君こそ一番わるいやつ   作:深紫Sιn姉

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11:オ◯ホール

ぴこぴこ。ぴこぴこ。

 

ここは、神聖なる生徒会室。

その片隅のソファにて。

携帯ゲーム機を連打する男が一人いた。

 

「……よし、討伐完了」

 

ボサボサの髪に、首にかけたヘッドホン。

生徒会会計——石上優である。

ちなみに先日の温泉旅行は不参加だ。

理由は「新作ゲームの発売日」とのこと。

 

「おっは〜ろ〜。優くん、生きてる?」

「……生きてますよ、天羽先輩」

 

ガラリと扉を開けて入ってきたのは——!

 

ご存知、生徒会庶務——天羽衣緒。

相変わらずの爽やか美形であった。

うん、本当に恨めしくなるほどに。

 

「旅行、どうだったんですか?」

「うん、良かったよ。お肌もスベスベってやつ?」

「へえ、それは良かったですね(棒読み)」

 

石上は天羽に大いなる恩義がある。

かつての絶望から救い出してくれた一人だ。

ゆえに、彼には一生頭が上がらない。

 

——だがしかし!

——それとこれとは話が別である‼︎

 

(女の敵! 女の敵! 天羽先輩は実質女の子⁉︎)

 

石上はゲーム機の陰からジト目で睨んだ。

 

顔面偏差値カンストの超名家御曹司。

学園最強の龍珠先輩を許嫁に持ちつつ。

他の美少女たちとも浮名を流すモテ男。

 

(呪われろ……! 爆発しろリア充め……!)

 

——その時だった。

 

「あれ、優くん。どうしたの、そんな怖い顔して」

 

天羽が小首を傾げた、その瞬間。

制服の襟元が、わずかに開いた。

そこから覗く、白く滑らかな首筋。

そこには——『赤い痕』を発見!

 

「なっ……⁉︎」

 

石上の目から、血の涙が吹き出す。

 

(キ、キスマーク⁉︎ はああああああああ⁉︎)

 

しかも、結構エグい噛み跡までついている。

一体どんなコトをしたらそうなるのか! うぎぎぎ‼︎

 

石上はより一層、そこを強く睨む。

すると天羽がそれに気づく。

 

「あ、これ? いやぁ〜蚊に刺されちゃってさ」

「ウソつくんじゃねえですよこの野郎さん⁉︎」

 

石上がガバッと立ち上がった。

 

「どこの世界に歯型がつく蚊がいるんですか⁉︎ それ完全に事後のやつじゃないですか‼︎ 氏ね! いや、やっぱ恩人だからまだ氏なないで! でも今すぐ文春砲を食らって社会的に抹殺されればいいのに……っ⁉︎」

「あはは、優くんは今日も元気だね?」

「元気なんかじゃありませんよ……うぅ」

 

石上優、リア充の波動を浴びて瀕死状態へ。

 

「おい石上、朝から何を騒いでいる」

 

そこへ、生徒会長——白銀御行が入室した。

 

「会長! 聞いてください! 天羽先輩の首に——」

「——ああ、蚊に刺されだろう? 奥多摩の蚊は強力だからな。俺も驚いたぞ」

「なにそれ奥多摩そんな凄いの⁉︎」

 

白銀の天然ボケに、石上が頭を抱えた。

 

「まあまあ。徹夜でゲームして疲れてるでしょ? そんな可愛い後輩のために、お土産があります」

「お土産……ですか?」

「そう! 手首の腱鞘炎を防ぐ、うちの最新鋭『握力トレーニング器具』だよっ!」

 

すとんっ。天羽が机の上に、ある『物体』を置いた。

 

全長二十センチほどの、肌色の円筒形。

表面には謎のくびれがあり、ぷにぷにしている。

そして先端には——いかがわしい小さな穴!

 

「「…………」」

 

白銀と石上の思考が、ピタリと止まった。

 

「……おい、天羽」

「……あの、天羽先輩」

 

二人の声が、低く重なる。

 

「どう見ても、エッチなやつだな(ですよね)⁉︎」

 

奥多摩のお土産は随分と特殊なようだ。

 

「いやいや、握力を鍛える健康器具だよ。ほら、こうやって手でぎゅっと握ると、高反発の特殊ゲルが指の筋肉を刺激して——」

「——待て天羽! ならなぜ穴が空いている⁉︎」

「通気孔だよ。中に空洞があれば潰れないでしょ?」

「ぐっ……一理ある⁉︎」

「納得しないでください会長! 騙されてますよ‼︎」

 

石上が必死にツッコむ。

だが天羽は、にこにこと笑うばかりだ。

白銀が再起動して言った。

 

「とにかく天羽! 今度こそ四宮たちが来る前にそれをしまえ! こんなものを見られたら、生徒会の威厳が——」

「失礼します」

 

——時すでに遅し! 四宮かぐや、入室。

 

「「あっ……」」

「おっは〜ろ、四宮さん」

 

机のど真ん中に鎮座する、肌色のいかがわしい筒。

白銀と石上は、それはもう顔面蒼白になった。

エマージェンシーとはまさにこのこと。

 

「おはようございます。……あら? 机の上のそれは、なんでしょうか?」

 

四宮かぐやが、不思議そうに首を傾げて歩み寄る。

 

(やばいぞ石上! どう誤魔化す⁉︎)

(む、無理ですよ会長! あんな形状、言い訳のしようがありません!)

 

二人がアイコンタクトでパニックになる中。

天羽がすっと口を開いた。

 

「四宮さん。これはいわゆる、オナ——むぐっぅ⁉︎」

「おおお黙れ天羽ぇ‼︎ 石上、手伝うんだ!」

「りょ、了解です会長! 助太刀します!」

 

白銀が天羽の口を塞ぎ、石上が羽交い締めにする。

 

「んぐー! んぐぐー‼︎」

「いやなに四宮! これは石上の腱鞘炎を治すための、最新鋭の健康器具らしくてな!」

「そうですよ四宮先輩! 僕がゲームしすぎたからって、天羽先輩がくれたただのゴムの筒です!」

「へぇ……そうなんですか」

 

四宮は特に疑う様子もなく、それを手に取った。

ぷにっ、と柔らかい感触を楽しむ。

「ふふっ。まあ……ずいぶんと弾力がありますね。まるで、人間の肌みたいです」

「「——っ⁉︎」」

 

無垢な感想が、男子二人の理性をゴリゴリ削る。

 

「あの、四宮先輩。それ僕のなんで、そろそろ返してもらえると嬉しくて……」

「ええ、すみません石上くん。……ですが、この穴は一体なんですか? 中はどうなってるのでしょう?」

「四宮、見るな⁉︎ あっ中を覗くんじゃない!」

 

白銀が慌てて止めようとした——その瞬間。

ぬっぷり。ずぼっ。

 

四宮かぐやは、純粋な好奇心から。

その小さな穴に、自分の人差し指を突っ込んだ!

 

「し、四宮ああああああ⁉︎」

「し、四宮先輩いいいい⁉︎」

 

男子二人の絶叫が、生徒会室に木霊した。

しかし四宮はそれを気に留もめず。

それはもうあれやこれやと指を動かす。

 

「わっ……! な、なんでしょう、これ……!」

 

四宮の肩が、びくりと跳ねる。

天羽を拘束していた白銀と石上も、思わず手を離してがっちりと地蔵のように固まった。

 

「天羽さん……これ、中がすごくヒダヒダしていて……それに、なんだかぬるっとした液が……?」

「ああ、それはあらかじめ内部に塗布された潤滑用ので——うぶっぐしぃ⁉︎」

「黙ってろって言ってるだろ天羽ぇ!」

 

再び白銀が天羽の口を物理的に封鎖する。

しかし、事態はそれで終わらなかった——!

 

「……あれ?」

 

四宮が、きょとんとした顔で手元を見る。

指を、引き抜こうと引っ張る。むにゅっ。

 

「……え?」

 

もう一度、引っ張る。むにゅむにゅっ、ちゅぽっ。

 

「な、なんだかヒダヒダが吸い付いてきて……んっ⁉︎ ——ぬ、抜けません!」

「「なんだとおおおおお⁉︎」」

 

まさかのトラップ発動!

 

必死に腕を振る四宮。

だが、振れば振るほど、いかがわしい筒がぷらぷらと揺れるだけ! それもぬぷぬぷ音をたてて‼︎

 

「あ、あわわ……! 会長、どうしましょう⁉︎ 私の指が、飲み込まれてしまいます……っ!」

「落ち着け四宮! 今すぐ確認する! ——おい天羽、これはどういうことだ⁉︎」

 

白銀に詰め寄られ、天羽が顎に手を当てた。

 

 

「ああ、それ『バキュームくん』の試作品だから。一度奥まで挿入すると、内部が真空状態になって、簡単には『抜けない』ように設計されてるんだ〜」

「なんてものを作ってんだお前の家は⁉︎」

「えー、だってそっちの方が”イイ”でしょ? せっかくだし、御行か優くんが”抜いて”あげれば?」

「「抜かねえよ(きませんよ)⁉︎」」

 

その間にも、四宮のパニックは加速していた。

 

「ひゃあっ……! う、動かすと、中のぷにぷにが指に絡みついて……んんっ、くすぐったいような、何だかとても変な感じがします……んっ⁉︎」

 

((ど、どエロい……‼︎))

 

白銀と石上の脳内が、見事にシンクロした。

四宮が顔を赤らめ、謎の筒に指を突っ込んでモジモジし、何だか変な声をあげている。

 

「か、会長……! 石上くん……! お願いです、これ、抜くのを手伝ってください……っ!」

 

潤んだ瞳で、四宮が手を差し出してくる。

 

「お、おう! 任せろ四宮! 石上、お前は四宮の腕を支えろ! 俺がこの本体を引っ張る!」

「えっ、僕がですか⁉︎ 四宮先輩に触ったら後で暗殺されません⁉︎」

「いいから早くしろ! このまま昼休みになったら終わりだぞ⁉︎ 命が惜しくないのかっ⁉︎」

「ひぃぃっ、わかりました! わかりましたよ!」

 

かくして。

生徒会長と会計による、決死の『抜き』が始まった。

 

「いくぞ四宮! 少し我慢しろよ!」

「は、はいっ……! いつでも、どうぞ……!」

 

白銀が、ぷにぷにした筒の胴体を両手で掴む。

なんとも言えない生々しい感触が伝わる。

それに、白銀の理性が削られていく。

 

(落ち着け俺! これは健康器具、健康器具だ! 決していかがわしいものではない!)

(うわあああっ⁉︎ この状況、僕が何かのプレイに加担してるみたいじゃないですか!)

 

「「せーのっ! うおおおおお‼︎」」

 

ぐいっ!

 

「——っ、ひゃんっ⁉︎ だ、だめです会長! そんなに急に引っ張ったら、どうかなってしまいますっ!」

「なんて吸引力だ……! これはダイ◯ンか⁉︎」

「掃除機みたいに言わないでください会長!」

「あっ——! ひゃっ、うっ、あっ……⁉︎」

 

引っ張るたびに、四宮の口から甘い吐息が漏れる。

筒の中から「くちゅっ、じゅぷっ」と、絶対に生徒会室で鳴ってはいけない水音が響き渡った。

 

「んっ……あっ……か、会長、もう少し、優しく……ゆっくり動かして、ください……っ」

「ゆ、ゆっくりだな⁉︎ くそっ、こうやって少しずつ前後に揺らしながら——」

「——会長ストップ! それ完全にアウトな動き‼︎」

 

石上が絶叫した。

白銀が真剣な顔で筒を前後にストロークさせている光景は、もはや言い逃れ不可能な状態だ。

なおこれを女子が使っているのこそ奇妙といえるが。

 

「ぬうっ……! だめだ、煩悩が……!  ウン タラタ カンマン……ウン タラタ カンマン……!」

「えなにそれ怖い⁉︎ 怖いですよ会長⁉︎」

「……っ、んぅっ。どうしてでしょう、なんだか頭がぼわーっとしてきて……」

 

四宮の膝が、がくがくと震え始める。

執拗な吸着とマッサージ効果により、お嬢様は未知の領域へ足を踏み入れかけていた‼︎ 脚だけに!

 

「やれやれ、二人とも不器用さんだなあ?」

 

そこへ、天羽がひょいと割って入った。

 

「四宮さん、ちょっと失礼するね」

「あ……天羽、さん……?」

 

天羽は、筒の先端——四宮の指の付け根あたりに、自分の細い指先をすっと添えた。

そして、わずかに隙間を作るように。

ぷにっとずぶりと押し広げる。

 

——ぷしゅっ。

 

空気が抜ける、小さな音がした。

そして少しすると——。

 

——すぽんっ。

 

「……あっ」

 

あれほど苦戦していた筒が、嘘のように、天羽の手によってあっさりと抜けたのである。

 

「ほら。こうやって抜いてあげるの」

 

四宮の細く白い指には、きらきらと光る透明なジェルが糸を引いていた。

それはどこか妖艶で、当の四宮本人も魅惑的である。

 

「はぁ……はぁ……っ、ぬ、抜けました……」

「真空になってただけだからね。空気を入れてあげれば、簡単に抜くことができるよ〜」

 

天羽は爽やかに微笑むと、ポケットからハンカチを取り出し、四宮の指先を丁寧に拭ってあげた。

そのあまりに自然で、どこか色気のある手つきに。

 

「あっ……ありがとう、ございます……天羽さん」

 

四宮は顔をほんのり紅く染めて、小さく礼を言った。

 

「どういたしまして。……ということで優くん、これプレゼントだから。家でゆっくり”使って”?」

「いや、使えるわけないでしょうがッ⁉︎」

 

 

□■□■□

 

 

どことは言わない、薄暗い部屋にて。

 

「いやあ〜、そういうわけで。楽しかったな〜」

「……は?」

 

少年の膝に頭を乗せて寝転がっていた少女が、それはそれは胡散臭そうに眉をひそめた。

 

「後輩くんの反応が素直でさ、いじめがいがあるっていうか……すっごく可愛かったよ〜」

「…………」

 

ぴくり、と少女の肩が跳ねる。

『女』の話題ならまだしも、今度は『男』だと?

 

「……おい、衣緒」

「ん? なあに」

「お前……男もいけるクチだったのか?」

「え? まさか」

「じゃあそんな嬉しそうに話すな」

 

むすっと唇を尖らせる少女。

少年はくすりと笑い、少女の頬を優しく撫でた。

 

「ふふっ、そうかな?」

「……ふん」

「——じゃあ、今ここで”使って”みようか?」

 

少年の声色がすっと低く、甘く変わる。

撫でていた指先が、少女の頬から唇へ。

そのままゆっくりと下へと滑っていく。

 

「……っ、おい。どこ触って……」

「ねえ、桃」

 

少年が、少女の顔を上から覗き込む。

 

「桃が手伝ってくれるなら、いいよ」

「————っ⁉︎」

 

少女の顔が、沸騰したように紅く染まった。

 

「な、なに言ってんだ変態! ころすぞっ!」

「えー? 残念だなあ。じゃあやめとく?」

 

すっくと、少年が少女から離れようとする。

そして視界から消えようとした、その直後——。

 

「……やってやる」

「あれ? 桃、今何か言った?」

「だから……手伝ってやる」

 

少女はいつの間に立ち上がったかと思えば、少年の服の袖を逃がさないようにぎゅっと掴んでいた。

 

「ばか衣緒……」

 

少女の淡い瞳が、必死に少年を睨み上げる。

 

「……早く準備しろ」

 

その言葉に、少年はにやりと笑って言った。

 

「うん、今すぐ持ってくるよ——」

 

 

□■□■□

 

 

翌日の生徒会室。

 

「……あの、天羽先輩。昨日もらったアレですが」

「ん? どうしたの優くん。どう、使ってみた?」

 

目の下にクマを作った石上が、震える手でそれ(未使用)を机に返却した。

 

「親に見つかって家族会議になりかけたんですが⁉︎」

「あちゃー、それは災難だったねえ」

「ほんと、最悪ですよ……。あーもう親の目が怖い」

「じゃあ、今度はもっと隠しやすいのにするかあ」

「——いやもういいですよ⁉︎」

 

石上優の、渾身の声が木霊した——。




天羽家はえっちである。
身勝手な売買を、斡旋など許すはずがない。
ゆえに石上優は、頭が上がらない。
それは、返しきれないほどの恩によって。
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