白銀御行には妹がいる。
白銀圭である。
そしてその妹は今——天羽衣緒という変態とデートをしている‼︎
「……会長。本当にこの格好で大丈夫でしょうか」
「四宮。尾行の鉄則は『街に溶け込むこと』だ」
「つまり問題なし……と」
サングラスに深く被ったハット。
お互いにトレンチコートの襟を立てた男女が、日曜日のカフェの陰から熱視線を送っていた。
完全に不審者である!
ちなみに四宮のは海外製の高級品で、白銀のは父が「持ってけマイサン」と託したものである。
お巡りさん、この人たちです‼︎
□■□■□
「圭ちゃん、これうちの新作なんだけど試してよ」
「えっ、衣緒さんの新作ですか? 試したいです!」
天羽がポケットから取り出したのは、薄型のスタイリッシュなパッチ。
「ちょっと首筋に貼るね」
「はい! ……わっ、冷たい……あっ! んんっ⁉︎」
ぺたりと貼られた瞬間、圭の肩が小刻みに跳ねた。
「こ、これは一体……?」
「えっとね、遠隔バイ——じゃなくて、血行促進装置だよ。つまり凝ってるところが気持ちよくなるように設計されてるんだ」
「何だかすごそう! ありがとうございます‼︎」
圭は華咲く笑みで純粋に喜んだ。
天羽も微笑み「じゃあ行こうか」とカフェを出た。
□■□■□
「あいつ……! 圭に怪しいシール貼りやがった!」
「会長、落ち着いてください。それより、天羽さんが席を立つ際、足元に何か落とされましたよ?」
白銀がカフェの物陰へ滑り込み、拾い上げたのは——
五百円玉ほどの大きさの小さな機械。そしてご丁寧に説明書まで。
「四宮……触るな! それは危険だ!」
「ですが会長、ここに『遠隔スイッチ』と書いてありまして——あ」
ピピッ!
「「あっ」」
□■□■□
うなじにペタリと貼られた装置。
それはまさに、今ここで会話している最中であった圭の身に異変を起こそうとしていた。
「へぇーっ。それはお兄さんが悪いねえ、うんうん」
「そうなんですよ! 兄はいつも勝手なんです……。誕生日にこっそり財布にお金入れてるのだって、知ってるのに、頑なに知らぬ存ぜぬで……!」
「うんうん、圭ちゃんが正しいよ。そういうのはまあなんというか、ウザいもんねえ」
「そうなんですウザいんです! 衣緒さんはわかってくれて嬉しいです」
「じゃあ今日はそんなの、ぱあって忘れさせちゃお」
「そ、それは……その。よろしくお願いします」
「ふふふ任せて、先輩だからね。リードするよ」
悪い男と騙される女の見本市‼︎
カフェを出た二人は、ショッピングモールをうろつきながら、そんな話をしていた。
——その時だった!
「あれ……? 何だか首筋が熱くなってきたような——ひゃぁっ⁉︎」
圭がびくんと肩を高くあげ、うなじをくねらせた。
まるで生娘の初めての快楽かのように。
それはもう非常に温かな感覚が脳に伝わった。
「ん、どうしたの? 圭ちゃん」
「い、衣緒さん……その。コレが反応したみたいで」
「ああ、血行促進の時間だろうね。ランダムな時間に反応しちゃうんだけど……大丈夫そう?」
「は、はい。ちょっと驚いただけ……です」
「良かったあ。圭ちゃんは真面目でいい娘だから、この試作型のテストプレイヤーにぴったりだと思って」
「まじめでいいこ……」
「そうそう。だから今日の二人だけのデートが終わるまで試したいんだけど、それまで耐えられそう?」
「はい! なんとか頑張ります——!」
□■□■□
白銀御行と四宮かぐやは、その様子を遠くからばっちりと押さえていた。
「おい四宮……」
「ええ会長……」
「これは、あれだな?」
「そうですね、これは」
そして二人息ピッタリに結論づけた!
「「大ピンチだ(です)⁉︎」」
五百円玉ほどの小さな機械、その説明書に書かれていた言葉とは……。
『これは遠隔スイッチです。お二人が互いの手でこれを覆い包まないと、圭ちゃんに悪いことが起きます。——制限時間:デート終了まで』
「いいか四宮。これは妹を守るために仕方なく……」
「……ええ。仕方なく、ですよね!」
「そうだだからこれは別にやましい気持ちとかがあるわけではなくてだな」
「……はい、仕方なく、ですよね!」
そして互いに顔を赤くさせながら(完全に不審者スタイルなので表情は見えにくいが)、同時に頷いた。
「手を……繋がないか?」
「……ええ、もちろんです」
二人の手の温もり、そしてその中には遠隔スイッチ。
(うおおおおおお⁉︎ 俺、四宮と手繋いでる⁉︎)
(えええええええ⁉︎ 私、会長と手繋いでる⁉︎)
そして同じく思考を通わせた。
((ありがとう! 天羽『さん』‼︎))
□■□■□
「ふむ……想像以上に早かったな。これは流石に計算外だったな」
「? どうしたんですか、衣緒さん」
「ああ、何でもないよ圭ちゃん。それにしても人が多いねえ〜。もしかしなくてもボクたち、カップルに見えちゃってるのかなあ?」
「か、カップル⁉︎」
「もしくはお兄ちゃんとその妹か」
「お、お兄ちゃん……衣緒さんが私のお兄ちゃん⁉︎」
圭が頬をかぁ〜っと紅く染めた。
天羽はにやにや笑いながら、手を差し出す。
「おてて繋いでみる? ボクの妹圭ちゃん」
その魔性の誘惑に、圭は駆られそうになって——。
ぶんぶんぶんぶん!
「い、いえ! 大丈夫です。その……手はまだ繋がなくて大丈夫です」
「ん、『まだ』?」
「っ〜! 衣緒さん、あまり虐めないでください‼︎」
「えー、でも今の圭ちゃんとっても可愛いよ?」
「だからそうあまり変な言葉は——」
「——どちらかというと、ボクたちは姉妹かな?」
圭が目を大きく丸に見開いた。
それもそのはず。
確かに目の前にいる年上の男性は非常に整った中性顔で、女装させてしまえば本当に見間違うことだろう。
「……ずるいです」
「え、そうかな?」
「はい。私だって、衣緒さんみたいなお姉ちゃんが……欲しかった、です」
その恥ずかしげながらも真っ直ぐな圭の瞳に、天羽は正面から受けとって、そっと微笑んだ。
そしてから優しく頭に触れて、こう言う。
「でも今日はお姉ちゃんじゃなくて、衣緒として圭ちゃんと遊びたいな?」
「——っ! は、はい‼︎」
「うん、元気で結構。じゃあ今度はあっちの方向の店を見て回ろうか!」
□■□■□
びきびきびき!
「か、会長……? その、少しばかりこちらの手の力が強いと思うのですが」
お兄ちゃん(本物)、妹のメス顔を見てムカムカ‼︎
だが、手を今繋いでいる人の言葉に我に返る。
「あっ……。す、すまない四宮! その、ちょっと力んでしまったようだ」
「そ、そうですか……大丈夫ですよ!」
「……そうだな、少し手汗をかいてしまった。ちょっとコレ(遠隔スイッチ)持ってて貰えるか?」
「は、はい……わかりました……」
しゅんとした様子の四宮。
どこか賢者モードの白銀。
(残念ね……でもまた会長の方から手を繋ごうと言ってくるのなら、繋いであげても構いませんけど‼︎)
(おのれ天羽……一生尾行してやるからな覚悟しておけよ……?)
白銀と四宮が、目的人物たちから目をそらす。
——そんな僅かな時間のはずだった。
ピピッ!
人知れず、悪魔の音が鳴っていた。
しかし残念。
自分たちの世界に入っている二人は気づけなかった。
□■□■□
「圭ちゃんこのウサギの洋服どう⁉︎ 似合ってる?」
「ふふっ、それ全然似合ってませんよ。衣緒さん、それならこの犬の柄の洋服の方がまだ合うと思います」
「え〜、でも寂しがりやだからうさちゃんかもよ?」
天羽が洋服を自分の身体に重ねては、それを見て圭が楽しそうに笑ってつっこむ。
まさにここが、ヴァルハラというやつであろう。
「じゃじゃ、圭ちゃん。これこれ、今度は圭ちゃんがこのウサギの洋服着てみてよ! 絶対似合うって!」
「ん〜」
「ほらほら、このウサちゃん可愛いのになあ?」
「はぁ〜。分かりました、一回だけですよ?」
「やったあ! じゃあ離れて待ってるね‼︎」
圭はウサギの洋服を渡されて、満更でもない顔をしながら、試着室へと入っていった。
(まったくもう、衣緒さんは本当にワガママだなあ)
そんなことを考えながら、洋服を一枚脱ぎ。
白いそのきめ細やかな肌があらわになり。
誰にみられるわけでもなく、着替えられる。
その時だった——。
「——っ⁉︎ んぁ、きゃあっぅ⁉︎」
先ほどよりもより強い、熱いとまでいえる快楽。
血行促進、凝りが無理やり揉み解される感覚。
悪い血や溜まっていたヘドロが流れていく心地よさ。
「はぁ……はぁ……っ」
顔が温かく火照っててくる。
圭は自分の手のひらを頬に当てた。
ひんやりと少し和らぐ。
(あっ……! 衣緒さんが待ってるんだった!)
はっと、圭は意識を切り替えて試着室から出た。
□■□■□
「おい四宮……俺の妹は今どうなっている?」
「はい会長、今まさに試着室から出てきました」
「よし、じゃあ俺も少し偵察しよう」
白銀は妹が試着室に入っていくのを覗かないという、紳士的な心はしっかりと持ち合わせていた。
四宮も警戒にあたっていたが、特に圭に大きな変化がないことから、何もないと判断した。
「特に……悪いことは起きていないようですね」
「うむ……そうか。それなら、良いのだが」
若干落ち込む両者。
その心は同じで、手を繋ぐための『悪いことが起きる』という口実が効果を発揮しなかったからだ。
(何だよ……悪いこと起きないのかよ。いや、起きない方がいいのは分かってるんだけどさ? せっかくの四宮とさっきまで手を繋げていたと言うのに)
(残念ですね……何も起きなかったということは、会長は私を誘ってくる可能性が減った。いえ、悪いことが起きないのは良いことですが……うむむ)
何も起きていないと、判断してしまった。
□■□■□
「あっ、うさちゃん圭ちゃんだ!」
「はあっ、お待たせっ……しました」
「あれれ? 顔赤いけど大丈夫?」
「はいっ……問題、ありません」
「本当に? 大丈夫? 休憩する?」
「いえ、衣緒さん。あの血行促進のバッチが、少し効果が強かったみたいで……問題ありません!」
圭は肩で息をしながらもキッパリと言った。
「なら良かった。でもまだ試作品だからパワー調整が上手く行ってないのかも……。弱めようか?」
「い、いえ! せっかく衣緒さんが勧めてくれたものですから。それに、何だか凝りも改善されてるような気がして……その、まだやりたいです!」
「ボクので、本当にやりたい?」
「はい‼︎ 衣緒さんのためなら!」
明確に違うが、ここにつっこむ♂のは野暮である。
「よし、可愛い圭ちゃんにはご褒美をあげます」
「えっ⁉︎ なんですか……?」
「ボクが圭ちゃんの姉として、このウサちゃん洋服を妹ちゃん圭ちゃんにプレゼントしましょう!」
「い、いえ! そんなことしなくても別に——!」
「——お姉さんに任せなさい‼︎」
「お、お姉さん……⁉︎ 衣緒さんが……⁉︎」
目を白黒させる白銀圭。
そこにさらに畳み掛ける天羽。
「それとも……お兄さん。ああ、先輩とか血縁じゃなくて。ここでは”男”としての方がいいかな?」
「——っ。ごくり」
「ふふっ……可愛いなあ。圭ちゃんは。こうちょっと虐めたくなっちゃうよ?」
「サディスト……衣緒さんは、へんたい」
「よく言われるなあ。——あっ、店員さん! この洋服を包んで貰えますか?」
そして誰に聞かれるでもなく、圭は風に流れるように独り呟いた。
「ああ……かっこいいなあ」
□■□■□
そしてそれを偵察する不審者二人組。
「何も……起きていないな?」
「ええ……そのようですね?」
圭と天羽をこっそり後ろから追う、白銀と四宮。
その時、二人がエスカレーターに乗って上の階へ進んでいくのを見た。
「四宮、ここの上の階には何かあったか?」
「ええと……今調べますね。——っ⁉︎」
「ど、どうした四宮⁉︎」
「ふ、不埒です」
「不埒⁉︎ 一体どういうことだ?」
頬を赤らめる四宮、何事かとそれを見つめる白銀。
「上の階には——」
「上の階には……?」
——答えはこのあとすぐ!
□■□■□
暗がりの部屋にて。
「ねえ桃。いや桃ちゃん」
「なんだよちゃん呼びなんて気色わりい……」
少年が、にこにこしながら少女に紙袋を渡した。
「……なんだこれは?」
「プレゼント。桃ちゃんへの」
「だからちゃん呼びはやめろ」
嫌そうな顔をしながらも、それを受け取る少女。
そして中身を開封して、取り出す——そこには。
「なんだこのへんてこりんな洋服」
「ウサギの洋服! 桃に似合うと思って」
「似合わねえよ私は、こんなの」
「でも桃、寂しがりやだからうさちゃんかもよ?」
「は?」
ショッピングモールで買った少年イチオシ。
「ねね、今日それ着てくれない?」
「嫌だ」
「え〜? 絶対に似合うのに〜」
「絶対に嫌だ」
すると少年は「はぁ……」と深いため息をついた。
「なんだよ……?」
「いやあ? 白銀さんの妹は喜んでくれたのになあ、って思って」
「——は?」
少女がぐいっと少年を押し倒して馬乗りになる。
「今なんっつた?」
「え? 絶対に似合——」
「——その後を言え」
凄まじい剣幕で睨みつける少女。
どこか困った顔をする少年。
「早く言え。じゃないところす」
「おっかないな〜」
「いいから」
「わかったよ。でも一回だけだからね?」
「早くしろ」
少年は馬乗りになった少女を逆にぐいっと寄せた。
——驚いた様子の少女。
互いの瞳とが真っ直ぐに刺さり、鼻はもはや触れてさえいるほどの超至近距離。
そして、溶けるほど甘い声でこう囁くのだ——。
「桃、いっしょにうさちゃんしよ?」
「っ——⁉︎」
□■□■□
圭と天羽は次にどこに行くかを考えていた。
「ちょっとたくさん歩いたし、休憩したいねえ」
「はい。でもまだご飯には早い時間ですし……」
「——そうだ! これなんてどうかな圭ちゃん」
そしてとある一枚の紙を見つけて止まる。
館内フロアの壁面に貼られていたポスター。
——それは。
「映画館、いっちゃおうか」
次話に続く‼︎
原作の流れとか関係なしに書いてるけどこれもうわかんねえな……?
みんなー! オラにパワー(お気に入り・評価)を分けてくれー‼︎