?』
『ステータスはゲームの中と同程度?』
『ゲーム中のシステムを行使可能?』
…「ゲーム中のシステムを行使可能」については、先刻のヘルメット団の件の後にもう一度検証した。
彼女がもう一度念じると、視界に見慣れたUIが表示され、大部分を占領した。
左上に『装備』と表示され、その下に装備とアイテム欄。
中央に装備についての事細かな情報。
右側に…キャラクターデータ。つまりはステータスである。
レベル:713
そして、生命力、精神力、持久力、筋力、技量、知力、信仰、神秘…いずれも99であった。
ここでようやく、彼女は自分の体が本当に『自分の主人公』の体だという確信を持った。
彼女はエルデンリングを幾度となく周回し、己のキャラクターと己のプレイスキルを鍛え続けた。
それにより、全てのステータス、そして収集要素、やり残しは完全に無いと絶対の自信を持ち言い切れる程に、やれることを完全に踏破していた。
ここまで至るために、一体何匹の
…彼女は再び念じた。
すると、表示が切り替わり…所持アイテムの欄に切り替わった。
その後も彼女はUIについての検証を重ね、至った推測が先程の
『ゲーム中のシステムを行使可能?』
である。
…そして、彼女はとある文字列を砂に書き足した。
彼女は、声に出して読んだ。
「…
…これは、先程UIについて検証していた際に発見した、『主人公の名前』。
無論、この文字のまま表示されていた訳ではなく、スペルに変換されていたが、確かにこうあった。
彼女はエルデンリングに限らず、普段ゲームをする時にはこの名前を使っている。
本当はただ本名を少し弄っただけなのだが、彼女はこの名前を痛く気に入っていた。
…よし、と彼女は立ち上がり、鎧の布部分に付着した砂を軽くはたくと、独り言を続けた。
「…私は今日より、落葉コガネ…。フフッ…存外、抵抗なく受け入れられるものだな」
こうして、彼女、もとい『落葉コガネ』は、キヴォトスにやって来た。
彼女が、この透き通った世界に齎すものは、改革か
それとも…。