ようやく対策委員会編が始まりました…。
『箱の所持者、シャーレの先生』
コガネの朝は早い。
と言っても、どうやらコガネは腹も減らなければ寝ずとも良いようなのだが。
故にコガネは、夜中は夜中で独自の行動をしている。
その独自の行動というのは、最近黒見セリカと共に買いに行ったスマートフォンにて情報を収集したり、己の出来ることの確認をしたりなどである。
…収集した情報には、『連邦生徒会長の失踪はもうかなり前に発生していた事』と、それと同時に『連邦捜査部”S.C.H.A.L.E.”に”先生”が赴任してきたのもかなり前』だという事が分かった。
奥空アヤネによると、どうやらシャーレへの救援依頼も既に出しているようで、先生が此方に来るのもそう遠い未来ではないだろうことが予想できた。
…話を戻そう。
コガネは今、朝、もとい夜中のアビドス高等学校の校舎、その屋上に居る。
コガネには今家がないので、仮の住居として空いた教室の内の一室を借りているのだ。
…柵に寄り掛かり、スマホを弄る。
現在はこの世界の先生について調べている真っ最中である。
というのも、コガネが知る”先生”は、それこそ聖人君子の如き善性を持ち、生徒のことを何より大事にするような…そのような御人なのだが、
それはあくまでも二次創作上の先生であり、更に言えばこの世界の先生が原作と同様の性格なのかは不明であった。
ただでさえ不確かな己の原作知識に齟齬が出るのは、なるべく少なくあって欲しい。
調べたところでどうにかなる話でもないが…彼女は調べた。
…少なくとも、こうして文字に起こされた何処の誰とも知れぬ誰かの、先生への感想を見ている分には、そこまで変な記述は見受けられない。
ふと、段々と調べ物にも飽きてきたコガネが、降りかかる月光の源へ視線を向ける。
砂漠の夜空は綺麗だとは言うが…それは実際に見てみると想像の遥か上を行っていた。
と言っても、恐らくだが、世間一般で言う『砂漠の夜空は綺麗』とは多少、現在の夜空は異なっていた。
星は、意外にそこまで強く見えなかった。だが逆に、多くの星を押し押し退けるようにしてそこにあったのは、淡く輝く満月。
星が見えにくいのは、強力な月光が空を照らし闇を薄め、それ故に星が見えにくくなるからだが、その時のコガネが知る由は無かった。
だが、月光は何より己を主張し、砂漠の輪郭を照らしていた。
砂は雪原の如く白銀に染まり、砂漠全体の陰影が強調された。
…コガネはこの光景を見て、まず一番に思い出したのは”月の王女、ラ二”であった。
初対面の時、彼女は背後に巨大な暗月を湛え、褪せ人を待っていた。
あの時コガネは、その幻想的な雰囲気と儚げな印象に、一気に心を掴まれたのだ。
更にその後にイベントを進めるごとに、彼女はコガネにとっての”最上”に近しくなっていった。
…”推し”。その言葉を知ったのはコガネがフロムゲーを始めてから少し経った後だったが、正しく、その言葉が似合う唯一無二の存在であった。
初めて出会ったときの幻想的な姿。
暗月を背負った神秘的な佇まい。
イベントを進めるたびに見えてくる彼女の物語。
そして、長い冒険の果てにたどり着いた、彼女との関係。
そういえば、エルデンリングで最後に迎えたエンドは、星の世紀であったか…。
…もう会うことも無いだろうが、彼女はただ、思いを馳せていた。
…その日の昼頃。
コガネ含む対策委員会の面々(といっても、小鳥遊ホシノは別の教室で昼寝中、砂狼シロコは外出中だが)は、いつものように会議室にて談話していた。
「そういえば、コガネっていつもどうやってあの…遺灰だっけ?…アレを呼び出してるの?」
黒見セリカが何気なく放った質問。
コガネはいつものように正直に答える。
「あぁ、彼らを出すとき、いつもこの鈴を取り出しているであろう?」
コガネは”霊喚びの鈴”を取り出した。
「この鈴を遺灰に対し鳴らすことにより、遺灰に滞留した魂を導き、嘗ての戦いを思い出させるのだ…このようにな」
コガネは言うと、一つの遺灰を取り出し…
チリ~~~ン………
…すると、淡い霧が出現し、三つの塊を生み出した。
それは、壺から手足が生えたような存在。
「ひゃっなにこれ!?壺の…ゆるキャラ…?みたいだけど…」
「こんな遺灰もいるんだ…」
「わぁ!とってもかわいい子達ですね☆」
「これは”特攻野郎たち”。デコイとして優秀なうえに、死ぬと爆発する」
「えぇ…」
「そ、そうですか…」
「…なんというか、コガネちゃんらしいですね…」
三人は可愛らしい外見に一瞬目を輝かせたが、概要を説明された瞬間に一気に引いてしまったようだ。
…その時、部屋の扉が開き、砂狼シロコが入って来た。
「ただいま」
「あ、おかえりシロコせんぱ………い?」
…黒見セリカが言いどもったのは、周りから見ても分かる明確な理由があった。
砂狼シロコは、普段の様子から見ても明らかなる異物を背負っており…それはよく見ると、大人の男性であった。
このタイミングで砂狼シロコがおぶってきた見知らぬ大人の男性…ともなると、この人物が誰かは容易に想像ができた。
「うわっ!何!?そのおんぶしてるの誰!?」
…が、ここでは設定を優先した。
「…大人の…男…か?」
「わぁ!シロコちゃんが大人を拉致してきました!」
「拉致!?もしかして死体!?シロコ先輩がついに犯罪に手を…!」
「いや、どうやら生きてはいるようだぞ。…察するに、住宅街に転がってでもいたか?」
「ん、そう。うちの学校に用があるんだって」
砂狼シロコはおぶっていた大人を床に降ろした。
「え?じゃあ拉致じゃなくて…お客さん?」
”あはは…うん、そうだよ”
「わぁ、びっくりしました。お客様がいらっしゃるなんて、とても久しぶりですね」
「そ、それもそうですね…でも、来客の予定ってありましたっけ…」
「…」
服に着いた砂を払いつつ、大人は立ち上がった。
”「シャーレ」の顧問先生です。よろしくね”
…言われずとも、コガネには勿論分かっていた。
砂狼シロコが外で拾い、この対策委員会の部室へ運び込む、アビドスに用のある大人。
そのようなシチュエーションは、コガネにとって心当たりしか無かった。
「「「!!!」」」
が、少なくとも彼女らはそうでない。
「え、ええっ!?まさか!?」
「連邦捜査部シャーレの先生!?」
「…成程、支援要請が受理されたか」
「わあ☆良かったですね!アヤネちゃん!」
「はい!これで…弾薬や補給品の援助が受けられます」
それに…と彼女は付け加える。
「…これで、コガネちゃんの負担を減らせます」
…あの日以降も、当然ヘルメット団の襲撃は続いた。
あの日程の規模は流石に無かったが、それでも資源が無ければ、コガネ以外の対策委員会の皆は戦うことが出来ない。
故に、ヘルメット団の襲撃があった場合は、その度にコガネが単騎で殆どを蹴散らしていた。
一応は、討ち漏らした敵を任す場合もあったが、それも彼女らからすれば、少ない回数。
コガネからしてみれば、己の実力を保つ場であり、己の実力を確認する場でもあった。
更に言えば、コガネは元、フロムゲーのプレイヤー。
彼らは皆、戦いを求めている(諸説あり)。
…それはコガネも例に漏れず、少なからず戦闘を楽しむ心があった。
それ故、単騎で蹴散らすのも吝かではなかったのだが…。
…終わった後は毎回、皆から心配そうな、申し訳のなさそうな視線を向けられていた。
それはコガネとしても良い気分なものでは決して無かったので、彼女らから少しでもそのような感情が削られるのならば、万々歳と言ったところであった。
「…私は別に、あのままでも良かったのだが…」
「いえ、絶対にダメですから!分かりましたね!?」
「…あ、ああ」
”…?”
「あ、早くホシノ先輩にも知らせてあげないと…あれ?ホシノ先輩は?」
奥空アヤネが室内を見渡すが、小鳥遊ホシノは何処にもいなかった。
「委員長は隣の部屋で寝てるよ。私、起こしてくる」
黒見セリカが扉を開き、小鳥遊ホシノを連れてこようとしたとき。
ダダダダダダッ!!
…この、突然の銃声も幾度目か。
「じゅ、銃声!?」
「!!」
…もはや説明は不要かに思われるが…ヘルメット団、その襲撃である。
「わわっ!?武装集団が学校に接近しています!カタカタヘルメット団のようです!」
「…全く、飽きん奴らだな。これだけ何度もただ一人に蹂躙されているというのに」
「ん、今日はコガネだけには任せない。私たちも戦う」
「ああ、是非ともそうしてくれ。このまま貴公らのあのような顔を見続けるのは、私としても良い気分ではない」
皆が戦闘の準備をしている中、扉が開き、黒見セリカが小鳥遊ホシノを連れてやってきた。
「ホシノ先輩を連れて来たよ!先輩!寝ぼけてないで、起きて!」
「むにゃ…まだ起きる時間じゃないよ~」
「ホシノ先輩!ヘルメット団が再び襲撃を!こちらの方はシャーレの先生です」
奥空アヤネは慣れた様子で小鳥遊ホシノの発言をスルーし、現在の状況を端的に説明する。
「ありゃ~…そりゃ大変だね。あ、先生?よろしくー、むにゃ」
「先輩、しっかりして!出動だよ!装備持って!学校を守らないと!」
「んぁ…そっか、これでやっとおじさん達も戦えるね~」
「うむ…先生のお陰だな。感謝する。これで彼女らのあんな顔をもう見ずに済みそうだ」
”どういたしまして。…あの…さっきから思ってたんだけど、これまで君が一人で戦ってたの?”
コガネは心からの感謝を込めて言ったが、先生はこれまでの発言より疑問を感じていたらしい。
コガネは正直に答える。
「ああ。私は他の皆とは違い、戦闘で弾薬などが必要ないからな」
”戦闘で弾薬が必要ない…?一体どうやって戦ってるの?”
答えるつもりだったが、背後より声をかけられて断念する。
「…すまない。もう出撃の時間らしい。だが、どうせ実戦時には自ずと分かるだろう」
”うん。ごめんね、時間を取って”
「気にすることは無い。…では、行こうか」
「はーい、みんなで出発です☆」
コガネ達は、共に扉を出て行った。
部室に残ったのは奥空アヤネと先生のみとなり、奥空アヤネは先生に話しかける。
「私がオペレーターを担当します。先生はこちらでサポートをお願いします!」
”うん。指揮は任せて!”
先生は懐より、”タブレット端末”を取り出した。
先生は、タブレット端末に向けて囁きかける。
”…アロナ、今回もよろしくね”
…コガネは皆と廊下を駆けつつ、独り言ちた。
「…久方ぶりの、誰かとの共闘だな。…フフッ、存外、悪くないな」
…彼女らは、共に玄関を飛び出した。
ちなみにコガネの「…フフッ、存外、○○だな」は第一話から登場しているコガネちゃんの口癖みたいなもんです。
あと、文中にも載せましたが、さらに直接的に言えば、コガネちゃんは戦闘狂です…。
…アッ、pixivはこちらになります…。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=29413441