生徒会室にて。
「その……会長。昨日のは……」
「いや……四宮。昨日のは……」
二人して気まずい雰囲気。
それもそうだ、昨日勢いに任せて肩を貸すだ貸されるだしたものだが、冷静に考えてみればこれはえっち!
彼らは互いに相手のパーソナルゾーンに堂々と入ってしまっていた。
ゆえの気まずさ! 恥ずかしさ! ゆえに結論は!
「「なかったことにしよう(ましょう)」」
天才二人、昨日のことは水に流すことにした。
そう、何もなかったことにしてしまえばいい。
さすれば、自然と二人はいつもの日常に戻れる。
「では会長……」
「ああそうだな」
そしていつも通り生徒会の仕事に戻る。
——はずだった!
「おっは〜ろ! 御行、四宮さん」
生徒会庶務——天羽衣緒。
きゃわいい男の娘の容姿をしたトラブルメーカー!
だが見た目に騙されるな?
中身はドロドロに、すけべ人間であるということを‼︎
「お、おう。天羽、もうこんばんはだが」
「いやいや、画期的でしょう。この挨拶」
おっは〜ろ。
おはようとハローを掛け合わせた造語。
「その辺に転がってそうなものですが……」
「いやいや四宮さん、その辺に転がっていても誰も使っていなかったのなら、それは温故知新なのです」
「温故知新の意味合いがずれています、天羽さん」
「まあまあ、そう固くならずに。——じゃないと、今日もまた、肩ほぐしちゃいますよ?」
四宮かぐやの身体がびくりと跳ねた。
白銀御行がいぶかしげに天羽に問う。
「まさかだが天羽庶務……また変なものを持ってきたりしていないよな?」
「流石、御行。そのまさかというやつだ」
「ふっ……やっぱりそうか。ってええ⁉︎」」
最後、四宮も重ねて驚いたのは気のせいではない。
天羽は秀知院の制服のポケットから、とある小さな紙の箱を取り出した。
その箱の表面には、とある数字が彫られている。
「0.005……? 何の数字でしょうか?」
「なんだ見慣れない数字だ——ってまさか⁉︎」
それは、超超最先端技術。
市販では003やら001が売っていることだろう。
しかーし! 天羽の技術はそこを突破した。
それが新商品、0005(レーサンゴー)である。
「もしかして……本当に実在したのか?」
「ふふふ、我らの技術力を舐めてもらっては困る」
「え、会長。天羽さん。一体何の話を……?」
天羽がにやりと笑んだ。
そして、レーサンゴーの小箱を四宮の手に渡す。
「……? これは、一体」
「中身を取り出し見てください。四宮さん」
「は、はあ……。わかりました」
四宮は何も疑う様子もなく、小箱を開けた。
ぽとんっ——。
そして手のひらに乗ったそれを、首を傾げて見る。
不思議そうな表情を浮かべて、白銀を見た。
「会長は……これが何だかわかりますか?」
——白銀、圧倒的ピンチ!
その最高峰の頭脳をフル回転させて言葉を絞り出す。
「そうだな……四宮。それは——」
「いわゆるコンド——むぐっぅ⁉︎」
しかし、フル回転させた脳みそも意味がなかった。
「黙るんだ天羽! 鎮まるんだ天羽!」
「ぐぉんごーぐげぐう‼︎」
「ご、ゴンゴーグ? 何かの名称でしょうか……?」
「その口を閉ざせ天羽⁉︎」
「がぐげてぢのみやざん!」
「こ、この卑怯者!」
そんな二人を、四宮が呆れたように見つめた。
「前にも言いましたが、あまり男子同士でそう……えっ。えっ、えっなことはダメですよ? 会長?」
「うっ、そう言われると厳しい……俺は何も悪くない、むしろ正しいはずなのに……」
白銀はどこか気まずそうに顔を顰めた。
「ともかく、天羽さんを離してあげてください。彼も悪気があったわけではないと思いますので」
「う、うーむ。仕方ない」
四宮のその一言もあってか、白銀はようやく天羽を解放することに決めた。
「助けてくれてありがとうございます四宮しゃん……危うく傷物にされるところでした」
「傷物……? どこか怪我でも?」
その言葉に反応した天羽がにやりと顔を歪めた。
「はい、四宮さん。傷物とはつまり——」
「うおおおおお⁉︎」
白銀はもう一度男子同士のえっ! を再開した‼︎
---
そして暫く時間が経ち。
「はあ……はあ……。やるな、御行」
「ふう……ふう……。やるな、天羽」
ここにおいて両者の「やるな」の意味合いは違うと言うことに注意するように。
「…………」
そして二人が本当にえっ! な関係なのではないかと目を若干冷たく細めている者が一人。
「いや、すまない。四宮、その”ゴム”はこちらに渡してもらえると——」
「——これ、ゴムなんですか?」
その時、白銀は己の失言を呪った。
(やらかした⁉︎)
「いや、その……まあ何と言うか、ラテックス(ゴムの木から取れる白い樹脂)というやつだな。うん」
「つまり天然ゴムということでしょうか?」
「いやそれ、普通に合成ゴムですよ」
白銀はかっと目を見開いて天羽を威嚇した。
がしかし、問題の当の本人はどこ吹く風である。
「四宮さん。それ、指にいれてみてください」
「天羽⁉︎」
「こう、でしょうか……?」
「そうそう、そしてもう片方の手の親指と人差し指で’わっかを作って下にシコるっていうか」
「シコる……?」
「ああつまりだな! 下に引っ張ってるって意味だよな⁉︎ おいそうだな天羽庶務‼︎」
白銀、久しぶりの本気威圧。
パワハラに負けたので天羽は悔しそうに頷いた。
「まあ……そういうことにしましょう」
「わかりました。では……」
そして言われるがままに、ゴムがかぐやの人差し指をすっぽりと覆った。
「うーん、これじゃあ流石に細いですね」
「ああ、四宮は指が細くて素敵だ!」
「か、会長……っ⁉︎」
曲解させた結果むしろ真っ直ぐになって伝わった。
「そんな……褒めても何も出ませんよ?」
「うーんまあ、指から出たら困るって言うか」
「その指はまさに心を穿つようなものだな!」
さすがに穿つように出たら怖いだろうに。
とはいえ、四宮は満更でもなさそうだ。
「それにしても……随分と薄いですね、これ」
「0.005なので、こらあもう、すごいですよ」
「もしかしなくとも……厚さのことでしょうか?」
「そうだな、最近は暑くなってきたからな!」
「会長……?」
「いや、薄くしたんですけど」
これはもはやカオス空間である。
「天羽‼︎ ちょっとお茶買ってきてくれ! もう俺は暑くて暑くて仕方がない⁉︎」
「ええ、でもまだ外25度も超えてませんよ?」
「か、会長? 熱があるなら保健室に……」
「天羽、会長命令だ。頼むからお茶を頼む……お願いだから、今だけは頼む。庶務としての仕事だ」
「う、うーん。わかりましたでもそのゴム捨てないでくださいよ? ”遊んで”使って欲しいので——」
「——いいから早おういけえ!」
---
それから十分ほど後。
「御行ぃ? お茶持ってきたよー」
天羽が人数分の麦茶を買って、生徒会室に戻ると。
そこには——。
「なにやってんのお⁉︎」
——ゴムを思いっきり引っ張り合っている生徒会長と副会長の姿があった。
「ちょっと⁉︎ これそういう使い方じゃないんですが⁉︎ ゴムが泣いてるよこれ!」
その言葉に、四宮が不思議そうに言った。
「天羽さんも参加しますか? 今、会長とこのゴムを引っ張りあって一番先に離した方が負けのゲームをしているのですが」
「えっ、3Pってこと⁉︎」
「それは違——」
「——ええ、どうせなら三人で遊びましょう」
「四宮⁉︎」
四宮による3Pのご提案に対して天羽は——。
「じゃあこうしませんか? 一番最後まで残った人が何でも言うことを聞かせられるというのは」
邪悪な笑みを浮かべて、そう返した。
白銀、四宮。両者の目の色が変わる。
「ほう……なるほど」
「ふむ……そうですね」
そして全く同じタイミングで——。
「「いいだろう(でしょう)‼︎」」
——かくして、今ここに3Pが始まった。
「では公平にじゃんけんといこう」
「そうしましょう」
「うん、それでいいよ」
さいしょはグー、じゃんけん——。
「「「ポン」」」
最初に負けたのは、天羽だった。
「あちゃー、こりゃあまずいなあ(適当)」
天羽は非常にがっかりしたような表情を浮かべた。
「では残りは私たちですね」
「そうだな、だが四宮。勝たせてもらおう」
「ふふっ、できるものなら」
そして二人の厚き(暑き)闘いが始まっ——。
「「ポン」」
——終わった!
「ふふ、私の勝ちですね」
「くっ、だが仕方ない。勝てばいいだけの話」
一番手、四宮。
二番手、白銀。
三番手、天羽。
まずは四宮がゴムの場所を選んだ。
それは輪っかの一番下の部分、つまり根本であった。
普通に考えてここが最強だろう。
次に、白銀がゴムの場所を選んだ。
それは輪っかの先端部分、つまりまあアレの場所だ。
二番手としてはベストな安牌だろう。
最後に、天羽がゴムの場所を選んだ。
まあもう選ぶというより、自動的に決まるのだけど。
つまり輪っかの中央部分、一番不利な場所だ。
(勝った……!)
(勝ったわね……!)
考えてみて欲しい、縄を引っ張りあっている二人の間に立って、その間から縄をひっぱって耐えねばならぬのだ。
これは力関係的に一見有利に見えるが、実は異なる。
なぜなら、もし縄を引っ張り合っている二人が協力して、ベクトルをそれぞれ45°傾けて引っ張った場合、最も力が必要になるのは真ん中の位置であるからだ。
つまり、これは最初から根本と先端の協力によって成り立つ絶対勝利の方程式なのである。
「じゃあ、始めるか……」
「ええ、そうしましょう」
「ふむ、これは仕方がない」
勝利をすでに確信している二人。
「では——」
「「「スタート!」」」
三方向から、ゴムが一斉に引かれた。
根本の四宮と先端の白銀は、示し合わせたように斜め45°へ。
完璧な連携! 完璧な方程式!
——のはずだった。
(……ん?)
白銀は違和感を覚えた。
指先が、つるりと滑る。
(なんだこれ……摘めない⁉︎)
それもそのはず。
先端は小さな突起で、指先で摘むほかない。
しかも表面にはご丁寧に潤滑剤まで付いている。
対して天羽は——。
「ふふふ、御行。どこを見ているのかな?」
その手には、ぐるぐると二重に巻きつけられたゴム。
キャプスタン効果!
巻きつけた角度に応じて、保持力は指数関数的に跳ね上がる‼︎
「天羽……お前まさか、最初から……!」
「くくく、計算通り」
天羽が一歩、四宮の側へ寄った。
すると天羽と白銀の間がぐんと伸び、張力が白銀ひとりに集中する。
白銀は滑らせまいと、爪を立てて摘み直した。
——それが致命傷だった。
先端の付け根は形が急に変わるので、ただでさえ力が集まりやすい場所。
そこに爪の一点集中。
おまけに、厚さレーサンゴー!
「うおっ⁉︎」
支えを失った白銀の腕。
それが、自らの全力で後ろへすっ飛んだ。
ガンッ! 凄まじい音。
「痛ってえ⁉︎」
一番手脱落、白銀。
「会長⁉︎ 大丈夫ですか⁉︎」
四宮は思わず駆け寄った。
——その両手を、空にして。
「……あ」
「ふむふむ」
3Pの勝者、一人悠然と微笑む!
そして天羽はにこりと微笑んで(要求を)言った。
「圭ちゃんとデートさせて」
□■□■□
とある部屋。
薄暗い照明の下。
「桃。今日はこの『0005』、試してみない?」
小さな箱から、信じられないほど薄い一枚。
少女は露骨に嫌な顔をした。
「……またそれか。いい加減にしろ」
「えー、せっかくの新作なのに。感触、すごいよ? ほとんど何も貼ってないみたいで」
「知らん。自分で使え」
「そっかー、じゃあ使っちゃお」
少女は反射的に手を引こうとする。
しかし少年の指がそれを許さない。
「動かないで。破けるから」
「……くっ」
ほとんど熱を通してしまう。
触れているのか、いないのか。
奇妙な密着感。
「ほら、感じてるでしょ。普通のとは全然違う」
「……うるさい」
声に力が入っていない。
目を逸らしたまま、唇を噛んでいた。
できるだけ反応を抑えようとしている。
「あ、そうだ。そういえばさ」
「……何」
「『圭ちゃんとデートさせて』って言ったんだ」
少女の身体が、ぴくりと止まった。
「……は?」
「圭ちゃん。白銀さんの妹。可愛いよねー」
空気が変わった。
「……ふざけるな」
声が低かった。
「冗談だろ?」
「本気だよ。約束したし」
少年はにこにこと笑う。
少女は黙ってそれを睨む。
「……消えろ」
「え?」
「その話、今すぐ忘れろ」
少女は自分から掴む。
力は強くない。
むしろ丁寧なほどに。
とてもとても熱い吐息。
「お前がそんなこと言うなら……」
「なら……?」
「私が、ちゃんと『試して』やる」
肌と肌の間にある隔たり。
ほとんど存在を主張しないそれ。
熱が直接伝わってくる積極性。
「今日は随分と珍しいね」
「うるさい」
少年は満足そうに目を細め、少女の髪に指を滑らす。
「可愛いね、桃」
「……ころすぞ」
「それは嫌だなあ」
「……行くな」
「どうしよっかなー」
「……バカ衣緒」
□■□■□
白銀家自宅にて。
「なあ……圭ちゃん」
「は? なんの用」
白銀御行は情けない気持ちになりながらも、妹である白銀圭にこうお願いし、
「今度、天羽が圭ちゃんとその……遊びに行きたいって。言っててそれで——」
「——いくいく! 衣緒さんと絶対行く‼︎」
お願いする前に承諾された‼︎
これってR15の範囲内です……よね?(確認)
男の娘要素入れてるのに全然活かせてない……次回、圭ちゃん登場!
この作品も「曇らせ」タグいけます? いけない? あっそっかかぁ…