白銀御行には友達がいる。そいつはわる〜いやつだ。
「おい天羽……おい天羽!」
「ん、どうした御行」
「どうしたもこうもじゃない! なんだこれは⁉︎」
机の上に置かれた、いくつかの玩具——おもちゃ。
それはところどころ、ピンクだったり、あるいは黒だったり、突起があったり、コードがあったり。
ぶぶぶぶぶーーん‼︎
「いや、ただのおもちゃだけど」
「ちがーう! そんなの見りゃわかる! だがこれは……そうじゃないだろ‼︎」
神聖なる生徒会室。
そんな会長席の机の上には——なんと!
「これはエッチなやつだな⁉︎」
「いえ、健全なやつです」
——めちゃくちゃスケベなやつが置いてあった‼︎
「どうしてこんなのを俺の席に置いた⁉︎」
白銀御行はびしいっ! と指をさす。
その方向にはいかがわしく振動する装置が、まるで一秒間に幾重と小刻みに揺れていた。
ぽとり。
「あっ、落ちちゃった。出力高すぎたかな」
「あもーう! 天羽庶務‼︎ 今すぐ片付けるんだ!」
「えでも、これプレゼントする予定だったんだけど」
「誰に⁉︎」
「御行に」
「使わねえよ⁉︎」
問題の人物——天羽衣緒(あまね いお)。
彼女……いや間違えた。彼は、変態だ。
とても中性的な容姿で、一見したものは必ず二見をするほどに、顔が綺麗に整っている。
昨年の女装グランプリでは余裕のナンバーワン!
簡潔に言い表すなら、男の娘である。
「えー、でもせっかく持ってきたのに」
「今すぐ持って帰れ⁉︎」
「だって御行使うでしょー?」
「だから使わねえって!」
「じゃあ妹さんにプレゼントしてもろて……」
「いや殺されるわ⁉︎ 誰がするか⁉︎」
「圭ちゃんに会いたいなー」
「当分の間、お前には会わせないと今決めた」
さて、そんな天羽であるが。
こんなんでも彼は白銀御行の友達である。
生徒会における役職は庶務。
いわゆる何でも屋、だが……。
しかしみくびるな?
白銀が生徒会長になれたのには、この天羽衣緒という男の力が大いに関わっている。
「まったく、お前の家はまた変なものを開発して」
——『天羽家』
古くは奈良時代。734年に聖武天皇が朱雀門で歌垣を見たという記録が残っている。そこで喝采を浴びたのが、天羽の系譜とされる。
平家、豊臣、明治としぶとく生き残り、その大規模なネットワークと裏支配を背景に、一族は銀行と不動産の『天羽合名会社』に表向きは転身している。
——だが本業はえっち!
——浴場業という名のえっち‼︎
戦後にもそれは解体されることなく、今もなお『天羽家』は裏世界と表世界の両方に根を張っていた。
「うむ、振動が強すぎてこれはちいとばかしマニア向けだな。そう思わないか? 御行」
「俺に聞くな! ていうか机にまた置くな⁉︎」
さて、再びすさまじい残像を覗かせながら机の上でじわじわしていく、このおもちゃだが……。
「まずい、四宮や藤原書記に見られたらなんというべきか……。早いとこ隠さねば——」
「失礼します」
——時すでに遅し! 四宮かぐや、入室。
会長席の机の上では、ピンクと黒の突起とコードのついたどエロい装置が、それはもうぴょんぴょん見てくださいとばかりに動いていた……!
「あっ、また落ちた」
「会長……それは?」
副会長——四宮かぐやが膝を曲げておもちゃを不思議げに拾い上げた。
「あっ、いや⁉︎ 四宮……それはだな⁉︎」
「何でしょう……凄く振動しています」
白銀が止める前に、すっくと立ち上がった四宮はこくりと首を傾げて、それを宙にあげる。
「四宮さん。それはローターといって——うぶっ⁉︎」
「おおお黙ろうか⁉︎ 天羽庶務はまったくなあ!」
天羽が商品説明に入る前に、白銀がその口を押さえつけて物理的に閉ざした。
「いやなに、天羽の家が開発したものらしくてな! なんでも肩に当てると凝りが解消されるらしい」
「へぇ……天羽さんのところが、ですか」
「ああそうだ。だから二人で実際に体験していたのだが、どうも出力の強すぎる欠陥品のようでな! 今しまうところだ。さて四宮、こちらに渡してくれ」
「ふーん。わかりました。ですがその前に一度試してみても構いませんか?」
四宮の純粋なその目。白銀はどうすればこれをいなせるかを考えて——。
「しょれはぜひいえでちゅかってくだしゃ——」
「——おおお天羽⁉︎ お前はもう何も言うなあ⁉︎」
天羽が白銀の緩んだ手からもごもごと口を挟んできた——ので、急いでまた口を今度はもっと強く塞いだ。
「あの……会長。その、天羽さんが苦しそうですが」
「いやなに、四宮。これは男同士の馴れ合いというやつだから何の問題もな——」
「——だじゅけてぢのみやざん‼︎」
四宮かぐやの視線が白銀御行に刺さる。
「あんまりいじめないであげてください。いくら男同士とはいえ、それではまるで……まるで⁉︎」
頬を若干赤らめるかぐや。何を言おうとして何に自分で驚いたのかはここでは問わないでおこう。
「それも、そうだな……。いいか天羽庶務、余計なことは言うんじゃないぞ……? わかったな?」
ガクガク。
首が小刻みに揺れて若干の涙目を浮かべる天羽衣緒。
「よし……じゃあ解放しよう。本当に頼むぞ」
「助けてくれてありがとうございます四宮さん」
「い、いえ。別にお二人の仲が良すぎるのは今に始まったことではないですから。ですが……天羽さん?」
「はい、なんでしょう」
すると、四宮かぐやがすっと真剣な表情で見た。
「あなたには既に相手がいるのですから、浮気、ましてや男性など。それは許されないことですよ?」
「あ、あはは……。まあ”アレ”はどちらかというとビジネスフレンドですけどね」
「はあ……まあいいでしょう。それで? これの使い方は一体どのように?」
急ぎ、白銀が割って入る。三度目はないぞ。
「そ、そうだな……その白いボタンをポチッと押して肩に当てるだけだ。うん、そうだよな? 天羽?」
「はい、その通りです。会長」
「へえ、そうですか。では試してみますね」
四宮がボタンを押す。
「わっ……!」
ぶぶぶぶぶーーん‼︎
装置が動き出し、非常に繊細に震える。
例えるならショパンの美しい旋律。
「これを……肩に、ですよね?」
軽やかにそのまま、そっと肩に当てた。
「んっ——!」
四宮かぐやの口から甘い声が漏れる。
——なに今のどエロいの⁉︎
白銀は心の中でそう突っ込んだ。
「あっ——! これは……‼︎ なん、と、いうか。き、気持ちいいあっ——くぅん⁉︎」
四宮の口から、一際甘い嬌声が生徒会室内に響く。
そして、崩れるようにふらりと床に膝をついた。
ぽとりと手から装置が落ちる。
「だ、大丈夫か四宮⁉︎」
「か、会長……。だ、大丈夫です。ただ、その。気持ち良すぎて、つい」
そくざに駆け寄る紳士たる白銀。
はぁはぁ、と小刻みな吐息をつく四宮。
なんともまあエロティクな光景だ。
「うーむ。やっぱりダメだ、途中で勝手に出力が上がってるみたいだなコレ」
床に落ちたブツを拾ってそう呟く天羽は、一人うんうんと頷いてからポケットにしまった。
「四宮さん、大丈夫ですか? 立てます?」
「天羽さん……だ、大丈夫よ。だけど、もう少しだけこのままの姿勢でいさせてちょうだい」
「し、四宮。肩を貸す、せめてソファに移ろう」
「わ、わかりました。では失礼して……」
(し、四宮の肩を触ってるぞ俺……!)
(か、会長の逞しい身体。棚からぼたもち……!)
二人の脳内は一致していた。
((ありがとう、天羽‼︎))
そしてそんな様子の二人を知ってから知らずか、天羽は自分の荷物をまとめて、出口へ向かった。
「じゃあ御行、ボクはちょっと先に帰るよ。この試作品の不備を共有しなきゃいけないから」
((この状況で去るとは……紳士!))
そして扉が閉まる。
残されたのは、生徒会長と副会長のみ。
「「…………ごくり」」
男女二人、何も起こらないはずがな——がちゃあん⁉︎
「——どーんだYO!」
悲しきかな、何も起こらなかったのである——‼︎
□■□■□
「ねえ、桃。声我慢しないで?」
「うるせえ、衣緒。こっちは我慢——くっ⁉︎」
「ほら、そのまま流れに任せて」
とある部屋にて。
「もういいだろ⁉︎ とっととコレ止めろ!」
「えー? もう少しその顔見てたいのに」
「いいから! じゃないところすぞっ‼︎」
「はいはい、わかったよ。——でもその前に」
出力が上げられる。
「——っああ゛‼︎」
「ふふ、可愛いね。桃」
「ろす……」
「ん? どうしたの?」
「……絶対にころす‼︎」
無言でさらに出力が上がる。
「…………っく‼︎」
「ほら、桃。顔隠さないでこっちに見せて」
「衣緒……後で分かってるだろうな?」
「えー? ちょっとしたイタズラじゃん」
「お前は私を怒らせた」
「じゃあ謝るからこっち見て?」
少女が睨みつつも顔をあげたその瞬間——。
「——っ⁉︎ ——っっっ⁉︎」
深く。濃厚な。息をも塞ぐ。熱い。
「……ぷはっ。桃は許嫁なんだから、良いよね?」
「ゆ、許さないぞ……」
「じゃあもう一回する?」
「やめろ……バカ衣緒」
少年が「はぁ……」と深くため息をつく。
「じゃあ白銀さんところの妹でも狙おうかな」
「⁉︎ それは——ダメ!」
「じゃあもう一回する……?」
「…………」
コクリと、少女は儚げに頷いた。
頬を紅く染めて、だけど目線は逸らして。
□■□■□
白銀御行には友達がいる。そいつはわる〜いやつだ。
それは本当に、悪い奴だ。
見切り発射、ってやつだ
天羽を「あまね」と読んでいますが、打ち込む時は普通に「あまはね」「てんはね」と書いてから変換しているので、読みやすい方で自由に脳内変換してください